6(6/6)-ルーのお礼?-
「むふふ~ん!」
きのうは最高の夜だった!
ルーテフィアは起きがけ早々、
そう昨日の日の、晩の出来事を振り返った。
「ゆぅた……、……」
そっ……と、
おなかのあたりに、やわらかく手を当ててみる。
そうすると、ゆうたの食べさせてくれたあのふるーちぇの味が、
まざまざと思い出すことができて、
とろけしみでそうになって、
なによりも、その作る時にとってくれた、ゆうたの行動が……
「むふ~、…………♡」
背中越しに感じた、
自分へと向けられた、向けてくれた確かなゆうたの愛。
そのふれあいと、
はじめて行った、二人の共同作業……
そのつかのまの時間はとても心地よかったし、
このゆうたに抱き続けている胸のときめきが、
ルーにとって、生まれて初めて味わうと振り返れるほど、、、、、
気持ちがとろけそうになるほど、
あの時高鳴った。
ゆうたと自分がそうなれたことが愉しく、嬉しい事この上なかった。
自分と、ゆうたの、二人の仲は、今までになく近づくことができた!
……と、独りよがりではない視点で見る事を心がけたとき、
自分にとってはそう思えるのだ。
「ゆぅた……」
恍惚となる自分の思いと身体と心……
今、自分はとっても幸せで優しい気持ちと気分に、浸れることができている。
なにより、欲、が出てきた。
もっと、睦ぎあえる仲になりたい。それを深めたい。
このゆうたとの関係を、である。
もし、もし昨日のこれ以上に嬉しい出来事があれば、
自分の気持ちの理性はどこへと旅立ってしまうのだろう……?
目を閉じたルーは、己を慰めるように、自らの胸懐に両手を抱いた。
(ゆぅた……だいすき……)
背中越しに抱かれたとき、自分の鼓動と、ゆうたの鼓動が重なって感じることができた。
やけにおおきく感じることができた。
自分とゆうたは特別な関係になれたのだ。……、
ゆうたに迫るアリエスタの事なんて、
もう、まったく気にならなくなっていた。
だから、今日の昼、その光景を見たときに面食らった。
単刀直入に言えば、衝撃を受けた。
「おお? ルー。みたまえよ、昨日おまえに食わせたふるーちぇを
アリエスタにも勧めたら、興味もってもらえたんで準備したんだ。
おぜぜが稼げるチャンスだぜ~?」
「牛乳だけさえあれば作れる、というのは強いわね!」
「――え、」
信じられない思いに、塗りつぶされた。
己の心の視界が、真っ黒に彩られて染められた、ように。
昨日あったばかりの、
自分とゆうたのとっても大切でだいじなおおきな思い出が、
このアリエスタというやつに換金化されてしまうような、
そんな悪感情の迸りが己の底から急速にしみ沸き出してきた。
ゆうたも、なぜそれを看過してしまうのか?
自分との、大切な出来事の筈ではなかったのか?
なぜ、それを見過ごしてしまうのか?
自分とのあの思い出は、嬉しくはなかったのか?
うれしいものではなかったのか?
「それじゃあ、わたしはね……」
アリエスタが、ふるーちぇの箱を手に取った。
ルーテフィアはさらに愕然とした。
昨日自分が食べさせてもらったのと、同じ味の箱だ!
それを見たルーテフィアは、
どこから湧き出たかもしらない怒りの感情と、不満足の悲しさに、
理性がまっしろに染まり……――
× × × × ×
「…――、」
「えっ?」
ばっ、と、
無言のままのルーの行動に、俺は目を疑った。
アリエスタの手に握られていた、ふるーちぇ、の箱の一つを奪うように取り上げると、
「………、ッ!」
ぱぁん! ──と、
地面の床にたたきつけたのが、今この瞬間、目の前で起きた事だった。
ルーのやつがおこった。……不条理な怒りかたで。
唖然と呆然をしている俺の目の前で、ルーの奴は俺の目を、
いつになく悲しげで寂しげな、据わった表情と目の色で、見続けていた……
「ルー! どうしたんだよ、、」
「ゆうたぁ……!!!」
俺が声を掛けると、びくっ、と跳ねるように、ルーの身体が反応した。
それから、……我慢ができなくなったかのように、
目から涙をこぼし始めると、
「──うぅぇえぇぇ゛ぇぇぇぇぇぇぇええぇぇぇええぇえぇぇぇん!」
泣きじゃくり始めた……
俺は困惑したままだし、アリエスタのやつも、戸惑っているままだ。
「ゆぅた、ゆうたのばかぁぁぁぁ! なんでっ、ひぐっ、
どうしてボクに、こんないじわるするのっ……
ひぐっ、、ぐすっ」
どこぞのゆっくりみたいな事を口走りながら、
とは茶化せない語気で、ルーのやつはそう言い募る。
そんな。なんで、どうして……
俺が口を開くよりも先にルーの二言目は発されて、
「せっかく、なかよくなれたから、とくべつな仲になれたからっ、
ぐすっ、
ボクがゆうたに、たいせつな、
こんなにすてきなものでなかよくなれたって、
おもったのにぃいぃ! ぐじゅずっ、ひぐぅっ……
ひどいよぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉおぉぉ!」
……、……
ルーのやつは潤ませたその目から涙の粒を落としながら、
そう、ふりしぼるように声を上げた。
腰を屈めて、床まで手を伸ばして、ふるーちぇの箱を拾い上げる。
ルーの破いた一箱を使って、簡易にフルーチェを、一ボウル、作った。
「とりあえず、ほれ、」
「、、、、、、。。。。。。。」
……ルーの奴は不服そうな泣きじゃくり顔で、
無言のまま、顔を左右に振った。
幼児のようにイヤイヤをするルーである…
…まあおこさまなのでしょうがなかろうがネ。
それでもふるーちぇの乗ったスプーンを俺がふりふりしていると、
観念した様子で、ぱくり、と……、、、、、、、
「どうだ? 機嫌、なおしたか?」
「………(つるん、ごくっ、………、、、)」
ルーの奴は、涙を止まることなく流し続けていて、
スプーンの上のふるーちぇの上に落ちたものと、
それから頬を伝った分が、口の中へと入っていった……
ごっくん、と、
「なみだのあじがまじって、しょっぱい、です。。。。。」
「へいへいよ、」
「…………ゆうた……ごめんなさい。……」
「じゃあほれ、二口目いくか~?」
「…………、(はぐっ、もぐっ、もぐもぐ)」
だいぶすなおになってきた。
ルーのやつ、なにに気を悪くしたのかはわからんが、……
口ではこう言っているが、まだこいつは拗ねている。
なおも泣いているこいつの機嫌をとりなおすことは、
中々難しそうだった。
「ふーん……」
アリエスタの奴の、にらむ視線が俺の後頭部に刺さる……
「! ゆうた、、ゆうた、! ボクのこと、ぎゅって抱きしめて!」
「は?! あぁ、えぇっ…と、」
「ゆうたー! はやくしてー! ねー! やくめでしょー!」
それを見たルーテフィアは、
なにと張り合っているつもりなのだろうか…
ていうか、そっちのゆうたとはちがうわっ!?
俺の小学生時代のトラウマを的確に突いてきやがるなオマエ……
「ふーん………」
嗚呼、背後からの視線が痛いです、ハイ。
* * * * *
「あんたにルーテフィアさまを取られた、なんておもわないわ」
アリエスタの目は無表情であった。
「わたしの魅力にはあんたは叶わない筈、わよね?
考えられる敗因は、魅力的なシチュエーションの有無、なのだわ」
「は、はぁ……」
「ルー様も心と股間にオスの獣のシンボルをもっておられるはず!
抑えきれなくなった情動は、魅力的なロケーションこそで、
最高のアバンチュールを迎えれる筈!」
「しかしその……、左様ですか?」
俺がそうなにげなく声をかけたところ、
アリエスタのやつは目をキッ、とこちらに向けた後、
「ぅるさい!」「くべっ」
ありえすた の にどげり!
「わたしはあんたなんかに見劣りしないもの!
なによ、おとこのこどうしでなかよくなっちゃって!
ルーテフィアさまはわたしのものになるの! わたしのものなのよ!」
けたぐりが連続されて食らわされた。
「…………まさか、おとこどうしの趣味が?!」
どきゃーん?! となったアリエスタであるが……
尚も、アリエスタからの詰問は続く…………