アルヴィスの栄光(2/4)
そうして陸地の上を、進んできたのが…クジラ、こと、…陸を這う、巨大な船体。
鳥瞰だったり真上から見れば、まあそう思えるであろう。
ただ、クジラといっても、ナメクジのように這っているようにも、側面から見たときにはそう見えるかもしれない。
けれども、それらは船底のベースシャシーに懸架装着がされた、軽質型・反重力装置を保護するための外殻・防護カバーだ。
お世辞にも装甲と言えるほど盤石なものでもない。
砂よけ、小石よけの、ただの薄板の、殻のようなものですらある。
反重力装置の魔導エンジンが出力不足気味であることもあり極限まで軽量化が図られた結果として、
この部位に関しては、跳ねた礫があたれば、穴が空いたり欠けてしまうのもよくある程度の耐久性しかない。
それが裾のフリルかのように、あるいはスカート状のそれらが履かされている、ともあって、やはり奇々怪々とした見た目の、それであろう。
そして今、陸上艦というそれというのが、大規模部隊のそれら、として、多数がこの街道を進出し、そして今、通行していた。その通行が、進行しつつあった。
たった今のは、陸上スルーブと言われる。
数ある陸上艦の種類の中でも、そこそこ小型な部類に値する。
乗員は十二名多少程度で、これは乗員定数を満たした場合であり、
最低限の操艦だけならば、それには三名程度から行うことができる。
艇の全長は、およそ23メイルほど。船幅は7メイルほどである。
機動性に関しては、戦闘機動時において、魚雷艇相当の性能を誇る。
艇の火力としては対装甲・小型対舟艇対硬目標用ブラストログの発射補助ランチャーを持つ。
それ以外には多用途目標型の・FCS連動魔導連発連射機銃のガンマウントなどである。
構造としては、艦体後部に貨物積載甲板があり、ここの部位に、
プレハブ式ユニット構造物を装着すれば一種の装甲兵員輸送車としての運用が可能であるほか、
その歩兵部隊等の母艦として、それたちの用いる自動貨車や鬼車を積載することも可能である。
そして特に、今しがたの個体のこれには警務隊(MP)の塗装として白のマーキングがされており、
とりまわしと運動性の良いこれを先導車として今縦横無尽に使いこなしているのがたった今で、
通行警備のその交通整理・誘導役として、本隊よりも先出して、その先導を行っていた。
そうすると、東の方角……母なるセンタリアの国土の方向、
その丘地の起伏の向こうから、でてくるでてくる……
他多数の陸上艦。
今しがたとおなじような陸上スルーブはもちろん、
それよりも規模が上の、陸上コルベット・陸上フリゲート、
いやいや、もっとある、数等に分けられる、戦列艦の艦影が、今、山の稜線から見えてきた……
駆逐艦種以上の戦列艦だけで、総数・6隻。
スルーブやコルベットを含めれば、およそ20の数を超える。
艦隊規模の、任務部隊だ。
これらの大艦隊が、前進と進出を開始していたのだ。
士気も相応に高まろう……とするところであろうが、しかし、同時に災難もあった。
陸を無防護で交通する“一般の”センタリアの兵士たちは、直に悲劇が巻き起こったのだ。
横を進むそれらによって砂埃が巻き上げられていったのだ。
ゲホゲホと咳き込んだり目にその土埃がはいったり……などと、無防護の兵士たちにとっては大迷惑この上なかった。
たまらず! 恨めしく罵詈雑言を投げつけていくのがその大勢であったろう。
そうして、陸上艦たちは過ぎていった…
かぶさってくる土や砂や礫どものその根源が居なくなった、と見て、
センタリアの陸軍歩兵兵士たちは、安堵の息を漏らしかけた。
…かに見えた。
……丘地の丘陵の向こうから……
一隻だけ遅れて、しかし今までのやつの規模以上の、巨艦があらわれつつあった。
シルエットが現れ切った時、センタリアの陸軍歩兵兵士たちは、息を呑んだ。
……その丘地の上を、クジラが陸を進んでいた。
今までのよりもひときわ大きなクジラだった。
いや、正確に言えば、それは生物としてのクジラでは、当然無い。
だがその見た目は、陸の上に打ち上げられた大鯨というのが、その形容として、やはりふさわしいだろう。
それも、よくみれば更に奇妙だ。
ひっくり返ったクジラが、小さいのがふたつ、でかいのの前端に融合して張り付いたような構造をしている……
三胴艦、というやつだ。
軸が後方に伸びる二叉槍か肉刺しの先かのようにまとめられたその形状は、果たして立派この上ない艦影を讃えていた。
先出した陸上艦の中にあったろう巡洋戦艦級よりも大型ときたもんだ。
全長は250メイルを超えていて、この世にある陸上艦の中でも、稀有なほどの巨大さだ。
その艦名を、アルヴィス、と呼ぶ。