4(4/5)-末妹の病室-
タクシーで来た…未依のいる市立病院へと
ガーンズヴァルの家族、
奥方の エリルローズ婆
娘の エリルリア叔母さん
それから、ルーのやつ。
杖を持ち込むのに手間取った……が、
先生が、許可してくれた…
──未依ちゃんを元気づけるためだからね、
まだぎりぎり、面会時間だったからよかったけど、
あと三十分もないよ?
え、えぇ……手短に、いけたら、よいのですけど。
「その心配は、ひつようない。」
……
知り合いかい?
え、ええ、まあ、こないだ近所に引っ越してきた、娯楽好きの一家さんでして…外国からこられた…
コスプレ趣味の親日さんなんでしたっけ?
アハハ、未依ちゃんも喜ぶわよね!
ベテランの看護師さんにも、そう励ましてもらえた……
〈未依の病室の中〉
はたして…………
「これが、そのクレネンクってやつですかい?」
ユウタはイマイチ信用しきれず、その目と表情は胡乱げなモノとなっている。
クレネンクの外観…
折り目の入った粘土板? それというか、まるで、鋳溶かして鋳込んだ、ざらざらなアルミのような……
色は、白銀系であるが、
なんというか……なにがしかの金属だとは、思いがたい。
昔の日本には、折り取って使う方銭というものもあったと聞くが、さて。
「金属類の感触にも感じられる…」
これが、いのち、ねぇ……
「ボクのいのちです。これを、ユウタにあげます!」
どやぁ……というルーの表情。
まあ……それもそうであろう。
「
高純度の魔力の凝固結晶体……空気中の魔力元素を、物質化するまで凝縮硬化させたシロモノ。
難度の高い高等や秘伝のたぐいの魔法を、
確実に100%以上で成功させる?
魔法使いや錬金術師にとっての、一種の特殊燃料?」
そういう具合の、そういうモノだ…………
ガーンズヴァルは、そう厳かに、述べた…………
「なにこれ?」
がじ、と未依はクレネンクをかじってみる。
「……へんなあじ! おぬいたん~!」
「まあ、未衣、ちょっとまっててくれ…」
いいつつ、ユウタも冷や汗をかく…
ほんとうに、こんなもので、なんとかなるのだろうか?
「……まあ、まってなさい。」「ふぉっふぉっふぉ……」
術士であるエリルローズとエリルリアが、魔術魔法の詠唱を始めた。
部屋の扉は閉じてある。
その、病室の部屋の中に、魔導の輝きが溢れ始める。
「わぁ…………おぬいたん、きれいだね!」
お、おぅ、……ゆうたはそうたじろぐしかない。
すると……
クレネンクが、光を放ち始めた。
まばゆい輝きが、その小ぶりの四方型から溢れ出す…
その状態は、
固形固質のものから、ざらざら、さらさら……と流動的に形が崩れ始め…………
光の粒子となって………そして、
「わ、わ、わ……」「……?!!!」
未依の、からだに、すぅ…と吸い込まれた。
……光のイリュージョンは、そうして終了した……
piiiiiiiiiiiii………………
「な、なんだっ?! バイタルチェックの音が…………」
ユウタは動揺して、
「失敗したんじゃないだろな?! ……ぁあっ、これは…………急に数値が回復したから、アラームがなりだしたのか……
……うん???」
「……数値が、回復??」
呆然となる、ゆうた。
…………ゆうたは、冷静さが飛んだ状態になっていた……
「?」
一方の未依は、
「? ……、、 。。。」
「!!!」
「すごい! げんきになった!」
「ほ、ほんとうか? ほんとうなのか?! み、未依…………「どうしたのだね、これはっ」「402号室、バイタルのナースコール呼び出しが鳴ったからきてみたけど、これは…………っ?!」」
脈拍、酸素濃度…………
「信じられない!これは……」
俄に、看護師たちが集まり始めた。
「おぬいたん……おにいちゃん……ありがと………」
「おねえちゃんたち、本当にありがとう!!!」
未依は、そうお礼のことばを、ガーンズヴァル一家と己の兄に、伝えた…………
──どうしますっ?! 一大事なので、面会時間の終わった以降も、
いてもいいですが、
最短でも数日は、未依ちゃんの様子をみます。
このあとは、もっとせわしなくなりますよ、ここは!
「……あ、あぁ、はいっ。了解です、とりあえず、今日のところは、帰りますね…………」
呆然となるしかないユウタは、唯々諾々と、看護師達や医者のその呼び声に、そう答えていくしかなかった……
そうして、ゆうたとアヴトリッヒ家の人間達は、
病室から廊下にへと、追い出されてしまった…………
「ユウタ、ユウタ♡」
「……なん、だ……よっ、……ぃ、いや、なんでしょうか……?」
「仰々しくならなくても、よいのです♡」
ユウタは、現実が現実と思えないような、認識にエラーが生じているかのような、そんな感覚にいた……
……なので、いまいちルーに、意識の焦点が合わない。
まるで船酔いするかのような酩酊感であるが、しかし。
それでもなんとか焦点合わせが出来たとき、
ゆうたは、この目の前の、フレンドリーなガーンズヴァル一家のことを、どういう、なんという、目でみればよいのか、わからなくなってしまっていた。
「ボクのいのち、あげることに、成功しました♡
わぁいっわぁいっ♪」
よろこぶべきことなのか?!
いや、こんな簡単に、気軽に、しかも一時のご厚意で、くれてしまえるような、そのようなモノなのだろうか……
もしかして、寿命や人の命を削ったり結晶化させたのが、あのクレネンクだとするならば、
……いや、それはともかく、お礼を言わないと。
「ありがとうございます。…………ガーンズヴァルさん、みなさん……」
「べっつに、あたしはいいわよ、愚姪が万が一の時に困るだけでしょ?」
「これ! エリルリア!!」
「ふむ、」「……えへへっ」
そうなりつつ…………
「……ところで、ドウジバシ……」
ン? えっ?
「なぜ、礼の時、我の名を最初に呼んだ?」
え゛っ、
「えっ? ……えっ、そ、それは、貴方が、ガーンズヴァル……さんが、そちらアヴトリッヒ家の、家長だからで……」
「孫の顔を、みよ。」
そう言われて…………視線を動かすと……
「 ♡ ♡ ♡ 」
はーと♡ を飛ばしながら、なにか、を待ちわびている様子の、ルーの、やつ……
「あ……あのぉぅ……?
ボクのなまえ、も、よんでほしいなー……って……」
……………
「…………現金ですかねっ?」
………………、、、。。。。
「はっは……いつぞやのときとは形勢が逆よの?」
…………
「先刻のクレネンクの行使は、この、我の孫の、ルーやが、願って望んだことぞ。
恩義があるとしたなら、まず、ルーやに、である」
…………………………あー、えー、…………
「ルー、ルーテフィア、……さ、「畏まらなくてよいのですよぅっ♪ ユウタ♡」
──お、おれは社会経験がゼロの引きニートだから、こういうときにどういう言葉をだせばよいのか、まるっでわからんのじゃいっ!!!」
迷った末、
「ありがとう、ございます!! ありがとう、本当に、ありがとう! ルー!!! 」
きっちり、九十度の、お辞儀で。
その言葉を、なんとか紡ぐことができた。
「こちらこそです♡ どうもいたしましてっ♪」
ルーの奴は、無邪気で、なんてことの無いように、俺への笑顔を咲かせている。
──チクショウ、畜生、これじゃあ、未依が助かっただろう、そのうれしさで泣くこともできやしねぇ!!!
おれは、顔を俯かせているしかなかった…………
しまいには、顔を背けさせて、背後に振り返って、
誰にも見えないようにして、
鼻をすする音をさせながら、涙がでるのをごまかすしかなかった…………
「ふむ、終わったようだの。
ところで……ほれ、ルーや。」
「?」
ルーがガーンズヴァルから手渡されたのは、ひとつの巾着袋。
「……ボクのクレネンク入れ? だ、だけど……」
「? どうしたか?」
「お、おじいさま、中身がそのまま……なのですけど…これはどういう………」
どういうこともないぞ、ルーや。
……とガーンズヴァルは慈愛の表情で、己の孫を視ていた。
「あ、あれ、?」
「おじいさま、ということは、なんで、さっきの、なんで、ボクのぶんのクレネンクではなかったような?
そうなのですか?」
そんな折、ルーが、そのことに気付いた。
「さ、さっきの、って……、?!」
「おじいさまの、クレネンクだ!?」
ルーは、絶句していた。