3(3/8)-アリエスタのしあわせムコ取り計画…-
――……ガンガン、ガン、
……ガン、ガン、ガン、ガン、
「なんだぁ?」
「おじいさまがうなされてるの……取り立てが、とりたてが、って」
がんがんがんがん、という音は尚も聞こえる。ゲッターでは無い。
シンカリオンでもなかった。
シャベルで玄関の土間でもどついているのだろう。そんでもって、かねかえせー! という若い女……というか少女の凛々しい金切り声が、聞こえてくる。……。
「無視するか、」「えぇっ……、「ふぉ゛ぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉおっ抵当にできそうな品はもうのこってはおりませぬぞぉぉぉおぉぉおおぉぉ――――」あっ、」
ルーはおじいちゃんっこだ。続けてもういっかい言わせていただく。
ルーはおじいちゃんっこだ。
多分バアサンもジジイおもいのいい奥さんだろう。叔母さんならぬオバサンもその内の一人に入ろう。親思いの良い娘だろう。
だので、そのエリルローズバアサンがジジイのみぞおちをはたいて無理やり昏倒させ眠らせただなんてのは、たぶん、見間違えだったと、おもいたい。
発作のように起き上がったジジイは再び寝込んだ。
ぐへぇっ、と声と唾を飛ばして寝込み倒れたガーンズヴァルジジイのそばで、ジジイの奥方……バアサンが冷静に滔々と述べる。
「国が予算をくれませんのです。この不況と情勢で、このアヴトリッヒはますます貧しくなるばかり。折からの食糧不足は終わりが無く、あれこれ食糧の都合を図ってみて、しかし冬越しの度にどんどん飢えて貧しくなるばかり……、」「それは、」
バアサンも、述べる顔と声は、暗い。
「御用商人に食糧を買い付けてもらってね? 開拓村のみんなとで分け合ってもらってるんだけど、……、」
ルーの声と表情も、暗く沈んだ。
そりゃあそうだ。俺が食糧援助をこの家にはからなかったらば、今頃ルーも飢えていたのだ。
とはいえ、このまま放置はしていられるか、どうか、
………………
「ハーレンヴィルのー! もーのーでーすー! シャッキン、かえせーッ! ……はぁ、まったくったら、ん?」
玄関戸を開けたら、その少女がいた。
ホウキとデッキブラシで武装したメイドを伴った、俺ちゃんの目前。
この空色の髪、たしか……
先日のお客さんの、アリエスタとかいう女の子だ。
一緒に伴ってきたのだろう護衛と召使いが遠巻きに呆れている中、
その少女は、スコップで武装していた……
「ねぇ、あんた、」「はぁ、なんでしょう、」
俺と彼女の誰何は続いて、
「あんた……アヴトリッヒの家関係のひと??」
コロン、と鈴が鳴ったかのように、こて、と傾げられた首の顔で、とびきりの笑顔が俺に向けられた。
あっ、いかん、、、、、、、、
ちょっとかわいい、かも、、、、、、、、、、、
だから思わず、『はい』と頷いてしまった。
「へぇ、………!」
青い髪の少女は、直後、豹変した。
「このー! このー! 」「なんだよ、この、いて、いててててて!?」
振り回したシャベルでどついてこようとする、先日ぶりの、アリエスタという少女である…………
「なにすんでぃ!?」
「あんた! あんたねぇ…!」
アリエスタは感情のほとばしりを抑えきれない、という様子で、
「あんたのせいで、わたしの計画は失敗よ!
こんな貧乏屋敷はさっさと畳ませて、わたしに借金のカタ……
ルーテフィアさまを、引き渡してもらうつもりだったのに!
ぬぅぅ……~~!」
「いてっ、いてっ?!」
うぅぅ~~…………~!!!!!
「あんたみたいなのが-! ルーテフィア様のトモダチをー!
やれてるってのに-!! なんで! あたしだけがー!!」
無抵抗の俺の髪をむしろうとしながら、がっぷりと食らいついてきて…………
これが、俺とアリエスタ・ハーレンヴィルという少女との出会いだった。
* * * * *