イメージテキスト・いつか先の物語(4/4)
今回の連続投稿はこれにて一時的に完了いたします。
皆様ごゆるりと…
* * * * *
(SIDE:とある訓練生の視点)
「………………」
…………
「……~~~!!!」
……クソッ、一体何だったんだ!?
壁を腕でどつきかけたその時の俺に、掛けてきた声があった。
「 どうだ、竜騎兵上がりには馴染めないか? 」
……そう、こいつだ。
白線付きの内の、その片割れの男……少女めいた小僧?の方は、どうでも良い。
「どーだぁ、戦闘ロボットの醍醐味だろ?」
「…………」
適当な話をダシに愚痴と嫌味をいくつか投げかけてみたが、
鈍感なのかどうなのか、この男はそんな話をしだした……
白線付き、の機体を見遣ってみる。
カウル状の腕部装甲や無骨な脚部など、モジュールごとのパーツで構成された全身には、無数の塗装剥げの傷跡が残っている。それらは、ヤツが幾度もの戦闘を潜り抜けてきた証であり、いわば歴戦の猛者であることを示す勲章でもあった。
……この機種が登場してまだ間もないこともあって、開發製造元直々の連中であるヤツら以外の大半の搭乗員は、ヤツらからすれば、赤子のハイハイ程度にしかこの機体を操縦できていないのだ、という。
しかしヤツらが操縦する時、機械仕掛けの身体は、まるで人のような滑らかな動きをする。
そのときの関節部から発せられる駆動音は、生物的なそれとは異なるものだ。
こわれかけのスプリングバネを伸縮させているかのような、独特の動作時の音が特徴でも有るのだ。
(少なくとも、これが、俺たち竜騎兵上がりの人間には、今ひとつ馴染みきれないことの一つだった)
そして何よりも特徴的なのは、頭部にある“顔”である。機体基本色であるグレー色のフェイス部と、翡翠色をしたそのセンサースリットの瞳からは、感情らしきものは読み取れない。戦いのときは、ただ無機質に、目の前の敵を見据えているだけであろう……
……そんな仮面を被ったような無表情な顔だが、しかし、無機物のそれであるのに、見るときに応じて、時折見せる表情がある。
それは、微笑みだった。
それも、心の底からの喜びを表す笑み。
……まったく、この部品部分の造形を担当したヤツの顔が観てみたいものだ。
……つい数ヶ月前の、あの繰り広げた戦闘の一連を、振り返る。
顛末としては、俺というドラゴン・ライダーは、その栄光に、トドメを刺された格好であった。
敵のあの装甲飛空艦には、相棒の爪も牙も、効果がなかったのだ!
炎のブレスも、防護魔法が施されたその外板には、焼け跡程度しか威力を及ぼせなかった。
あの日、俺たち龍騎兵飛行隊は、
特別攻撃、として、自殺同然の体当たりに近い飛行で、
あの“メザシ”の土手っ腹に、ドラゴンにくくりつけて懸架させた、対艦誘導弾ブラストログをぶちこむ寸前までには行けたのだ。
だが…
隊の皆は、いくつか行けたヤツも居たらしい。
しかし、俺の班ではどうだったであろうか。
対艦攻撃隊の対空護衛を担当していて身軽だった俺の飛竜は、
作戦が破綻して結果として追い詰められたとき、肝心な有効打がなかった…ということだ。
なんにせよ、おれは敗残者だ。
そうして、敵の現代的な火器による、
現代的な攻撃というヤツには、俺の相棒の自慢の鱗は、意味をなしえなかった……
相棒は、今は蘇生が成功した……だが、一度死んでしまったことで、
今は、あの遠くない日にあったようないつもの猛々しさを、どこか遠くに置いてきたように、戦意を無くしてしまっていた。
笑えるだろう。
相棒に見放されたドラゴン・ライダーは、唯の死人と、なんの違いがあるのだろうか?
………………、
夕日の明かりが、格納庫の窓を通じて、このシミターの横顔を、柔らかく照らしていた。
まるで、俺には笑っているように見える。
「案山子の嗤い、か」といいかけて、「でも、いい顔してるだろ?」と……その白線のやつの、そのドライバーのヤツが笑っていた。
……コイツは覚えているだろうか。
撃墜されて、相棒とともに墜落したこのオレを、敵の追撃から守り通してくれたのは、この、オマエだったことを。
半身が文字通り裂けて溶けた状態のこのオレを、助けてくれたのは。
そのときの、この、シミター型の、このコイツの、その時の表情は……
あの時の炎に照らされだしたその顔と、
今のこの、夕日の夕焼け色に照らされた、この、コイツの顔。
あの時と今のこの時との違いは、オレが死にかけではないということでもあったし、
そして……その時のコイツを操縦していたという、この、ヤツのコイツと、こうして顔を対面で向かい合わせられる……という、そのことであるのだが。
そこまで考えて、ふと、この機体で戦いに入った時、
こいつのその顔を見たヤッコサンどもは、どんな気持ちのつもりになるのだろうか?……と考えた。
戦闘中の微笑みの意味するところとは……?
それが分かる者は、今のところいないだろう。
……いや、所詮は感傷的な論とその問題であって、他の他人がそう感じるときがあるかどうかも、
こちらには分からないのだから、そもそも理解できる者が存在するのかすら不明だ。
何故なら、俺らというこの機体の操縦士たちでさえ、その全容を理解することは、今以て出来ないからである。
なぜならこのこいつ……シミター……は、生物では無く、そして龍では……人間ではないからだ。
こいつは、戦うために造られた兵器なのだ。
戦争のために造られ、戦場で敵を屠る為に造られた兵器。
この世で最も醜く、そして、有る種ある意味で美しい存在。
それがこいつの存在意義なのだ。
だが、そんなソイツに、オレは助けられた。
そのオレが、このコイツに、命を預けて戦おうとしている。
俺は思う。
こいつの操縦士として、これから先はずっと戦っていくのだ……と。
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