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「3話」カレーの風味は恋のよう?(3/6)






(SIDE:アリエスタ)





……──さて、あの日……あの後の、わたし(アリエスタ)……──





(ひえぇぇぇ…………っ…………)



 修羅場が、そこにありました……

 いや、わたくしが今居る、ここの場のことなのだけど。




 アヴトリッヒの屋敷の中……その応接間……

 長卓をはさんで、向かい合う。


 前方のガーンズヴァルさま。

……厳めかしい気配を纏って、その身体から、底なしに重い圧力を発されている……

 それと、わたしの横の、わたしのお父さん…

…顔に汗をかきながら平身低頭の、テュポンおとうさま……に挟まれ、

 その日、議題が議題、ということもあって、

 わたし……アリエスタは、おそれこわばりかしこまりながら、

 平頭するしかなかったのです。



 理由は、ありました。

 何を隠そう、わたし……アリエスタがしでかしてしまった。

 あの、狼藉の、その後始末を話し合っていたのであるのです……。







……シャッキン、いちわり、減額…………




「……フム、」「コレデ、折り合い付けましょう?ナノーネ」




「……ルーや。」



 ルーさま……ルーテフィアさまは、そのガーンズヴァルの横に、立っていた……ソファーに腰掛けた、祖父の横に。


 

 どうしてでしょうか?

 やや、距離がありました。二人の間には。



 というより、そのルーさまのさらに隣にいる、

 ドウジバシ……ユウタ、にっくき、あの、あいつ…

…の方が、祖父ガーンズヴァルよりも、ルーさまとは近かった位です。


 いや、ルーさまの横に、ぴったりと、附けさせられていました…………



 ルーさまに、腰を捕まれて。



………………。。。。。



 そしてなにより、見逃すべきはそれ以外にはなかった、というべきでしょう。



 表情です。

 わたくしにとって、目に入れても痛くない、

 そのルーさまの、ご表情…………



 そうしてルーさまが浮かべられている、

 昏い気配と、

 三日月の様に歪んだその口許のその湿度の深めかしい表情が、

 もうなんともいえず、

……素敵で、……とっても素敵で、


 もうとってもおいしそうで…じゅるり……



 それを! あああ、そのお顔を、わたしに!

 わたくしに、わたくしに、その表情を、!

 向けて!!! 向けて……ほしい…………


──ちょうだい! ねえっ、頂戴!! 


 そんなドウジバシになんて向けないで、

 わたしに! わたくしだけに、その表情を!!!!


 わたしに、その表情と、その感情の全てを!!!!



 ああ、ゾクゾクする!



 もう、わたくしなんてものは、この面持ちのルーさまにこそ、 

 身も貞操も、こころもなにもかも、めちゃくちゃにしてほしくて、

 身体の純潔と 桜の木のその血のひとしずくを、このルーさまが執り行うでしょう暗黒の式典の、その神殿の祭壇に捧げてしまっても、よい程に……




…gff……





 って、ちがう!?





(……っぅ……っ…………)




…………なによ、なによなによ、なんなのよ、

 

 なんでなのよ!




 わたしが、わたしのもくろみが、あのとき通っていれば、

 いまごろ、あんなにルーさまの寵愛を受けられたのは、わたくしだったはずなのに!!!!!



 だから、仲睦まじく、あのヤツと、隣り合っているルーさまの姿を見て、

 見ているだけで、心が苦しくなって、悲しくなって…………


 でも、心に泉の水のように湧き出てくるその感情に、


 そう、その滾々(こんこん)と湧き出て染み出てくるその清水たるわたくしの心の愛のエッセンス・そのしたたるエキスの、

 その全てが、なにもかも真っ黒な汚油に汚染されきってしまうかの絶望を与えていて、



 わたくしは、先日見た、あの、あれ…………

 そう、ルーさまの、正体…………



 ひみつ……かくしごと…………ルーさまの…………




 清らかな、いたいけな幼い、処女の生娘……でしたわね…………




 それを知ってしまった時の、戸惑いという感情が、被さって、重なって…………




 あのことは、おとうさまにも、話せてない……




…………でも、そんなことは、わたくしにとっては二の次、なのですわ。



 わたくしの、初恋の、初めてのともだちのひと。



 嗚呼……刻が見える……

 あの日……あのとき……あのころ……あの瞬間……



 涙があふれてくる。



 克明に、あれから十年以上経った今でも、明細に思い出せる!

 あの思い出……



 その方が、おとこのこ、ではなく、おんなのこ、だったからといって、

 立ち止まる理由になんか、ならない! ……はず……



 そう。

 そうなのだ。

 わたしには、“決意”がある。



 ルーさまの、そのなによりもの、何いつ如何なる時にも、その最もの、お役立ちとなること!



 それを果たす! その決意があるのだ。


 それがあの日から今日までとこれからのファイティング・スピリット……敢闘精神……として、

 わたくしは、今日までのこの日々は、そのために全てがあったといっても、よいほどですわ。

 そしてその言に違わず、実際に、わたしは今日までのこれまでの人生を、全て、その為に、使ってきましたのだわ!



 そうなのだ。

 いまの技術力なら、

 おんなのこどうしでも、子を成せる!!!!

 きっと、ルーさまから授かったわたくしの子は、とっても素敵な子になるはず。


 そうして、そうすれば、わたしからルーさまに授けることが通るなら、成せるなら……

 そうすれば、ルーさまも、可憐で、かわいくて、素晴らしい、子が、きっと、できて……

……ふふ、ふふふ、ぐふふ、ぐふふ~~!!!!!

 




 あっ、、、、いかん、、、はなぢ、、が……でそうになって、ぐふっ、、、……




………………、、、。。。、、




 でも、そのためには、

 わたくしが生まれてから、

 細心の注意を払いながら人生を歩んできた、

 わたくしの、

 その本来の正道ならば、自信を持ってそう言えた筈のわたくしは、

 あの日…………とんでもないことを、しでかしてしまって…………



……道理に逸れる、骨肉畜生の道に墜ちる、というのは、こういうことなのですわね……



 で、でも、でもでもでも!



 ルーさま…………で、で、で、でも、

 わたくしは、まだ、ルーさまの事を…………わすれれられない…………



 第一、だいいち、そうすると、そうすると…………


 ルーさまは、あの娘は、

 あのドウジバシ、だなんて、あの、あいつと、関係を、すでに持って?!



 い、いやいや、そんなことはさらにどうでもいいのですわ。

 いや、どうでもよくはないけれど?!!



 なによ、“お稚児様になった……”、だなんて、

 ドウジバシめ。

 さっきはそんな冗談まで言って見せて!!!!!



 ムキーーーーーーーーーーー!!!!

 くやしい。はらがたつ。にくらしい。

 ドウジバシぃ…

…あんたがわたしの先をいこうだなんて、

 この世の道理がひっくり返ったとしても、そんなのが許されるはずがないんだから!!!!!!



(………………。、。。、……)



…………わたしのほうが、さきに、すきになったのに……



 ルーさまを、寵愛を受けられて、その親愛を、

 愛を一心に受けられて、ルーさまと愛し合うことができたのは!!!!


 この!!! 

 わたくし、だったはずなのに…………!!!!!




 なんでこうなったのよぉ……………ふぇえぇん……




 こうなってくると、ドウジバシというのが、余計ににくらしくなってきますわね。




「………………ルーや、よ…………」



 そんな折りに聞こえた、そうルーさまを呼びかけるガーンズヴァル様の……何故か、か細い声。


……はっ! あまりにも永劫が、

 わたくしの独白の間に過ぎてしまったかのようだけれど、実際には数分も絶ってなかった……



……そうなのだ。今となっては、この思考も、

 現実逃避の妄想でしかない……



 気を取り直して、回りの状況を、把握する思考を再開させましょう……






「………………ルーや、よ…………」




 気を取り直しましょう。


 そのころ、ちらり、とガーンズヴァルさまは、その孫……ルーさま……の表情を伺ったような一瞬があった。

 圧を発させるのも取りやめにされる程で、

 なんだか、憂いを帯びた、表情で、深刻そうに…………

 何時もは厳かなその気配も、よく見極めると、なんだか、病人になってように、弱々しい。


 ガーンズヴァルさま、どうされたのかしら?




 だけれど、




「“ガーンズヴァル、さま?”」



「!!!? ……るーや、よ………………」




 その台詞をルーテフィアさまの口から放たれた直後、

 ガーンズヴァルさまは顔が凍り、ごふっ、と、むせ込んだ…………




「……ごほん、ごほん、……

 わが一家への、補償と賠償、としては、まあこういったところであろう、か…………」


 

 だが、謝罪というのは、果たしてヌシはどう考えて居るか?



 刺すような気配……というには、

 衰えきってしなびきった度合いのそのやつれた眼光で、

 だけどしかし、話の先が向けられた事に、私はびくりっ!? ……とたじろいでしまって……



 はっ、となるしかなかった、その、私。

……

…………そうなのです。

 そうとガーンズヴァルさまが話を詰めた時、

 身の凍る思いの最中で、わたし……アリエスタはおのれの頭が真っ白になるしかなかったのです……



 ぎゅ、っと…

…己のふともも膝にかけたおのれの両手をこわばらせ、 自分の着る、スカートドレスの生地を掴む手を握り込むしかなかったのです。



 顔からは、冷えた汗が、流れ出る…………





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