イメージテキスト・いつか先の物語(3/4)
“このままだと埒が明かないな……君たちからも、仕掛けてみてくれ!”
ヤツを操縦するあの男は、脳天気な声で、そんな事を言ってのけて見せていた。
……ああ、上等だとも。やってやる!
たまらず、訓練生たちも応戦する。
逆ギレ、ということでもあろうか。
各機の搭載機関砲の火線を、正面のただ一機の教官機に向かい、収束させて……全力の総射撃を浴びせた。
今、弾幕が形成されたのだ! それによる面での制圧。
静止射撃による火力制圧。
現在における、シミター型の通常的な、実戦での任務現場における、基本的な扱い方の一つだ。
一般運用されている大半のシミターが前線で、デグの棒、と揶揄される所以のところでもある。
これなら、自機の高すぎる機動性に、振り回されることもない……
それを、この一機しかいない白線付きに、浴びせようとしたのだ。
……だが、
「チィっ……案の定、抜けられたか!」「チクショウ、ヤツはバケモノか?!」
その白線付きは、射撃が開始された瞬間……横滑りに動いた。
この事であったのだが、訓練生たちからすれば、最悪のタイミングでのことであった……
一直線に抜けられただけのはずだった。だが、まるで、あらかじめ道を切り開いてあったかのように、
こちらの全ての火線が、収束させても追いつけないような、そのような位置タイミングが最初から展開されていた。
偶発的? 或いは、故意に、仕掛けられたものだったのか……あらかじめ見越してあったのか?!
そう。白線付きは……奥へ引いていくのではなく、こちらへの手前側に、接近の判断を執ったのだ。
先程までの自分たちならそうすると踏んで、自分たちは、仕掛けるように弾幕を展開した。
その集弾するキリング・エリアを、ヤツの後方向へと見越して、展開をした。
だが、ヤツは、こちらへの近接を図ってきた。
(そりゃあそうだ、こちらと同じ動きをするなら、ヤツがそうする必要は、なかったんだ!!!)
……ヤツは、接近戦を挑むつもりだ!!
一瞬の内に、滑り込む様に接近してきた白線付きに、訓練生たちはもはや怯えるしかない……
だが、まだだ!
「各機、散開!!!」
「!」「おぉっ♪」
訓練生のひとりの声が、通信回線を伝って、僚機たち全員の耳に届いた。
白線付きのその機体をめがけて、更に二機が、同時に飛び出していた。
その声の出どころの機体の、その搭乗者が、他の二人よりも先に飛び出したのだ。
不吉なことに、教官機の二人は、喜ぶように声を上げたのであるのだが……
「ウィリエール、いまだぁ!」「あぁ!」
「!……」「おぉっと、」
三機は、白線付きを中心点に展開し、巴の字を描くように肉薄を図った。
三方向からの同時襲撃、これなら!
「ぐえっ、」「ぐあぁっ!?」
だが、白線付きはつよかった!
遅れて出た2機は、一機は射撃の集中で、
もう一機は機会タイミングを失った状態で、近づきすぎてしまった…
…格闘の“ハード・ブロー”によって……瞬く間に撃破されてしまった。
「貰ったぁーー!!!」
しかし、残ったもう一機がいる!
距離を詰めることに成功した。
ポジションと先手を保ったまま肉薄することに初めて成功したのだ!
訓練生たちは勝利を確信して、顔をほころばせた……
「う、うぉぉぉ!」
だが、予測できたその必殺の一撃が……
至近距離で……“避けられた”。
「?! んなッ……」
振りかぶった機の前腕装甲カウルの前端は、
白線付きのコクピット装甲カウルに、命中した筈では?!
だが、しかし“手応えが無かった”。
およそ、数セント、数ミラ、たったその、それだけの間隙しかなかったのだろう……いや、そう思いたい!
だが、それでも……
(後ろにッ……下がられた……~~ッ!?)
思い当たることはそれしかない!
そうして、この三機目も……次の瞬間、白線付きが突き入れた一撃によって、地面に熱いキスをさせられた。
接近戦すら挑めずに、このままやられるのか。
こうして、合計三台が仕留められた。
これであるので、訓練生たちは、皆、この教官を恐れていたのだ……
火線の内側に飛び込んだが最後、格闘で撃破される。
火線の外側に内側にいても、射撃で撃破される……
避けるばかりになって千日試合となるか、それとも迂闊に近づいて相手の格闘で手痛く葬られるか……
究極的にはこの二択であるのが、現実の事実として訓練生達にはあった。
……分水嶺に意味があるのは、さながら死刑囚か我々か、だな……。
……本日の後に、とある訓練生が呻くように述べた一言である……
訓練は、なおも続く。
「さあて、あったまってきたことだし、今日の主目的を今から始めるかあ」「うんっ♪」
その言葉に、訓練生たちは絶句の表情となった。
昏倒した機も起き上がらせて、訓練は次のフェーズに入った……
教官機の白線付きは、
シミター型用の新型オプション品である、脚部のダッシュ・クローラの作動で、高機動を開始した。
……付き合わされている訓練生らによる、攻撃のことごとくを避けられた。
只でさえ機動の芸当が巧い白線付きは、水を得た魚のごとく、
今まで以上に自在な走行を魅せてみせた。
ダッシュ、スラローム、信地旋回、左右のクローラーの可動速を偏差させての、コーナーリング、及びドリフト……
それらが次々と発揮されて、
訓練生らの皆は、目を丸くして注目するしかなかった。
前後進の機動がクローラー走行が可能になったことで従来以上に具合が良くなり、
超信地旋回等のクローラー機動も当然可能ともなった。
つまり歩行などの動作を取らずとも移動が可能となったことで、
これを戦闘のマニューバに組み込めば、より今まで以上の戦闘能力が発揮可能、ということが、一つずつ確かめられていった。
つまるところ、これの評価試験をする、というのが今回の目的の核とされていたのだ。
白線付きの二人の目的としては、
クローラー未使用時と使用時の2状態で、
それぞれ戦闘時の比較をすることによって、
有為なデータや戦訓の発見をしよう、というのがその大意なのであったらしい。
そうして組み手が再度繰り広げられたわけだが、
ここで重要なのは、訓練生たちの持つモチベーションの残量が、分単位どころか秒単位で削れていく現状についててあった。
いつ終わる!?
──訓練生たちは絶望した。
「……あなたたち、いつまでやってるんですか!! 早く切り上げて、学内に戻りなさい!!」
そんなところに拡声器で叫んだのは、コンラート・ウェスタンティン…
…少女軍人の身でありながら、かつてはエリート街道を邁進し、題四皇太子・フレズデルキンの寵愛を受けていて、その上皇帝の係累でもあるかもしれない……という、
しかし、今では“疫病神”の世話係を押し付けられているというような、そのような出自と由来の人物であった。
“のこりのテスト要目は、明日に持ち越しなさい!”
訓練生たちは、ホッ、と安堵の息を吐いた。
こうして、泥まみれになった五機プラス一機のシミターが、
歩行して格納庫の中にへと収容がされていった。
さて、その格納庫内に於いて、
機を降着姿勢の体勢にさせて整列させた時、そこには待ち受ける者たちがそろっていた。
曰く、“待ちかねていたぞ”、……と。
時刻はもう夕方。
整備士や整備科課程の訓練生たちは、みな一様に憤怒…というべきの気迫を湛えていた。
それもそのはずで、現時刻は、すでに夕食の食事が開始される、その時間に、すでに食い込んでしまっていたのだ。
そうして、要求をしたのだ。……“後始末は最後までやれ”……と。
もっともだ。自分たちのケツ拭きは自分たちでするべきだろう。
……しかし、暗くなる時間であることもある。
日の落ちた後の格納庫の中で機体の泥を落とす作業のことと、そのあとの冷めたポトフのことを考えて、
訓練生は皆、顔を青くさせた……
……白線付きの二名は、今晩の夕食のポトフから、ソーセージ抜き! にされてしまった、という。……
* * * * *