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砦の落日・挿絵付き版






挿絵(By みてみん)





CVT/A-42{Elt} scimitar  wake up!










挿絵(By みてみん)




 町の目抜き通りをスタンディングアーマー・シミターが走駆する。




 通りに面する商店の建屋が振動に揺れて、漆喰の壁は多少ひびが入り、屋根は轟音に震え、梁と柱が軋んだ。




 居合わせた市民は唖然とするしかなかった。


 牛が悲鳴を上げる。農夫は泡を食って地面に尻餅をついた。婦人も子供たちはよくわかっていないのか、茫然と見送るばかり。

 

 

 

「あ、あ、あ……」

 

 



 駐在の軍人も、その一部始終を目撃した。その光景はしばらく連続していった。


 時刻は昼下がりのこと。

 昼食は中断だった。フォークは取り落した。


 すぐさま町に一つしかない銀行に駆け込んで、そこの電信を使い、自身の所属する本籍の駐屯へと連絡を掛ける。









 モルトンガの町。そこからの、緊急電信。




 電信電話をつかっての通報であった。

 

 

 

「通常のゴーレムの十一倍の高速で、アレブゲン堡砦へ向けて通過! 至急阻止迎撃の隊を乞う!」












 アレブゲン堡砦は、山脈を背に要衝、ノル・アレブゲンの平野を見晴らす。

 この近隣では最大規模の堡砦である。




 連邦国の首都平原の防衛網の中核をなす、盤石の要塞でもあった。









挿絵(By みてみん)









「来よったか、あのスタンディング・アーマーという奴!」





 報告を受けて、三十分あまりが経った頃、である。

 地平上にその影が出現した時、双眼鏡でその姿を認めた、堡砦の司令官である大佐は忌々しく言葉を吐いた。

 砦を預けられている大佐は、出来うる限りの努力でこの遭遇へ対処していた。

 



 既に、砦の付近で線を張り、迎撃に出た駐屯連隊抽出の三個混成中隊……土魔導士や騎兵、歩兵隊士官隊との連絡は付かなくなっていた。

 

 

 連絡の伝令を送るのも出来ないほどに、

 戦闘が過熱していたか、あるいはもう、全滅したか、であろう。



 対して、出現した新型ゴーレムは、たったの一機


 状況を追うだけでしかないが、それでも砦の指揮官たちは一様に、慄いていた。

 いや、確認できているのはこの一機だけである。であるので、それが複数機存在している、つまり部隊規模だとしても、もしかしたら出撃したこちらの部隊は現在、善戦していて、それに釘づけにされているのだろうか、現れた相手は斥候か、強硬偵察の類だろう――という願望めいた憶測も、背後の防衛指揮の士官幹部らは喚くように口に出し合っているが、そんなものは慰めにもならない。


 突破された事には変わりがないのだ。並の戦闘ならば、ゴーレム部隊程度ならば容易に撃退撃破できるくらいには修練度を積んだ、栄光ある精鋭の首都平原部隊が!


 噂通り、いや噂以上に強大な相手らしいゴーレムの戦闘力に、大佐は冷たい汗が流れ落ちていた……が、それはそぶりにも出さない。





「砲兵、準備は良いかっ」





 大佐は如何を進めた。


 観測所から号令が出た。

 砲側の評定員が叫びを伝声用具に込める。

 続けて操砲要員が諸元を発射機と弾体に入力し、魔導動力装置による半機力補助の人力操砲で発射台の操向機構が可動する。

 

 準備が終わりベルが鳴り響く。鳴り響く中、操砲要員の彼ら達は退避遮蔽トレンチの中へと身を伏せさせる。

 

 

 直後、轟音と共に噴進魔導棍……ブラストログ……の連続した順次発射が打ち上げられた。

 





 弾道を双眼鏡で追う。




――着弾……、、、、





 だめだ、ブラストログでは当たらない。

 

 砦壁の内に設けられた射撃陣地の射点には木の板と鉄材を組み合わせた置き板式のランチャーがあり、そこからブラストログは弓なりになって射出されて、目標へと飛翔する。







 ブラストログの原理は、要するに、腕が悪いか未熟な錬金術師には付き物の、魔法錬金の術が成功しなかった時にしばしば発生が見られるような、失敗事故の際の錬金爆発を、極めて大威力化した上で意図的に起こせる様にしたものである。

 

 素材には森から切り出された通常の木材丸太が利用され、外装は錬金による構造強化が施されつつも、肝心なのは内芯部の木質を、その物質としての組成を、多量の魔力炸裂材と大質量の魔術爆薬へと錬金変化が施されて“作り変え”……変製改造がされているのが最大の特徴である。

 この炸裂材と爆薬の比率や、信管の作用を働く為の錬金発破時限構造装置の設置などの比率により、大爆発力であったり破片殺傷力、高貫通・高衝撃打撃性能であったりと、威力はそれぞれの特性を示す形で合わせられる。

 さらに加えて、頭端部にはそこに誘導機構のための魔法演算術回路術式の組み込みと、尾端には推進のための錬金推進装置への加工が底部に施されたもの……とおおまかに捉えてよい。

 

 切り出した木材を丸太に加工した後に(かつての対魔王戦争においてや今日の一部地域の紛争など、物資の払底した一時期の前線などでは、しばしば切り出した原木のまま)、基本的には媒介を用いて錬金加工を施すだけで得られるこれは、加工の開始から完了までには大凡一か月程が掛かるものの、しかし、特に騎兵突撃や歩兵戦列の突撃などを、数回の連発斉射で、たやすく粉砕しての撃破処理が可能なことから、ブラストログ砲兵は設備と運用にはほかの兵科には無い独特なノウハウが必要とされるものの、その戦力としての価値は高く評価がされている物である。

 

 

 実際に、元々はかつての魔王帝国の、鉄と火薬と燃料材を用いた超兵器を、これもまた大本は魔王軍に由来がある人類の魔術錬金科学力に合わせる形でローカライズ翻案して場当たり的に発展させただけの代物であるが、これの圧倒的な破壊力と打撃能力を手にして投射火力として縦に横に使いこなした結果、人類勢力は魔族との戦いに勝利することが出来た、歴史的な由来もある。

 

 

 

 

 つまり、当たればさえすれば、並の兵隊団程度ならば容易に殲滅できる火力装備なのである

 

 

 


 されど、相手が悪かった。

 あまりにもの高速に、射撃時点での照準の正解と、実際の着弾時での誤差が大きく生じる事態であった……捕捉と誤差の修正を行おうにも、ランダムかつ自在に地点と速度が可変速して走行するスタンディング・アーマー相手には無意味な労苦。どうにもこじつけを併せようとしても、評定計算が追い付かないのだ。


 直撃でさえ効果はどうかと聞くのに、その直撃さえ見込めない、と来た。

 





「バリスタ、用意!」





 それでも冷静を己に言い聞かせて、次の号令を取る。

 

 

 

 本来であれば攻城用の重威力弩。それが据えられた砦壁の簡易砲座の、その急造の木製シャッターが下ろされる。

 長大な弩の本体が暴露し、射撃体勢とするためにその本体が砲側操作用員らの手でスライドされて射界中心基軸位置に、若干に押し出された。


 対スタンディング・アーマー用に、緊急で各拠点に整備配備がなされたものであった。



 それもただのバリスタでは無い。魔法科学と高位の魔獣の素材を組み合わせて強化された、この世界の陸上軍の切り札ともいえる等級の代物で、鉄壁同然の大城壁さえも穴を穿てる程のものだ。


 

 号令が挙げられ、慌ただしく銃座の操作要員たちが射撃の準備の最終段階を開始する。

 銃座の即応弾のケースから防湿の為の最後の覆いが解かれ、弾薬相当のそれが露出した。



 巨大な発射機に巨大な矢。矢には専用の弾頭……これまた巨大な矢じりが装着されている。

 矢じりには数通りを用意されている。

 徹甲弾なら一撃でドラゴンのうろこを砕き肉をつらぬき、炸裂弾ならばオークやゴブリンの陣勢を丸ごとミンチにすることが出来る。

 焼夷弾ならばそれらをことごとく塵芥に変えられる。

 なにより戦艦搭載用に研究されていたという、新開発の高威力魔力チャージド衝撃打撃弾ならば、アトラス鋼の分厚い装甲さえも叩き割る結果が試験では示されているとの話だ。

 

 

 平たく言えば決戦兵器クラスの物であった。


 これは、この世界のゴーレム程度であれば、“これまでであれば”、威力過多といえる程くらいに、跡形もなく撃破する事が出来る。

 常識としては、矢の価格に戦果の釣り合いがとうてい及ばない、とされるほどに。



 

 そのバリスタの砲側照準眼鏡を覗いていた射撃員の一人が、準備の合図を僚兵に示した。

 装填手たちが数人がかりで、バリスタの発射架に重量のある巨矢――腕に自信があり、シミターの装甲の事を知らない彼らは、一撃必殺を狙って、徹甲弾を選んだ――を乗せ、続いて別班が巻き取り機を操作して巨弓の弦を最大までに引き絞る。

 砲側要員たちは一様に顔に汗を浮かべ散らしながら、準備をこなしていく。

 そうしてこの銃座のバリスタは即応状態となった。他のバリスタも、もうすぐで射撃可能状態となる。

 照準手の彼は同軸スコープのピントを追尾させながら、敵・新型ゴーレムの機影が射程距離の中に入るのを待った。

 

 

 

 そして、その瞬間が訪れたのはその時だった。

 

 

 ブラストログと比較して射程が短かろうが、直接照準が可能なレンジに入る寸前――――銃座の射長が発射の指示を班に下した瞬間、

 

 

 

 

 その一門が、轟音と共に木屑に包まれた。残骸が砕け散って、操作用員たちの悲鳴と絶叫が木霊する。



 シミターからの先制攻撃……いや、先程のブラストログに対しての、反撃である。


 バルカンの掃射によって、砦壁の上に張り出し銃座として設けられていたバリスタの一基が粉砕されて木片に変えられた。その瞬間であった。

 




挿絵(By みてみん)



 

 

 続けざまに、大イノシシの鼻息の様な怪音が遠くの大地から断続した。同時に、木の扉戸に岩を叩き付けるかの様な音も連続する。

 シミター型機甲ゴーレムのバルカン砲ターレットと、搭載の35mmマウザー機関砲銃塔の同時射撃だ。

 連続して射撃の火線は飛来して、その方角にあつらえられていたバリスタの数基も、その次の何基もかもが続けて粉砕されて沈黙していった。

 

 

 

 だが、堡砦の壁の銃眼が開いた。直後に砲火がその銃眼で瞬く。“長筒”と呼ばれる魔力銃の射撃である。

 

 シミターに搭載されている新式魔力機関砲以外の、この世界の在来型の魔力銃砲は発射する魔法弾の莫大な魔力熱に耐えるために銃本体が極めて重く大型で、そのうえ射程が短い。そのために銃砲隊はバリスタの次に射撃のタイミングが見計らわれていたのでもあり、故にこそ砦の指揮官たちは、自分たちの相対する敵のゴーレムの搭載火器が計り知れず、また、どのようなものか、記録に記そうにも、皆目見当が付かなかったのでもあった。

 

 

 生き残りのバリスタもようやく機能が復帰し、遅ればせながら、その砲座からの巨矢が何度も射撃されて、操作用員の腎力を迸らせて、力任せに連射と連発が繰り返された。それは今も続いている。

 

 

 壮絶な規模の矢と魔力弾の雨が、たった一機のシミターに対して降りかかっていく。

 

 

 

 集中砲火が開始された瞬間だった。

 

 

 

 しかし……





「あ、あたらな……」「牽制につかえばそれでよろしい!」




 地面に相手を射止めることも叶わず突き立つバリスタの巨矢を見て、絶望の声を呻いた砦付射撃部門の射撃補佐に、射撃長が怒鳴りを散らす。




 そうして砲側用員の呻きと悲鳴を引き換えに、バリスタの構造が俯角いっぱいまで下げられて、そして射撃が再開される。




 そして放たれ突き立っていくバリスタの巨矢は、しかしスタンディングアーマーに当たることは無かった。

 

 



挿絵(By みてみん)





 滑るような高速で、シミターはその全ての攻撃を回避していったのだ。

 また、スペックと戦闘法が分からない初めて遭遇する相手を敵にして、在来兵種に対応した経験しか持っていない防衛側の見こし射撃が全くの無効だったことも大きな要因だった。

 


 長筒の銃撃も、シミターには当たらず、何もない空中で魔力弾丸が弾けて、花火のように煙雲の玉が割れて散って、それが何発も立ち昇るばかり。


 その上、引き換えのように放たれた銃撃によって、砦壁の銃眼は潰され、残るバリスタも破砕されていくだけであった。



 あまりにも高速なシミターの走行の前には既存射撃兵器は無力でしかなく、

 一方シミターは大佐と砦の兵員をあざ笑うかのように、残された射点を銃撃し、粉砕していった。


 

 

 

 丸ごとに砦が丸裸にされていくのを、発令所の要員たちは戦慄しながら、黙って耐えるしかなかった。

 






 そして砦壁の門に、スタンディングアーマー・シミターが取りついた。

 


 


 既に各門は閉じてある。だが、それさえも無意味であった。

 




 やけに軽々しい軽快な音で、砦の丸太組みの門が中間や上下でマニュピレータによって突き破られて、砕かれていく。


 轟音とともに、木組みの砦門が沈黙した。

 





 堡砦の正門が、ばきばきと破られる瞬間だった。



 オーガでさえ、こんな腎力はありえない――










「誘き込んだか、」「ハッ、」



 

 だが、大佐はあくまでも冷静だった。それを意識する。崩してなるものか……――

 

 

 

 策が発動した。

 

 

 門を突破したシミター・スタンディングアーマーは、そこで待ち伏せに遭遇したのだ。



 砦の内周壁面、壁の影、予測して待機させていた兵員たちが動き出す。

 四隅に隠れていた兵士や魔導士が、徒歩で肉薄して、砦壁の中のシミターを、彼ら彼女らの即席の射撃分隊が取り囲んだ。










「これより我が堡砦は、白兵戦闘に移行する!」







 大佐は天運に賭けながら叫んだ。





「長筒、構えぇっ!」



 俄に大佐が場所を構える発令所の中が慌ただしくなる。

 それとは別に、何人もの士官たちとその従補が、自分たちの実力を以っての戦力応援の為に、セクション班ごとに小隊や分隊を組んで発令所の外へと出る。

 余りにも体の無い我方の劣勢を目の当たりにして、自らたちを決死の増援としたのである。

 それから、自分の指揮下の部門が損壊したか全滅した士官にとっては、その穴埋めと仇を取ろうという意図に基づいた行動でもあった。

 

 

 目論見は、撃破ではなく擱座させての無力化。

 取り囲んで砦門を再び閉じてしまえば、奴は孤立する。

 あわよくば、この世界のどこの国もどの勢力も得れていないという、あのシミターとやらの現物を鹵獲なれば、

 

 

 

 

 

 破壊された個所も多い砦壁内の射撃トレンチとベトンから、生き残りが火器を手に這い出てきた。

 伏兵の分とも合流した彼ら長筒を構える銃撃部隊が、遠巻きにシミターへ銃口を向ける。

 


 一方、堡砦、中庭に突入したシミターの一機は、取り囲む射撃分隊を見計らうように、若干の移動を続けながら相対していた。

 取り囲む射撃分隊は、そのシミターの動きに合わせて、距離を取りながら射点をにじり寄らせる。

 

 

 永久とも思える緊迫、しかし十秒も経っていない。

 

 

 そして、一拍の間、それが弾けた。




(射撃魔導士の集中統制射撃だ。まともに喰らえば、ただのゴーレムならば塵芥一瞬、いかに名の通った“灰塵の畜鬼”とて、なんとかは……)



 

 長筒の銃撃が連発して火を噴いた。



 そしてそれよりも近接する、射撃分隊も乾坤一擲を賭ける。

 

 

 賽は投げられた。



 各射撃分隊が連携して、

 射点を集約しての集中射。


 放たれる弾丸も、歩兵列の重層の撃破や騎兵の掃討に威力を発揮する、魔力ケースショットや魔力ぶどう弾の魔法弾。

 機動力が優勢な、高速な相手にはこれで動きを止めて釘づけにしてやればいい。

 

 

 それが直撃していって、――傷一つついていない。




挿絵(By みてみん)




「そ、そんな」




 双眼鏡を取り落しそうになった。

 いや、莫迦な。そんな、あり得るはずがない。




挿絵(By みてみん)




 切り札も破られた。

 正面からの直撃弾クリティカルヒットをもくろんでいた、重射撃小隊の手で移動展開されて敷設間近、射撃寸前だったシミターの正面前方の可搬バリスタが木屑になった。バルカンとマウザーの同時斉射であった。






 シミターの機体が周囲への射撃掃討を開始しながら、転回旋回を始めた。

 一回転の旋回が完了した頃には、付近に動く者は(動ける者は)存在しなくなっていた。



 だが、最終段階がまだあった。生き残りの射撃分隊が護衛しながら、何人かの魔導士を正面へと連れて繰り出した……土魔導士だ。



 魔導士の何人かは迎撃に出さなかった土魔導士が多少いて、その者たちが少数の土ゴーレムを錬成した。

 少数の二線級が魔力と命の限りつくれるだけの土ゴーレムを作って、若干数。

 手筈通りだ。そしてその脇まで運搬台車に載せて搬出した、装填前の弾薬庫から出したブラストログをその土ゴーレムに持たせて構えさせ、それを白兵戦用の刺突爆雷とする――スタンディングアーマー・シミターへの自殺特攻が企てられたのだ。


 しかし、多くの数体は接近する前にバルカンやマウザー砲の銃撃によって粉砕され無力化されて手に持つブラストログは誘爆し足元や周囲の魔導士や兵士ごと吹っ飛び、

 

 なんとか接近し肉薄に成功したブラストログ持ち土ゴーレムも、シミターの格闘とも言えない腕払いによって

 その手と腕のブラストログごと、粉砕されて

 薙ぎ払われていった。




挿絵(By みてみん)





 中庭での戦いは以上に決した。









「緊急!」









 絶望の報告がその時もたらされた。




挿絵(By みてみん)




 先ほどの通報を思い出す。

 

 


 そういえば、数はしらされてなかった。

 

 



挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)


 

 

 

「北壁東、取りつかれましたァ!」「こちら、西正門粉砕された。阻止を試みているが、突破される! た、助け……」

 

 

 砦内の各地区ブロックに整備されていた、伝声器の通信が殺到する。

 

 

 


挿絵(By みてみん)



 

 シミターの数は、一機ではなかったのだ。

 

 総数は分からないが、それでも多数。




挿絵(By みてみん)


 

 

 それが堡砦の各方面のゲートを破壊して侵入して、砦自体を内部から破壊しようとする。

 

 

 しつつある。

 

 

 

 包囲突入されたのだ。









「――……降服だ、」







 それから数分、



 わずか十五分で、堡砦は陥落した。









(………―――………)




 将軍は、このあまりにも不甲斐なく、情けない事態の所存を取る覚悟をした。

 立ちすくんでいた脚と腰に力を込める。発令所の誰も居なさそうな場所をさがす。

 従卒に手で示して、己の首を刈れ、の意を示した。

 

 

 沈黙した顔の従兵がそれに従おうとした時――








“兵士、士官、将官、この砦の責任担当の者へ、自決などは考えるな、我々は誠意ある処遇を貴殿らに保証する! 国にも掛け合う、貴殿らの名誉も守られよう!”








「!」





 大音響の拡声魔法による布告勧告。


 発令所の中の士官も将校も、

 傍らの従卒兵も呆気にとられるばかりであった。






 思い出して、懐からシャトル・ブローチを取り出して、その蓋を開ける。

 半ヶ月前に首都の宝飾店で新調したばかりで、その中には先月結婚したばかりの下の息子夫婦の写真が込められていた。










「息子よ……」




 大佐の視界が、不意に滲んだ。

 瞳に映る写真が、涙に曇った。













挿絵(By みてみん)











挿絵(By みてみん)








 この日、五か所の砦が同時に陥落した。

 

 

 

 浸透戦術の出現と実行である。

 連邦の国境正面の防御線を越えたシミター部隊による電撃的な強襲奇襲であった。

 それが成功した。

 

 連邦国中央平原の防衛施設が、喪失したのだ。

 

 

 

 

 連邦国の中央地域は、無抵抗の丸腰となった。

 




 

 

 

 

 

 首都はもう目前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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