表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

234/278

イメージテキスト・いつか先の物語(4/4)

今回の連続投稿はこれにて一時的に完了いたします。

皆様ごゆるりと…


     * * * * *



(SIDE:とある訓練生の視点)




「………………」




…………




「……~~~!!!」




……クソッ、一体何だったんだ!?




 壁を腕でどつきかけたその時の俺に、掛けてきた声があった。




「 どうだ、竜騎兵上がりには馴染めないか? 」




 ……そう、こいつだ。

 白線付きの内の、その片割れの男……少女メスガキめいた小僧?の方は、どうでも良い。




「どーだぁ、戦闘ロボットの醍醐味だろ?」


「…………」



 適当な話をダシに愚痴と嫌味をいくつか投げかけてみたが、

 鈍感なのかどうなのか、この男はそんな話をしだした……



 白線付き、の機体を見遣ってみる。


 カウル状の腕部装甲や無骨な脚部など、モジュールごとのパーツで構成された全身には、無数の塗装剥げの傷跡が残っている。それらは、ヤツが幾度もの戦闘を潜り抜けてきた証であり、いわば歴戦の猛者であることを示す勲章でもあった。

……この機種が登場してまだ間もないこともあって、開發製造元直々の連中であるヤツら以外の大半の搭乗員は、ヤツらからすれば、赤子のハイハイ程度にしかこの機体を操縦できていないのだ、という。

 しかしヤツらが操縦する時、機械仕掛けの身体は、まるで人のような滑らかな動きをする。

 そのときの関節部から発せられる駆動音は、生物的なそれとは異なるものだ。

 こわれかけのスプリングバネを伸縮させているかのような、独特の動作時の音が特徴でも有るのだ。

(少なくとも、これが、俺たち竜騎兵上がりの人間には、今ひとつ馴染みきれないことの一つだった)


 そして何よりも特徴的なのは、頭部にある“顔”である。機体基本色であるグレー色のフェイス部と、翡翠色をしたそのセンサースリットの瞳からは、感情らしきものは読み取れない。戦いのときは、ただ無機質に、目の前の敵を見据えているだけであろう……

……そんな仮面を被ったような無表情な顔だが、しかし、無機物のそれであるのに、見るときに応じて、時折見せる表情がある。


 それは、微笑みだった。

 それも、心の底からの喜びを表す笑み。

……まったく、この部品部分の造形を担当したヤツの顔が観てみたいものだ。



……つい数ヶ月前の、あの繰り広げた戦闘の一連を、振り返る。

 顛末としては、俺というドラゴン・ライダーは、その栄光に、トドメを刺された格好であった。



 敵のあの装甲飛空艦には、相棒の爪も牙も、効果がなかったのだ!

 炎のブレスも、防護魔法が施されたその外板には、焼け跡程度しか威力を及ぼせなかった。

 

 あの日、俺たち龍騎兵飛行隊は、

 特別攻撃、として、自殺同然の体当たりに近い飛行で、

 あの“メザシ”の土手っ腹に、ドラゴンにくくりつけて懸架させた、対艦誘導弾ブラストログをぶちこむ寸前までには行けたのだ。

 だが…

 隊の皆は、いくつか行けたヤツも居たらしい。

 しかし、俺の班ではどうだったであろうか。

 対艦攻撃隊の対空護衛を担当していて身軽だった俺の飛竜は、

 作戦が破綻して結果として追い詰められたとき、肝心な有効打がなかった…ということだ。


 なんにせよ、おれは敗残者だ。

 そうして、敵の現代的な火器による、

 現代的な攻撃というヤツには、俺の相棒の自慢の鱗は、意味をなしえなかった……



 相棒は、今は蘇生が成功した……だが、一度死んでしまったことで、

 今は、あの遠くない日にあったようないつもの猛々しさを、どこか遠くに置いてきたように、戦意を無くしてしまっていた。


 笑えるだろう。

 相棒に見放されたドラゴン・ライダーは、唯の死人と、なんの違いがあるのだろうか?



………………、



 夕日の明かりが、格納庫の窓を通じて、このシミターの横顔を、柔らかく照らしていた。


 まるで、俺には笑っているように見える。


「案山子の嗤い、か」といいかけて、「でも、いい顔してるだろ?」と……その白線のやつの、そのドライバーのヤツが笑っていた。



……コイツは覚えているだろうか。

 撃墜されて、相棒とともに墜落したこのオレを、敵の追撃から守り通してくれたのは、この、オマエだったことを。


 半身が文字通り裂けて溶けた状態のこのオレを、助けてくれたのは。

 そのときの、この、シミター型の、このコイツの、その時の表情は……

 

 あの時の炎に照らされだしたその顔と、

 今のこの、夕日の夕焼け色に照らされた、この、コイツの顔。


 あの時と今のこの時との違いは、オレが死にかけではないということでもあったし、

 そして……その時のコイツを操縦していたという、この、ヤツのコイツと、こうして顔を対面で向かい合わせられる……という、そのことであるのだが。



 そこまで考えて、ふと、この機体で戦いに入った時、

 こいつのその顔を見たヤッコサンどもは、どんな気持ちのつもりになるのだろうか?……と考えた。


 戦闘中の微笑みの意味するところとは……?

 それが分かる者は、今のところいないだろう。

……いや、所詮は感傷的な論とその問題であって、他の他人がそう感じるときがあるかどうかも、

こちらには分からないのだから、そもそも理解できる者が存在するのかすら不明だ。

 何故なら、俺らというこの機体の操縦士たちでさえ、その全容を理解することは、今以て出来ないからである。

 なぜならこのこいつ……シミター……は、生物では無く、そして龍では……人間ではないからだ。


 こいつは、戦うために造られた兵器なのだ。

 戦争のために造られ、戦場で敵を屠る為に造られた兵器。

 この世で最も醜く、そして、有る種ある意味で美しい存在。

 それがこいつの存在意義なのだ。



 だが、そんなソイツに、オレは助けられた。

 そのオレが、このコイツに、命を預けて戦おうとしている。



 俺は思う。

 こいつの操縦士として、これから先はずっと戦っていくのだ……と。





     * * * * *


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ