4(4/6)-遊星歯車の悲劇-
「ほぎゃあーっ?!」
断末魔の如き絶叫が、ガーンズヴァル邸の一室で、轟いた。
赤子のようにあつかわれているので、赤ちゃん人間であることには違いがない…踊っているかはともかくとして、
「 いや? 踊るのですよ?
今晩、ボクと、夜の果てまで、一緒に…」
呼び出しを受けたのは、およそ7分前のことである。
すると、だ……なんだかルーの様子が、おかしい。
纏う雰囲気、というやつもそうであったのだし、
そしてそれは、そこからの行動も、またとんちきで、アヤシイものなのであった……そしてそれら一連の行動を、まったく油断していた俺ちゃんは、抵抗しきれず!
ルーのやつに、すまないことをした…って、謝ろうと思って来てみれば、な、な、なんなんだ、この状況は!!?
ほがぬぐごぐ!
“猿ぐつわを外せ!”──というメッセージを送ってみる。
すると、
妖しい笑み…
いや、
「笑み」 を浮かべたあと、
ルーは受け取ってくれたようで、外してくれた……
ぱっ! …ふー、ふー、
なにすんじゃい!
「 教育が足りないようですね……?」
まって! まって、! もうやめて、やめてっ!?
そんな最中に、
三日月のように歪んだその口許が、動いて……
ルーが、なにかを申した。
“あのおんなと、親しく、するな、”……
ごくり、と、……息を呑んだ、俺ちゃん。
や、ヤンデレてしまわれた??? ルーが??? なのん? カードコネクト!
いやちがう、なんの、理屈と論理回路の過程を経て?
WHY? ウェイ…俺はハルヒのキョンじゃない。
モノローグというのは、苦手な方だ。
呼び出された俺ちゃんは、……
現在、監禁されている……
縄で、長椅子に縛り付けられてしまっている。
ルーのおうちの、その食堂にて。
「 おじいさまは、今日は開拓街の方で、雑務があるとのことで、
ボクをとめられるモノは、いまはこの家のどこにもありません……」
これ! よさぬか! ルー!!
……と、下手な声真似をしてみる、
が、ルーは、湿度を帯びたその瞳の、
しかし……ヒヤリ、とするような、酷薄な笑みで、
「結婚式を、挙げましょう。」
わっと?
「幸福な結末は、結婚で幕が飾られる……とはだれの言葉であったでしょう。
ボクら二人も、そのはずです。
幸せな門出を、きょうこれから、むかえましょう……」
ほわい?
ルーのやつは、完全にトリップしている様だった。
妖しく潤んだその瞳の世界の中には、俺の影しか写っていないようである……
ほら、よくみてみよう。目の中に、はぁと♡ が、浮かんでしまっている。
お脳みぞの中身が、どこかの地平にへと……旅立たれてしまっていた。
ならば俺の言い分と説得を聞いてくれ、と。
「あは、♡」
▼こうか は ありません でした!
まあまて、まて、待つんだ、まってくれ?! ルー!
「 問答、無用……!」
倍力魔法を己に掛けたルーによって、俺ちゃんは、なされるがままであった。
はさみで、服を破り切られ取られる…………
(あぁっ、この服けっこー気に入ってたのに!?)
おれちゃんはもとよりもやしなのでもあるし、
振り返って、ルーはこんなので、実はもともと、鍛えているから、体力と筋力とスタミナは、元からけっこうある……
さらにそこに倍力魔法の加護がかかったときたのだから、
二十歳の成人である俺は、この十代半ばほどの小娘のような性別不明娘に、なされるがまま……であった。
「既成事実を作るぅ?!」
続いてルーがのたまったその言葉に、俺ちゃんは恐怖するしかなかった。
ま、まってくれ…俺の処女は、オマエのでは貫通できないはずだ…
…いやまさか、オマエのって、でかいのか!?
「 むふ~、? それも一興……ですが、ボクは、」
ルーは、天使は天使でも、堕天使の如き、満面の笑顔になって……
「ぺろぺろします。」
………………、、、。。
ザット? すぺーしぃー、…いやそれはともかく、
「そう、ぺろぺろ。」
( いまなんて? ということだが、…… )
「 ぺろぺろ、をしたあとは、ちゅっちゅ、もします。
ユウタの全身に、頭の先からすべてまで、口づけの接吻の雨を、降らしてしまいます…………
……したぃ……ですねぇ……? 」
……
なあ、きいておくれ、ルー。
紳士なんて……変態紳士なんて、いないんだよ……
「? ボクがそうなりますよ?」
はい……?
「 もう、こうなれば、なにもこわくない。
こわくないんだよ、ユウタ。
? なんで、そんな怯えてる瞳なの、?
ボクはこわくないんだよ……?
そう、ボクはこわくない……
ボクは今日から、暗黒の黒騎士になります………」
な、な、なんなのだね、それは。
「ボクがユウタにこうしてお手つきの、手篭めの毒牙にかけよう、
と、そうとまで思いつめさせた、ユウタにだって、
責任は多少なりともあるのですよ……?
いやあ、今晩のこれからのことを想像するだけで、
ボクは自分の劣情をがまんできなくなってきますねぇ♡」
こ、こわい……
やはり、変態紳士なるものは、なかったのだ……
──俺ちゃん、ゆうたはそう譫言した。
「さ? はじめましょうか……」
な、なにをする、と怯える声を上げる俺ちゃんに対し、
ルーはアンプルボトルの口を、ぱきり、と開けると……
「 ほら、ほら、さあ♡」
ぐびぇっ?!
強引に開かれた俺ちゃんの口である。そこに、
前歯とその付け根歯肉に飲み口がぶち当たった! こんなことをされたら、歯の歯列が歪んでしまう!
が、ルーのやつは手加減をしてくれない。
ぐびぃっ!…──と、ルーのその勢い余ったやさしくない手際の手付きで、俺ちゃんはそのアンプルの中身を飲まされはじめた……
ぐびっ、ぐびっ、ぐびふっ、えぶっ、おふぅっ、ぐへぇあ…?!
「ど、ど、
どうですか?? ユウタ?
ボクのこと、ボクのことを、いまにも襲いかかりたい、と、己の毒牙でボクのからだを汚し尽くしたいと、
犯し尽くしたいと、
むしゃぶりつきたい、と、
劣情が我慢できなくなりつつありますか??
ボクはもう我慢できません!!
もうしたい、すぐしたい、いましたい、!
ふ、ふふふ……
どうです?? ユウタ♡ 」
……ぐぷぇっ……
…………、、、。。、、
あのな、………この薬…のみものな……
うまい、
………、、、
……はぃ?
うん、
( それから一分が経っても、なにもおきなかったのである……
いや、体が多少元気になった、というのは感じるが、
媚薬、だとか、惚れ薬、だとか、ましてや強壮剤としても、あんまり、効果は……、………。。。。)
……
異能で、調べる。…
容器を慎重に傾けて……
指の腹にしずくを垂らして、それで、鑑定してみた。
エリルリアが処方を経る、その経緯と場面の光景が、ヴィジョンとして目に浮かんだ……
ユウタがエリルリアへあげた物品の中で、特に効き目と美味しさで気に入った、
ファイトイッポン、のリポヴィタミンDと、
レッドホーク、翼をください……
それの模造を目指してテストとして作った、試作品………
………………
“取り違えた”?
…………
ぶわっ! とルーの気配に、暗黒が、噴出したのがこのときである。
……ユウタに、ユウタにいただいた、たいせつな、ボクのだいすきな、ジャガリィコ……
それも、特に、こないだ、ユウタに、直に頂いた……たいせつな……たいせつな……
キチョウなんだぞ……キチョウなのに……
あのおんな……あのくそ年増……いいかげんにしろよ………?
「あれ?
そうしたら、ほんものの、媚薬、というのは、どこに……」
唐突に、気付いたようにルーは譫言すると、
「 ちょっと、さがしにいってきます。」
お、おい、ルー?!
そうといって、まるで夢遊病患者のように、おぼつかない足取りで、ルーはこの部屋を離れていった。
かくなる一方の俺ちゃんなのであるが、
俺は椅子に緊縛されていて、身動きが取れない。
もが、むが、もがぁ~!!
は、はぁはぁ…まったく、俺ちゃんたら、まったく無力……笑えない……
え、ん?
「……」
ぎゃあ!?
なんと、エリルリアが現れていた。
ルーが、向かっていった廊下とは、反対方向の入り口から…………
卓台の上に、ワインのボトルをごん、と置いて、エリルリアは隅々まで、椅子に縛り付けられたユウタを睥睨し………