9(9/10)-かみ?紙?神!-
今回の日刊連続投稿ものこすところ明日のみとなりました…
本日もごゆるりと…
* * * * *
秘め事な夜?
「ゆうたぁぁ……なんで………」
ルーテフィアは消沈していた。
なにをというのは、ゆうたの事だ。
テュポンとアリエスタが帰って行った後、ルーは必死に自問していた。
いつになく、厭な感情になってしまう己が怖かったからだ。
あのテュポンの商売話に乗ってしまって、ゆうたの顔は浮かれてしまっていた。
そんなゆうたの表情が、ルーの脳裏にはある。
いままでになく、はつらつとした笑顔だった……
「ぅぅう゛……」
自分には財力もなにもない……
ただ、アヴトリッヒの家の家長の孫である、というのだけが、己にある称号と特権と身分でしかなかった。
それこそが、今まで生きてきた中での己の自負であったのでもあるし
誇りであったのだが、
しかしそれだけ、
でしかない、というのがまた直面した事実でもあった。
なにも特別であるものを、あのテュポンのように払えるものを、もっていない。
それが己についての現実であった。
「ゆうたぁぁ……っ」
やはり、自分はみすてられてしまうのではないか?
だから、カッテグチの向こうの……ゆうたの家のゆうたの部屋まで、
ルーテフィアは訪ねに来ていた。
家族とメイドたちには、お礼の気持ちを伝えてくる、と言付けておいての来訪だった。
「ん? おお、ルーか。俺ってば即席金持ちになれて、今日は運がいいじゃーん……って、うぉ?!」
「…………。。」
ゆうたの顔を見た途端、自分の目から涙が溢れてくるのを、
ルーテフィアは、泣き止んだり堪えたりすることができなかった。
どうすることもできぬまま、ルーは涙を流し続けた。
「……ぐすっ、……ぐずっくしゅ、ぐしゅ…………ずず、ずっ、ふぇ」
「おいおいおい、どうしたんだ!?」
「……これっ、をっ、キミに……」
渡すなら、もう今だけしかない、と思った。
ルーは自分の書いた手紙の事を、今になって思い出していた。
その手紙……ズボンのポケットの中で少し多少、くしゃっとなっていたそれを、己を案じてくれているゆうたへと、渡した。
「これを、って……」
ゆうたは中身を開けた。
へたくそなひらがなで、“ありがとう ございます るーてふぃあ”
──と、書かれていた。
「……そんじゃあ、俺もなんだが……」
「ふぇ、……ぇ?」
そういうと、ゆうたは先ほどの金貨…
…テュポンから貰った対価の分の金貨を、
もらったうちの半分の五枚、
それを、ルーのちいさな手のひらを手に取って、
その上に、重ねて渡した。
「……――あ゛、」
ルーは絶望の気持ちになった。
翻訳辞書で、えんがちょ、の意味を調べた……
要旨するならば、
つまり関わりたくない、関係の終わり、という意味だろうか。
あのとき、
そもそも最初に拒絶されていたのだ。
それを、今まで無理を言って、自分は図々しく振る舞って、
ゆうたに負担を与えてしまっていた。
言い訳なんて、許されるはずもない。
それでも……
いままでのゆうたとの日々が、
この金貨で精算されたかのような思いになった。
ゆうたは手切りのつもりで、これを渡したのか?
「ね、ねぇ? ゆうた、そんな、これは、一体、なん、で、?」
「あ? あぁ、額に不満なら、また稼いできて渡してやるが……」
「そうじゃない! そんな、の、――こんなじゃなくて!」
わからぬ顔のゆうたに、
ルーは焦りと愕然の感情が止まらなく加速してしまっていた。
(あ……)
やつあたりのように自分の声が荒がってしまったのを、
ルーは途端に恐怖した。
そうじゃない、そうじゃないのだ。
もっとふさわしくて的確なしゃべりと言葉があるはずなのだ。
しかし、それがどうしたらいいかわからない!
「だ、だ、だから……――」
ぐるぐると自分の中で渦巻く感情と心と思いが、まるで手につけられないモンスターのように思えて、
そのことにルーは呆然とするしかなかった。
こうしてみっともなく喚いて嘆いている自分の事が、どうにもならなくて。
自信も、自負も、
がらがらとくずれおちたのがルーの内面でおきたことだった。
「……そうだよね。
ゆうた、は、ボク、のこと、キライ、だよね……?」
「はい?」
「だって、、いっぱい迷惑かけて、いっぱいお世話してもらって、
そうなのに、できるお礼は手紙だけ、なんて……
そうだよね……、? ぐしゅ、ずぅっ、へうっ、ひっぐ……」
「……?」
ゆうたは、わからない、という顔だった。
「…~~ぁ、」
ルーは自分の言葉が取り繕いでしかないのでは、と、さらに自分を自己嫌悪することしかできなかった。
だから、
もっとその奥の、気持ちを、その言葉を伝えようとして、
「な、にをいえばいいのか、わからない、けど、それでも、
ゆうた、貴方とボクは……」
「あぁ、だからな、それは……」
「……ゆうた、っ、?」
だめだ。もうどうすればいいかわからない……。
もう決壊が起きたように、ルーテフィアは涙ぐんだ。
目からの涙と顔の表情はぐしゃぐしゃになっていた。
とにかく口をひらかなくては、
しかし口を開け閉じしても、もう、ぱくぱく、という呼吸音しか出ない。
それでも、声を振り絞ろうとして、
なんとか己の喉を発声させた時、出てきた言葉はたどたどしくて……
「だから、こ、こ、れ、が、最後、にっ、なっちゃった、とし、ても……」
「はぁ?」
「ぐすっ、うぇぇえぇ……ぐすっ、ぐしゅっ、……」
ゆうたの尋ね返しに、ルーはどんな思いを声で伝えたらいいのか、
わからなくなってしまっていた……
「ぇぇぅ、ぇぇっぅ、だから……その、……あの……だから!」
とにかく、思いつける限りの言葉を声にする…
重いと感情と、それから、自分のゆうたへの信頼と感謝の丈を、
あるだけありったけを言葉にしてみよう、
……とルーは思った。
そして出てきた言葉が……――
「ボク、ゆうたのことが、好きですっ!」
自分は何を言い出したのか。
はっ、となって、
自らの声の口を、いったん手のひらで塞いだ、ルー。
まだ伝える決心がついていなかった、その言葉。
自分の、確信していたが、秘めていた気持ちと思い。
それを、口に出してしまった……
「ふぅん?」「……ぁ、」
だけど、
ゆうたの方は、何か困惑しているような顔のままだった。
それを見て、ルーは、涙が滾ってきたようにあふれ出した。
もう、破れかぶれだ。
ルーは言葉を続ける決心をして、声にした。
「あ、愛してます!」
ゆうたの不審がる表情が己の心を打ちのめす。
でも、
まだ、まだ止まるものか、
「ずっと、そばにいてください! ボクは、ゆうたといっしょじゃないと、なにもできないんですっ! だ、だから……」
ルーはとにかく、おもいつけるだけの言葉を投げかけた。
ゆうたはわからずの表情で、
しかし静かに、ルーのその言葉を聞いていた。
そして、唐突に動いたかと思うと、
「……?!」
そのルーの顔を、
ゆうたは卓の上にあったティッシュで、
柔らかくこしこしと涙を拭き取った。
はー、とゆうたは軽くため息を吐くと、
「あのんさ、ルー、この金貨はな……」
ゆうたは誤解を与えてしまった、というように後頭部をポリポリとかきながら、ルーに趣旨の説明をして、
「……へ、?」
説明された内容は、
「おこ……づかい? ボク、に、?」
「ああ、そっちの世界でどれくらいの価値かはわからんけども、
でもいい収入になるはずだろ?
おまえに最初にからあげを食わせたときと同じ、
分け前、って奴さ」
「え、……?」
ルーは考えが追いつかない。
「そしたら、そしたら!」
ならば、と、
ルーは、確かめるのが怖いことを、ゆうたに訪ねた。
「え? キライになった……わけ、じゃ、な、い、 ? 」
なにをいってるんかね、とゆうたは嘆息していた。
「この世で、だれが最初にいいだしたんだろうな、すきとかきらいとか、ね…
……って、。
まあなんで泣いたのかはしらんけどさ! これで、お前も自由にできる金はいったから、ちょっとは余裕持ってくれたらと思ってさ!
コピー紙のせどりでこんなもうけられるなら、
俺ちゃん本気出せるがな!
ヌハハハハハwwwwww
ぬはは、って、は……?」
異変を感じ取るのに敏感なゆうたである。
目の前のルーから、暗怨とした暗黒の気配が漏れ始めている。
それが最大級に大きくなった時……――
ルーは、うぅぅ、と声と表情を激高させて、
「ボクを誤解させた罰です。……一緒に寝てください!」
* * * * *