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植民地センタリアのあゆみ



     * * * * *



 この西偏西方世界で勃発した先の大戦から、

 おおよそ六十年が経とうとしている、このアリスティリーヴ世界…… 



 そのかつての戦いにおいて、勝利した連合国……

 人類とその友邦勢力各国は、

 勢力と領土と飛び地を

 獲得して得て持ったり、拡張して広げながらも、

 それでは統治と開拓が追いつかない、未だ無限のごとく広がる広大な土地については、


 それぞれの土地や地区に住まう部族や民族…

…あくまでも魔王戦争の折りに天界・人類勢の連合国に味方した勢力に対するのみの便宜であり、

 それらの土地に重複などして分布する、

 旧魔王国家勢やその旧国民の権利については、予防と懲罰として、厳重に制限と剥奪がこのときになされた……

 の、民族自決が大名義に掲げられることとなり、


 神種の主宰する金融界においては、

 金融商品化された“新天地”への入植権や各種商業サービスの入札、

 開発投資の権利券、

 国境だけが図上にて乱雑に引かれて形切られただけの新国家群の運営権とその債券が、

 天空の神種が主導しての介入により、市場化がなされ、

 大々的に競売に掛けられることとなって、



 時局とこの金満的な裏付けを強力に得たことで、

 これら趨勢の結果として、


 

 戦後の世界では、


 中小大問わずの、


 泡沫国家が無数に誕生することとなった。




 これらの泡沫国家群は



 資源採掘や各種地場産品の点において、

 有望な土地の地域や国家には、

 連合国の主要国によってのひも付け……植民地化が図られることとなった。



 ただでさえ荒廃と文明度の後退が見られる戦後世界においては、

 現実的に入植とその維持が可能かどうかであったり、

 魅力的で有力な植民地候補には当然として限りがあった。


 そこで、それら国家群によって、

 植民地の争奪戦が大陸各地で繰り広げられることとなったのである。




 民族自決を掲げながらの、このいびつな搾取構造は現在までも続いている。



 時は流れて……


 衰退や消滅、破綻や身売りする泡沫国家の一部も出現しながらも、


 資源開発の成功や、

 植民殖産興業の成功化などによってある程度、強大化して、

 周辺の弱小国を、

 併合して巨大化する国家が現れるに至った。



 そうして時間が経過するうちに、その勢力はさらに拡大して、宗主国と変わらないか、それ以上の規模をもつ植民地国家が産まれるに至る。

 そのうちの一つが、大陸西側アドリウス内海に面するサフフィンド・センタリア王国の保有する域外植民領土の一つを国家化したものである、

 オルト・センタリア外郭植民五号共和国である。



 元々は、前大戦終結の折り、

 人余りと終戦直後の特需消滅に端を発する経済不況によって

 職にあぶれた自国民を救済するために、エルトール国の東側、

 かつての魔王帝国の分布していた領土の細切れのいち端を元に

 植民地として建国がされた植民国家である。



しかし、国土の大きさとしては、西偏世界においては、屈指の大きさと広さを得るに至っている。



 国家の構成国民の要素としては、

 大本は、嘗ての魔王帝国が、自国勢力のさらなる増進を図るために、

 魔王帝国影響圏のほうぼうから、

 その勢力影響下の人間種・亜人種・魔族問わずの、魔王帝国臣民。

 それらを集め寄せて、次なる繁栄のための、その基幹基盤地として、入植と殖産が行われようとしていた……

 その土地と資機材と準備人員を、そのまま取り込んで市民とした、そうした由来がある。


 そしてそれらを吸収する形でクニの形が形作られたのではあるが、

 人類国家への編入にあたっては、

 新たに入植した、人類影響圏からの人間種の人員が階級として最優先される体制とされ、

 その階級は、

 最下層に人類以外の諸種族を階層的に、

 それから以上は、大まかに人類圏由来か魔王圏由来の、その人間種の等級が定められるに至った。




 オルト・センタリアは、

 重工業産業に関しては、西側各国から半完成品を買い入れて自国で完成生産するOEM・ノックダウン生産が主を占め、


 外貨獲得の要である輸出については、

 いずれも開拓地で、ほかの国々に比して破格の安さで作れる、

 三級品に近い貧弱な農産物の物量に任せた大量売却や、

 国内の軽工業やその関連生産財、

 それから肝心の、

 この世界の、各種魔導製造業に欠かせない魔鉱石…マギダイト。

…これの良質なモノが豊富に産出されるため、それらを、

 前述の物品を運んできた後の、往還する輸送船に乗せて売買をし、

 貿易を行うというのが主であった。


 

 神種が使役する天使種の運行する軌道往還輸送船による、

 この貿易は、ウィルサード大陸西端に集中する先進主要国から長距離を経由する大陸中部~南部、北部、東部への人員と物資の輸出入の要といえる、その他各国も頻用する、神種が保有するインフラストラクチャーのひとつである。

 


 しかし、そんな経済状況にも困難の暗雲がさしかかってくる。


 神種の経営するこの往還船事業は、

 かつての対魔王戦争の際の就役ラッシュで配備された船が

 現行の運用舟艇に多数をしめることに起因する。

 耐用年数の問題で運行できる稼働船は年々減少しており、


 神種の使役する工房種族により代替の船艇の建造は急ピッチで進んでいるとはいえ、

 安価にチャーターできる数が減り続け限られる一方の

 特に中距離・長距離船は取り合いの状態になっていた。

 



 一般に、往還船の運賃はきわめて高額で、

 これは往還船単体の維持稼働運用費と動力原料サーチャージの費用も含まれながら、

 さらに神種の世界の統治機構による徴税課税分、

 さらには運行先の各国から通行税として求められた分の累乗分、

 運行会社に投資した天上の各国家や権利者へ、

 配当分として微額が再配分される分……等、


 この際の特別徴収料金が、

 通称、“関税”と呼ばれる。


 これに船舶保険料、貨物保険料、貿易保険料の引き上げなど、神種内でのそうした要素もあったにしろ…

 往還船の運賃は年々上昇する一方で、下がる要素はまるでなかった。



 

 必然として、このところ順風にいっていた貿易も、うまくいかなくなりつつある。



 その推移を背景にして、

 神種も、

 ある程度の妥協の提案をせざるを得なくなったのがその頃であった。

 このことがセンタリアの産業に大きなチャンスとなる。



 その当時、地上界の西側連合国では、

 かつての魔王戦争の際に双方で運用されていた、飛空船の本格的な解析復活の機運が高まっていた。


 飛空船とは、

 神種の独占する軌道往還船や天空船には格別に劣るものの、

 通常の水上航行に加え、大気空中中を飛翔して航行できる、

 空中を飛行する船のジャンルのひとつである。


 かつての戦争の際、魔王軍はこれを大量建造し就役させて、

 天上界との激しい戦争を戦ったのである。


 その由来から、戦後は神種たちにより厳しく技術封印がなされた。

 残存魔力勢力以外では新造船の建造、及び稼働をさせることは難しくなっており、

 なにより人類勢の科学力では、

 肝心の動力構造の新規製造は不可能に近かった。


 そのことから、戦後の人類勢には、

 土上や砂上を這いながら低速で進むだけの陸上船、

 空中を浮かびはするもののペイロードと安定性の面で

 大きく劣る気球船の開発製造にはたどり着けても、

 なかなか飛空船への着手は難しい問題であった。



 永らくその状態が続いていたそれを、

 昨今の折からの往還船の便数不足と

 地上界の経済活動が活発になるほど大きくなる需要への

 対応体制の不足の長期化が見込まれること、


 さらに付け加えるならば、

 往還船の老朽化などでたびたび頻発するようになっていた

 墜落事故などで、往還船に乗り合わせていた乗客や貨物の損害の規模と犠牲が見過ごせないレベルの大規模なものになっていたことから、

 

 その隙間を埋めるためのモノとして、人類勢に

 神種からの恩賜として、飛空船の新規技術開発の許可が出されるに至ったのである。


 具体的には人類勢の科学能力でも再現が可能な

 マギダイト反応=水冷式・中重型反重力装置の

 基本開発データなどの公開であり、

 当時、その再現を競い合うように人類各国での競争となった。


 が、センタリアは、

 自国の領土がかつての激戦地であったことから、

 極秘に、旧魔王戦争時の飛空船の現物の、

 状態のいい残骸などを多数の鹵獲とその隠匿をしていた。


 再現模型をつかった実験も回数を重ねていて、

 その当時からの極秘の収集データの蓄積もあった上、



 さらに、反重力装置が、

 公開された設計図通りでは

 スペースと構造と作用力と重量許容量に物理的な制限と制約が大きく、

 船体や貨物ペイロード、武装の設計に限界があったところを、

 自国で豊富に産出できる、質の良質な特品級マギダイトを

 集中使用・大量貨載することでの

 強引な解決を図るなどの独自の“改良”が施されるにいたり、

 

 

 いよいよセンタリアの独自産業としての、飛空船開発は成功し、

 その建造、およびメンテナンス業にて勃興をみせたのである。





 神種が公開をしたタイプの機関と構造の飛空船は、

 特な欠点と問題として、機関が熱を持って過熱してしまいやすく、


 マギダイトと水を反応させて作用力を生成している上に、

 さらに冷却のための膨大な量の水が必要となる。



 この機関の場合、

 過熱を越えて暴走が最大まで至った場合、

 動力機関と付随する稼働水チャンバーが水蒸気爆発をして破損し、

 その頃には臨界を越えた温度と魔力密度に達している

 動力源のマギダイトも連鎖して反応して爆裂、

 船体ごと炸裂四散する事例が、運用の初期にはままあった。



 このため、この戦後標準系飛空船は、通常でも高高度の航空は難しく、

 また機関を長時間連続稼働運用することも厳禁とされ、

 基本的には一回の航行で一時間半に一回、のペースでの、

 水地での稼働水の採取補給および、

 水面に着水しての、船体外板を使った直接冷却が

 必要であり、


 もしその常則から離れて運用したり、または機関を戦闘用出力で稼働させる場合には、

 稼働水の消費量を極限まで減らした運用法として、

 極限まで低い高度で、

 大気中の水分から稼働水を補給するための

 回生水生成機構をフル稼働させながら

 低速での前進が経験則から生み出されるに至る。



 特にセンタリア国の改良した機関と、

 センタリア国王室・

 王立陸上艦大隊でのその運用ではその傾向が著しく、

 通称「センタリア・スクワット」とよばれるまでに至った。



 閑話休題それはさておき

 かくして、独自の経済・産業的な柱を得たこの植民地センタリアは、

 

 ここまでにこうして得た少なからぬ繁栄をさらに強固かつ偉大なモノとするべく、

 果たして隣国・エルトール帝国の、

 その東の端にあるアヴトリッヒ領にへと、にわかに注目の目を向けたのである。




 理由は単純だ。



 アヴトリッヒ領は、嘗ての人魔戦争の最終決戦の舞台となった回廊地域が元になっている。

 これは第一義的に、その魔王帝国の残置領土の一部がそのまま国土の母胎となった植民地センタリアにとっては、

 この西偏西方世界の人類繁栄圏のその中央エリアへとアクセスするのに、

 その最短距離のルートがまさに浮き出た格好となっていたのだ。


 さらに、理由はさらに他にもあり、

 アヴトリッヒのその領土には、大小様々な、湖と河川が存在しているのもその補強となっていた。


……この点在する湖を有用に用いれば、さながら飛び石的にそれらを経由する運行ルートを大動脈として構成することが可能で、

 そしてさらに、河川をそのまま経由通行路の一部とすれば、

 船体への大幅な負担の低減と、それによる運行の潤滑化を図ることが可能というのが計算として出ていた。

 つまり、人類式飛空船は過熱することなく常に最適な冷却状態の維持が可能であり、

 貨物と船体共に良好なコンディションを維持したまま、運行に供することが可能である。


 まさに、交易路とするのに、最適なルートであり、垂涎のものとして、センタリアの目には写った……



 センタリアの次なる繁栄のためには、欠かせないモノであった。



 折しもアヴトリッヒ領の領主であるガーンズヴァル・アヴトリッヒ氏も、

 この交通路の可能性には以前から着目しており、


 そしてそのガーンズヴァル氏が提唱・提案する形で、

 通商エリルリア街道として、

 この繁栄のための街道の、その整備にへと取り掛かろうとした。




 しかし、ここで遮ったモノたちが居た……他ならぬ、エルトール国本土の首脳部である。


 

 最前線が東へと大きく動いた結果、

 かつてからあった人類圏の防波堤としてのエルトール国のプレゼンスは、大きく低下していた。


 その上、折に触れて威圧と示威を有形無形の形で行うセンタリアに対して、

 エルトール首脳部からすれば、

 その繁栄の手助けをするというのは、

 まさに国家生存の定理からの逆行…自殺行為、…とも取れた。




 斯くして、エルトール国皇帝の直接の意思もあり、


 圧力がかけられる形で、

 エリルリア街道の建設は中途で止まってしまう。


 センタリアは大いに憤慨すると同時に、

 この隣国を介さないかたちでの国家生存の道を模索することとなる…

…が、海路は海魔どもの手中でありそれらが跋扈している都合上、他の代替案というのはまるでない情勢でもあった。



 センタリア国内の愛国者たちは、独自に武装し、

 このアヴトリッヒ領の領境周囲にて、

 亜人や魔族への示威と私的警備、というのを名目にして、

 有名無名のゲリラ戦闘・工作活動までを開始するに至った。



 エルトール中央部は、そのことを名目として、

 アヴトリッヒ領に、国軍の防衛部隊を配置……

 これにより、ガーンズヴァルの独自プレゼンスを圧殺する意図もあったとされる……




……そうして……事の発端から、二十と余年。 




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