2(2/6)-ルーのお礼?-
「ボクにできるお礼、ありました!」
ん?と俺がルーのその話を聞いたのは、次の日の朝飯の時のことである。
居並ぶメイドたちと一緒に朝食をとりながら、ルーは今日も今日やという肉混ぜご飯を口に運ぶ匙をいったん皿に置いて、
「ボクの大好きな“まるたのけぇき”を、いっしょにたべましょう!」
「まるたのけーき?」
そうなんです、とルーの奴はこっくり頷くと、
「焼きあがって仕上げると、切り口がおおきな木の断面みたいな模様になっていて、それでいて、甘くてとってもおいしいんですよぅ!」
「ほ、ほへー……ほえー……」
こりゃあアレだ、バウムクーヘンだ。絶対バウムクーヘンだ。そうでなくてもその親戚だ……
それにしてもなんで?
「ボクがまだちっちゃかったころから、年が一つあがる度にその晩ご飯のときにだしてくれるんです! メイドたちが総出で焼いてくれて…ボクの思い出なんです…」
しんみりとする理由であった。
「もうちょっとで、それを作ってくれる日がやってくるんです。どうですか?」
……ん?
「ということは、おまえ、今度誕生日なのか?」
「はい! 今度の誕生日で、騎士として洗礼を受ける事のできる歳になります♪」
なるほどなぁ、人生の節目、って訳か。めでたいものである。
せっかくだから、御同伴あい預かることとしよう。
「! はいっ!」
ルーは心底うれしそうな満面の笑顔で、俺のその言葉を承諾してくれた。
が、俺には懸念を一つ思わざるを得なかった。
その場に居合わせたメイドたちは、皆浮かない顔をして、この会話を聞いていたのである。
「タチアナ、イリアーナ、今度も、また、絶対、作ってくれるよね?」
「……御身が望むままに、」「ま、まかせてくださいっすよー! あははは、はは……」
「ありがとうっ、楽しみにしてるからねっ♪」
「………はい…」「あ、ははははははははは!!!!…」
理由。
それは……
* * * * *
「つくれるわけないじゃないですか、日々の食料の調達にも難儀しているのに、そんな、嗜好品と高級素材の固まりであるお菓子のけーきだなんて……」
う゛え゛ー、といううなり声ともうめき声ともつかない声色を発しながら、アヴトリッヒ家のメイドたるタチアナ氏はそう語った。
場所は、アヴトリッヒ家屋敷の厨房である。
「やっぱりか……こないだまで黒麦粥をゲロゲロ食ってた所で唐突に話がでたもんだから、んなもん調達できっこねぇ、と思ったぜ……」
「さもいわんや、です。」
タチアナは弁解する余地もない、という仕草をとってから、目線を再び俺へと向けて、
「それにしても、貴方はなぜルーさまにこんなに優しく尽くされるのですか? あいにくとも、我が当主の家は借金漬けの先行き暗い貧乏伯爵家。
この世界に取り入る為の、さきをみすえたとうし……というやつならば、あの蒼髪のハーレンヴィルの女がいい物件でしょうに」
「そこまでいうかい、」
オイオイ、という奴である。
「これは、俺からルーへの応援だ……」
俺のこうする理由は、要するに、
「誕生日のケーキ、だもんなぁ、せっかくだから食わせてやりたいじゃん?」
「それにしたって、材料が……」
「材料なら、なんとかできちまうんだなぁ?、これが」
俺は手元のスマートフォンを、タチアナに向かって指し示した。
「なるほど……さすが異世界人、ですね。」
タチアナ→俺。
おい、そのせりふは言う矢印が逆になってるぞ。
「それで、どうするんですか? ルー様に恩を着せるようなつもりなのでしょうか?」
だからいったじゃないか。俺が材料を提供したことは、こっそり、隠しておく。ルーの思い入れを大事にしたいし、ムードも大事だろう?
サプライズってやつだよ、
「なるほどです。そうなれば、障壁はもうないようなものですね。」
はあ、家臣の鏡を見ているようだ。
当日、楽しみにしてるよ……ところでイリアーナの奴には?
「“丸太のけぇき”を焼く作業の分には私よりも奴の方がうまいんですが。いかんせん重作業なので…私も本音は任せたい位なのですが」
それじゃあ、なんでそいつをつかわないんだよ?
「イリアーナのやつにまかせてもみてください。あの同族は“むーど”というものを理解しないんですよ、……どうなるか、おわかりですね?」
容易に、泣かされるルーの姿が幻視できた……確かに、あのイリアーナに任せてしまっては、そうなる気がする。
「ルーのやつの誕生日っていつなんだ?」
「三日後、ですね……」
* * * * *





