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「第一話」 家の勝手口を開けたら、異世界でした

###「第一話」 家の勝手口を開けたら、異世界でした











 嫌な経験だ。





 前半生の半ばを過ぎる辺りで、俺の人生は早くも挫折し、座礁した。



 そりゃあ学校での態度は相手からすればうざかったかもしれないし、なにより空気が読めない、いけ好かない奴だったかもしれない。

 でも、洒落にならないケガを負わされて後遺症が残るってどーなのよ???



 激痛が走って回転した俺の視界に教室の天井が飛び込んだ直後、それをやってくれやがったヤロウは周りのヤツも含めてニヤニヤ笑うだけだった。

 保健室から直行で病院に行かされた後、当日の夕方には親が学校に怒鳴り込んでくれた。

 それから数ヶ月以内には学校の賠償規定が作用して補償金が俺に支払わられたわけだが、そのヤロウは俺の復学当日、にやにやしながらこう言った。


「お金ももらえてよかったじゃん。もっかいやってやろうか? こんどは反対の脚で」


 怒りに我を忘れて、持っていた松葉杖で俺はヤロウをボコボコにしようとした。だけどそれが叶う事は無かった。次の瞬間には先生が俺を取り押さえたからだ。

 それを同級生の連中はにやにやして見ているばかりだった。楽しそうに笑い出すヤツが大勢いて、それがクラスの総意って奴だった。





 いない間に、俺のあだ名は“スタントマン”になっていた。






 その日から俺が学校に行くことは無くなった。























……それから十年以上が経つ。いや経った現在。





「うぇぇぇぇーぃ……」



 そんな経緯を経て年齢一桁のころから順当に引きこもりがちになった俺は、結局ニートになった。


 自堕落な日々、毎日の友はネットにつながったパソコンとジャンクフード……



 二十歳を過ぎた頃には親父も諦めてくれたようで、今は何も言われない。


 そうして今年も季節が過ぎて、今は初夏。

 朝からどうにもならない暑さが世間の皆様を苦しめているだろう中、かくいう俺は壁一枚隔てられた部屋の中で、ガンガンに冷房を効かせながらアイスを喰っている。



「ハハッワロス」



 今読んでいるのは、誰もが知ってるだろう、小説家になろうという小説投稿サイトのウェブページだ。

 最近は母数が増えて探すのに一苦労とはいえ、何かの拍子にズバリ俺好みなウェブ小説が見つかったりする。


 今日もそんな時間つぶしだけの一日ってわけさ。



「はー……オモシレ」



 うんうん、こいつは良作品だ――俺の性癖にジャスト・フィット。

 最近の機種故にご多分に漏れずタッチ式の、パソコンの画面をタップする指を止めて、半ば溶けかかったアイスクリーム……値段の割に味もいいし量も多い、カップアイスのクッキー&バニラ味……の容器に刺さった銀色のカレースプーンを掬って、大振りの一口をぱくりと食べる。


 その瞬間口の中でとろりと解ける、しゃくりとした食感にクリームの甘味、ほろ苦いビターココア・クッキーの舌触り……



 かーたまらんね!



「うははははははははは」



 見渡せば、部屋の中は袋で括ったごみやら空になった水のペットボトルやらなんやらが詰み上がっているが、そんな事は無問題。


 もう一口、二口でアイスクリームを食べきると、何度かスプーンを容器の底に巡らして、残った汁というかクリームをも、残さずに頂く。

 あらかた食い尽くした後になって、取り出した後のスプーンは、何べんも舐めて表面の砂糖分を取ってやってから、最後にティッシュでアイス液混じりの唾液のべたつきをぬぐってやる。

 そうして空になったアイスの容器には、この使った後のティッシュと内蓋のビニールを詰めてから蓋をしてまるごと小さな袋に詰めた後、袋の口を結び、積み上がった袋の上に放り重ね、山はさらに高くなった。

 

 



 完璧なニートの生活がここにあった。




………




……はぁ、





 すこし腹が冷えたみたいだ。

 そう思いながらも部屋に据え付けた小型冷蔵庫から本日三個めのアイスを常温に慣らす為に取り出しておきつつ、この俺……道寺橋 祐太……は、家の二階にあるこの部屋の扉を開けて、一階のトイレへと、慎重に、階段を下って行った。









     * * * * * *






 ジャコオオ……




「〜♪」




 さて、トイレから出た後、の話だ。



 部屋で時計を見た時、たしか時刻は昼前であったろう事を思い出す。

 そうなりゃ今日もメシの時間ってわけでね。おきっぱのアイスの件? 溶けかけのアイスは俺の好物であるし、まあ早く喰うか後回しかは、今日の昼飯の内容次第だな。


 さぁて今日の昼飯はなにかなー?





「oh……」




 しかしその期待と希望は脆くも打ち砕かれることとなった。



 忘れていた……今日は祝日であることを。



 居間に出てみたなれば、無人の部屋の中、テーブルの上には書置きが置かれているだけであった。

 内容はこうだ。「出かけてきます」と。




「どうしよっかなー」




 行き先の目星はある。

 なぜならばウチの親父は中々にマメな性分で、祝日には我が家のカタギたちは連れ立って遊びに行くことが多い。今日は母親と祖父と祖母を連れ立って、どこかに出かけているのだ……おそらくは母親の趣味が反映されて、観劇にでも行っているのだろう。


 夜までには帰ってくるのは分かっているので、晩飯の心配はいらないと思う。いつものコースならデパ地下のお惣菜とかだ。

 しかし俺の昼飯はどうしたものか。




 それに、俺の顔が暗くなるもう一文まであった。





 書置きにはこうとも書かれている。勝手口の修理できませんか? とも。

 

 

 





「勝手口……」






 我が家は結構なボロ屋だ。何分大昔……ジィチャンバァチャンの代に建てられたものであり、そんななのでキッチンの奥、突き当りにサザエさんハウスよろしく勝手口がある。



 たしか、俺が小さいときからこの勝手口が開いた瞬間は見たことが無かった気がする。おぼろげながら、一回あったかどうか、だ。理由は分からんが、大方鍵が開かないとかそんな所であろう。

 そしてこの急な命令にも思い当たる所があった。最近、母親は通販の健康食品にハマッているのだ。

 なるほど、これは親父にも頼みづらかろう。おおかたよく見る通販カタログに乗っている、あのダンボールに入ったでっかい水でも頼むつもりなのだろうが……






「はぁ……」





 とりあえず、その勝手口の前に立つ。


 事前に片づけがされた後なのだろうか、積み上がっていた台所用品は別の場所へと移動されて、現在、勝手口の前はクリーンな状態となっている。

 なるほど母上、それほどまでにしてあの通販ショップのポイントサービスを有効利用したいのだな? 溜まったポイントでアイスとかもらえるから俺も賛成だが、

 まあそれはさておき、残るは年代ものの扉がひとつ、だ。



「さぁてねぇ、」



 検分した所、あまり芳しくない。

 ガチャガチャといじってみた所、ねじり式の鍵は、予想に反してスムーズに回ってくれた。

 だが案の定、扉に付いたドアノブは、ねじってみた所ギリギリという鈍く錆びついた音を発するばかりだった。半回転しきらない。如何せんボロ屋のボロ扉である。

 たてつけも悪くなっているかもしれないが……

 しかし親父の工具箱から持ってきた、このクレ・ゴー○ーロクがあれば?



「ふっふん」



 がちん、と換気扇のスイッチを入れる。

 ちゃかちゃかちゃか、とスプレーの容器を振ってやり、反対の手には何枚もひったくって重ねた後に幅広めに折ったキッチンペーパーを持って、その手をドアノブの真下で構えさせている。

 後はぷっしゅーぅ、っと。とりあえず可動部っぽい所には念入りに吹きかけてやるだけだ。




「さぁてさて」



 鍵の周り……ドアノブの回転部……

 少々吹きすぎと思うくらいまで吹きつけるのが終わった当たりで、数分待った後、新しいキッチンペーパーを使って念入りにドアノブをぬぐってやる。


 ぬぐったペーパーには、溶け出した錆がじわじわと付着していた……よし、行けるか?




 もう一回鍵を開けるところから始める。さっきよりも何倍にもスムーズになった回転。カチリ、と小気味良い音がなった。

 ドアノブをひねる……回った!





 勢いのまま、扉を開こうとした。





「……うぬっ?」







 が、







「ぬぬぬぬぬぬぬぬぬ…………」







 なんだこれ、開かねぇ!?




 ギギ、ギシギシッ、という異音まで聞こえたのだから、一旦取りやめにして原因を探る。


 もやしには体力勝負はつらいぜよ……と思ったところで、


 ふと気づいて目線を上げて見上げてみる。

 そこにはドアノブの何倍にも汚れがついた、あの中折れヒンジになってる出っ張ったやつ……後で調べた所、ドアクローザーというらしい……があった。





 嗚呼、今度は脚立を持ってこなくては……










     * * * * *






 そうしてドアクローザーの掃除が終わったのは、それから四十分ばかり経過したころの事だった。

 小さい数段タイプの便利脚立の上で腕を伸ばしたまま、ひたすら吹いては磨きを繰り返したのだから、正直しんどかったし、手間取ったのである。


 あぁもうヘトヘト。。。。

 


「うぃぃぃぃ……」



 まだ脚立とかの片づけがあるから完全に終わったわけじゃないが、ひとまずはこんなところだろう。


 コップに汲んだ水道水に冷蔵庫の氷を何個か浮かべて、それをちびちび呷りながら俺は一息ついた。



「……」



 ちら、と目線を向ける。

 その先にあるのは、勝手口の接ぎ口上端にその姿が見える、綺麗になったドアクローザー。

 執念深くやったこともあって、埃のこびりついたねずみ色になっていたのが、ピカピカの銀色……とまではいかないが、くすんだ金属色にまではなった。



 これだけやったのだから、指令は達されたも同然であろう。 


 はぁ……ママ上どの〜〜〜今晩のメシは期待してるでござるよ〜〜?

 思わずそう思わずにはいられない。

 出来れば割に合う豪勢なものになるだろうことを期待しつつ…………




「……さて」



 水の入ったコップを台所の調理台の上に置き、俺は勝手口のドアへと向かった。



 まだ扉があくかどうか試してなかったのだ。

 さっき最初にドアノブを綺麗にして開こうとしたときに思いっきりやってしまって、腕を痛めかけたから用心していたのである。

 

 

 

 

 

 あぁ俺ってなっさけね。

 





 そう思いながらドアを開けかけて、




 ドアを開けた瞬間――




 その瞬間、ぶわっ! と強い風が吹き込んだのがその時のことだった。





「ぬあぁぁぁぁぁぁ……」



 

 なにこれサブっっ!?


 

 まるで湖畔の風をそのまま浴びたかのような、涼しい……というか寒すぎる冷風。それをくらって俺の下半身には一気に尿意が催され、半そでであった俺は大ダメージを喰らうに至った。





 なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!




 のは置いといて、風の勢いと冷たさに瞑ってしまっていた目を開けた時、その瞬間には風が和らいでいたのだが、それも関係なしに俺は茫然となって、自分の目を疑うしかなかった。











 

 

 

 

 その向こうにあったのは、

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 






 

 

 

 秋だ。森だ。

 

 

 

 

 

 見渡す限り黄金色の木々が立ち並んでいて同じ色の落ち葉も積もった、マツタケ狩りにいけそうなくらい見事な程の、秋の森が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バタン、と閉めた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」


 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……どうしようか、これ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     * * * * * 

 

 






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