?!始めにクライマックス?! 2/6’(全6話)
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その二国間の双対称が、俄に冷戦から熱戦と化したのが、つい先日のこと。
その一大ページェントの途中までの結果を述べると、いま此処にあるのが、不毛な荒野なだけではなくなった……とも言える。
……多少程度、林や植生と言える範疇ではあろう生えかけが散らばってはいる。それだけなら、呆れるほどに単純に、極めて辺鄙な場所とその地形である。
果たして、元々に人の住処やその痕跡というのが、一つか二つは有ったかどうか。
だけども、この場所はごく最近になって様相は変わりつつある。
森から原野をしばらく行った先に、出来たばかりの人工物の群生が、丘の起伏から、その存在がちらほらと見えている。
ほら、見てみよう。
偽装網に被われたコンテナの群れ、天に突き出た速射銃の類いの銃身とその銃口……
万が一、として、「敵国」のワイバーン騎兵などによる襲撃への対処として各地点に配置された対空機砲の銃座や、噴進魔導棍……ブラストログ(いわゆるロケット弾やミサイルの類いの、この異世界での兵器種類だ)のキャニスターやランチャーに収容庫、それから、大型だったりの、バリスタなど……
そうした対空警戒用のカモフラージュネットを被せられたそれらは、いわゆる軍事物資やその兵器類の弾薬などの集積であった。
ここは、軍事的な前線補給所であったのだ。……
センタリア軍・第79物資集積サイト。
此処の名前はそうだった。
「敵襲!!!!」
それが今、動き出す。
野菊の綿毛が、割れるように散った。
荒れ果てた原野の最中に、爆光が閃いた!
……BAWOOOM!!!!!!
「……何が来た!?」
「指揮官殿っ、そ、それが、見たとしてもよくわからない物体が、突然襲ってきてぇ」
「見たらわかる! いや、わからんが……
狼狽えるなよ、……、……あれはゴーレムの一種であろう!」
「は、はぁ?」
……DOW!!!!DOWAWWW!!!!……
再びの射撃の連続。
こちらの砲座からの応射と、それへの……
なんてこった、こちらからの銃撃はかわされるか当たったとしても効果が無く、相手からの銃撃は……余程高性能な火器管制装置の制御がされているらしい……こちらの砲座の複数を、的確に破壊をしていっている!
そんな時に、もう一回、炸裂と閃光が撃ち鳴り響いた…………
ゴーレム、と指揮官が看破した、その“マシン”が発砲してきているのだ!
……それはともかく、
爆風が遅れて吹きすさび、
指揮所のテントの天蓋が吹き飛ぶ。
その場の指揮官と部下の士官が狼狽えをする。
回りの兵士たちは、唐突なこの奇襲に、慌てて惑うばかり。
「……被害は!!」怒れる指揮官に、
「で、伝令が来ないので、わからな……」
……とする、若い士官。
……こいつ、正気か?
あまりにもあんまりな応対に暫し呆然と口を開け、その後、怒髪天……を突く髪の毛は最早その頭皮の心許ない毛髪としては残されていない中年男ではあったが、とにかく、カッチーン☆と来た指揮官である。
「……自分の脚と目を使え! 行ってこい!!」
「は、はぃっ!!!」
はあ、……悪態を吐きつつも、おそらくこの士官は帰ってこないだろうし、
二度目ましてのご対面が霊安室なりで有ったとしても、
まあ三度目は、御免被る……あの世で仲良くコンニチワ、だなんてのはね……とする指揮官ではあるが。
(エルトールの、反撃か?)
迂闊だった。
油断をしすぎていた……指揮官は唸った。
飽くことなき快進撃を続けていたセンタリア軍は、その最前線は遙か西……かなりエルトール側に食い込んだ地帯に、その正面を構えつつある。
……それは、前線へと行く中途でこの陣地を通過する後続援軍の味方たちから、母国からの出撃前に、後方に拠する我が軍の将軍達から聞かされた、とする内容の又聞きということだった。……
なので、そこから遠く離れたこの場所の此処に、まさかエルトールなんて、というのが実直な感想だった。 遊撃隊だとかはぐれ部隊の類いでも、こんな愚連隊じみた真似を指揮する指揮官は、正気では無いのでも限り、そうそう居ないだろう……
だが結果を言えば、いま現在のこの状況に行き当たる。指揮官としては、率直に反省したい。
不毛な原野で確かに間違いないこの地点ではあるが、しかし、ここは、東の国・センタリア国の部隊の物資集積陣地だったのだ…………
センタリア国は、今から遡ること三日前に西の国・エルトール国に対して、宣戦を布告。
軍事的手段によるエルトール国の統治政体の転覆を目的に、行動を開始。
今現在においても、開始したばかりのエルトール国への侵攻は続けており、
それはまずまずの成果と好調ぶりであったのだ……
……いままでにおいて、は。
言うならば、此処までが“順調すぎた”。
隊の指揮官は、携帯双眼鏡を取って、
己の目で相手をみらんとした。
どぅん!……ババァン…………ォォオン……
爆発の音が連続する、そして木霊が轟く……
弾薬類などのコンテナを、相手が破壊したのだろう。 そうして立ち上った濛々とする燃えた炎と黒色の燻煙の、その境目とグラデーションの向こうに、“ヤツ”の姿は見えていた。
ん? ……指揮官は、数度ほど、その目をぱちくり、しぱしぱと瞬いた。
その双眼鏡越しのヤツの姿を、刮目して見入るために。
……よくわからないシロモノだ。
湿ったパンにでも生えそうな、青カビの色をしている。
それから、見た目が、なんというか…………
この違和感は、一言でいえば、「奇怪/機械」であった。
(……骨格がそもそも違う……
はぐれオーガでもなければ、それらをシャーシにハリボテの鎧を着せたネクロアーマーの訳でもなさそうだ……
だが、だが……しかし……
私は、確かに直感のまま、ゴーレムとは言った。言ったが、これは……!?)
「指揮官殿? 部下に、伝令を来させるように命令いたしました!」
「……」
先ほどの士官が帰ってきたが、しかし、こんなものであった。
……こんなものが!
ギャグコントをやっているのではないんだ、と指揮官は頭が苦しんだが、それでも、……
……なんでウチの隊にこいつはいるんだっけ。
そういえば、なんかお偉いさん……にツテがあるおうちのボンボンだとかで、それで、
最前線でない後方の物資集積所での“配慮ある”配置になっただとかした気がする。
「……敵は? アレの、数は?」
「はっ、不明であります!」
「……、」
「敵目標の目的も、交戦の意図も、そもそもアレの所属の如何まで、なにもかもが不明です!
自分も疑問に思っていたところです。奇遇ですね!」
「……疑問に思う猶予があるなら、貴様も迎撃に加われ!」
「ひぃっ?!」
仕舞いにはケツを蹴り飛ばして件の士官を放り向けた訳だが、
センタリア軍・第35施設警護大隊を指揮する指揮官:ハムスサウゼン大尉は、怒鳴った。
……「あんな機敏で高速なゴーレムが、史上にあったというのか?!」
なぜそれに衝撃を受け得るのか。……
この世界の魔法や錬金術で造られる所の、既存にあったゴーレムというのは。
のろまで・図体がでかく・材料と配合物と術者によって能力と出来ることがピンキリで・しかしなおかつ、従来から“戦場の花形”ではあった。……なによりものこととして。
その既存の……例えば土ゴーレム。
この土ゴーレムの一般普通の平均的なのなんかと比較すると、
目前の遠くで、自陣地とその兵士達相手に暴れている最中の、あのカビ色のゴーレムは、
ダッシュ走行時には、十倍くらい……下手すればそれよりもさらに……だいたいは十一倍くらいは上回るモノとして、高速な運動性能があるのではないか?
双眼鏡で、
自センタリア軍陣地守備隊の銃撃砲火をスラロームの如くかわしていくその“カビ色のゴーレム”の動きを追いかけながら、ハムスサウゼンは唸った。
感嘆、といってもいい。
それほどまでに、……圧倒的な、機動性。
軽快さ、身軽さ、と言い換えてもいい。
ぱっと見の見た目の鈍重さなら土ゴーレムと大差ないような見た目だが、あのカビ色は、かなり機敏に動けている。
その挙げ句に、思った。
あれは、どんな素材で出来ているんだ?
そして、パワーも旺盛だが、その動力源は?
自軍の、自隊の部下たちの必死の抵抗の銃火をものともしない……このアリスティリウの魔導銃砲だぞ!? 唯の鉄板なり軽合金なりの、並の装甲なら、数発当たれば、イチコロに砕けて割れているはず……
そして、阻止するべくも迂闊に近づいたセンタリア軍・軽武装スカウト機のランナバウト……ランナバウト、というのはこれら機械で出来ている乗り物の総称ではある。が、あのカビ色のとは、格段に劣る……の類いが、
そのカビ色の~の、
拳と腕の数振りで、蹴りの何発かで、
見るも無惨なスクラップにへとやられてしまって、
後にはジャンクとなった残骸しか残らない……
脳裏と己の背中に、特大の感覚として、怖気が走っていた。
全身から、足先から物理的に血が抜けていって居るのか、と思うくらいに、身体が冷えて、重くなっていく……
だが、
だが、だが……
ハムスサウゼンは、惚れ惚れとしていた。
「……確かめてみるか」
ハムスサウゼンは、胸元に付けていた、宝珠……元々は勲章として与えられたそれを取り外して、そして、手に持って、魔力と命令をこめながら振った。
この勲章の記章は、過去に名誉褒章として国から賜った、己の個人携帯型アイテム収納宝珠だ。
それの“取り出しコマンド”を作動させ、そこから、己専用のゴーレム錬成の為の各種補助材料を、足下の地面へと落としていく。
ハムスサウゼン大尉は中隊の指揮官であったが、
そもそもはゴーレム騎兵科上がりのたたき上げである。
……又の渾名は、「ゴーレム・クレイジー」。
少なくない友軍の中でもゴーレムに纏わる武勇伝が轟く彼は、ゴーレムのことと掛けては、特に目端が利く。
そんな己の中の、“ゴーレム遣い”としての、血が騒いだのだ。