アルヴィスの栄光(3/4)
それが、偉大なるアルヴィスの艦容である。
旗艦的運用を可能であり、陸上艦艦隊の運用の、その支援母艦機能をも持たされている。
類を取らない、強大な戦闘能力と、そして貨物積載の能力を持つ、センタリア屈指の巨艦の一つである。
巨大かつ、勇壮なその艦影のさなかにあって、その艦橋ブリッジにいる、その指揮官、艦長、の彼に至っては…
…しかし、不機嫌、というやつであった。
「……観測の飛竜からの通信は?」
いえ、それは……
「 まだか。」
副官としても気をやきもきとして仕方がない。
というのも、このアルヴィスを預かる、この、マグナホンという艦長は、
普段は些細なこともあまり気にせず、下級の兵士たちとも分け隔てなく、快く接してくれるところであるのだ。
であるが、
反面、感情的になりすぎるきらいがある。
特にこのように、前線の遥か後方を移動中なのにも関わらず、単館でのみ、戦闘態勢を発令して敷いている、ときたもんだ。
“実戦時の感覚を、実践して務めさせ、操練として理解させるため……”という名目ではある。
なるほど、たしかに本艦は新造まもなく、乗り合わせのクルーたちというのも、その実、ほぼ新兵が大部分を占めていた。
難度なんべんかはその慣熟航行というのは出たということではあったが、
しかし、このアルヴィスは、残念なことに、“癇癪持ち”のフネであった……ということも一つあった。
それというのは……
艦長、機関の運転が! 脱調を確認!
「またか!……機関再始動、」
ヴゥン、と低下した魔導機関とその魔導圧力との関わりで、アルヴィスの浮上走行に、滞りが生じた……
通荷されている魔力の圧力の変動で、ブリッジの魔導照明などが、ノイズでちらつく。
多少余分は、魔導蓄圧器に蓄圧された残余魔導力によって、推進走行は可能である。
なのでそのうちに、速やかに、機関を再起動。
所定の操作と動作を執り行う…………うまくいったようだ。
そうして再び機関は始動され、そして、再度の推進を開始……
ヴヴヴ、という魔導機関の作動音が、再び低く低重音として、唸りを上げ始めた……
「まったく、こんなところで、機関不良で立ち往生してみろ。
それを飛空艦隊のやつらにしれてみろ……どんな目と指で、笑われるか!」
飛空艦艇は、
飛竜ほどの速さではないが、それでもこの陸上艦よりかは速度は早い。
その飛空艦を擁する飛空艦隊は、現在、エルトール軍との戦線正面にて、激しい戦闘を開始している、とのことであった。
そんな飛空艦に対する陸上艦であったが、その陸上艦の中でも、ほかから追い抜かれて……追いつけず、おいていかれて、孤立して……
なんとか追いかけ追いかけ、推進と航行を執り行っているのが、現状のアルヴィスの状態であった。
つまるところ、生まれて軍に入隊してから陸上艦筋一筋でやってきたこのマグナホンにとっては、その2つというのが、なんとも懸案かつ腹ただしいことこの上なかった……ということである。
まあとはいえ、このマグナホン以下アルヴィスのクルーたちは、なぜか?どういうことか、
雨天を遮る遮蔽が天井としてあるのに、
しかしどういうわけか、その着衣と携行品として、合羽と傘を着用携帯していた。
これというのも、曰くがある……
「……不味いな」
ちょうど、午後の時間ということもあり、乗員の手空きのものが、艦の設備と清潔衛生食品を用いて製造した、アイス・クリームを持ってきていたところであった。
そうなのであるが……銀の缶容器から取り出して盛り付けようとした片っ端から、天井類などから漏れてきた水で、溶けて薄まってしまった。
その溶けと水気が入り混じったアイスクリームを、しかしマグナホンは暗食している。
これというのも、もう、慣れたものだ……
いやだからといって是とはしがたいし、そうとはしていないのではあるが、しかしこのような物事が、このアルヴィスの“癇癪”としてのもうひとつであった、
……構造的な不具合で、冷却配管からの水の漏水が慢性症状として生じている。
魔導発動機の稼動に対する冷却弁が開けられるたびに、あちらこちらから水の雨漏りが滴り落ちてくる……
ということであった。
メーカー曰く、設計と部品単位の製造では完璧であったはずなのに、
肝心の、こちらセンタリア国国内での工廠における、ノックダウン組み立て。
これの際における、各種の不手際……平たく言うと、組み立て工事ミス……
ではないか?というのが、センタリア国議会での質問における、正式な答弁でのこと、
……ということであった……
そうして、機関不良から復調して、再度の快調なる機関運転に復帰した今、
雨天のもとに暴露したわけでもない艦橋ブリッジの中なのに、
配管漏れした水類などの除けに、クルーは合羽や傘を持ってさしていなければならないほどであった。
失敗艦、とは認めたくないが、しかし試作艦、実験艦、としての性質も持たされて建造がなされていたのも事実だ。
こんなアルヴィスの“お守り”を任ぜられた彼ら彼女らは、斯くしてこの穏当ならぬ勤務の艦橋に、今日も今日とて、耐えていた……
雲ひとつ無く澄み渡っていて、晴れていたはずの空から、雨粒が振り始めてきたのもこのときのことであった。
お天気雨、という程度の、軽い風雨のほどではある…
機関冷却の率はかすかによくなるであろうが、反面、地面が湿気ると操艦の具合にも変わりがでてくる。
…まるで、水好きのアルヴィスの守護精霊が招き寄せてきたものとも取れるが、
同時に、乗員たちのその心と気分をも、同じように象徴し、形容するかのごとく、でもあったろう。
……にわかにその状況に変化が起きたのは、このときのことである。