8(8/8)-ぷろろーぐ-
###8(8/8)-ぷろろーぐ-
ソウメンをすすり終えたルーと一緒に、二階の部屋に戻り着替えをして、準備をしたのちにそれからまた勝手口の前へとやってきた。
「ゆうたのおかあさん、いってくるね!」「気をつけていってくるのよー」
支度の終えたルーと一緒に、俺も勝手口の向こうへと歩いていく。
コンラートとアリエスタと共に、ルーと俺は異世界の大地に降り立った。
そうしてほんの二分ほど歩いていくと、すぐにその小屋がある。
いわば、ガレージ、というやつだ。
丸太木組みで誂えられた小屋の中に、〈それ〉は出撃可能状態で安置されている。
ルーの家…アヴトリッヒ家のメイドたちがその周辺でせわしなく動く中、俺とルーは、その〈機体〉の前に立った。
通称〈シミター〉、スタンディングアーマー、もしくはクロスコンバット・バーティカル・タンク…CVT…と呼ばれる、全高六メートルの戦闘用バトルメカ……半人型の、アニメに出てくるような軍事用ロボットというやつだ。
原典では、装甲車程度以下の装甲と火力しか持たない、機動力のみがウリの二足歩行テクニカル、というくくられ方をされていた、メカである。
数週間前の戦闘で、俺とルーは、こいつでめまぐるしく戦った。
もちろん、この現実側にこんなけったいなものを生み出すだけの科学力はまだない。
これは、向こう側の世界……異世界の技術と素材を駆使し用いて作られた、事実として、動作原理からして半分魔法で動いているようなメカニカルであった。
作られた、というのも語弊がある。
第三者ではなく、他でない俺が発案して、ルーががんばり、そして異世界の人員と設備で、一貫して開発と建造と製造が開始され、今さらに改良と増産が進んでいる、今注目のバトル・ロボットなのである。
この世に存在しないはずの、現代より超越したフィクションの未来兵器というのもあるだろうが、
現実世界に現臨させる課程で俺たちの手が加わったことにより、この機種のこいつとその姉妹たちは今のところ、無双の強さを発揮してきている。
軽々と錬成ゴーレムを引きちぎり、できそこないの戦車モドキを手もぎで八つ裂きにできる。
火力を噴かせば並みいる敵はハチノスにできてしまう、その性能。
片手の指で数えられる程度のわずか数機で、中央から見捨てられたアヴトリッヒ領の死守に成功した、その機体。
俺たちが発揮できたとおりのそれが、現在、量産が進められている……
目的地は安全地に立地するフレズデルキンの邸宅。
今日の所は、こいつを移動手段代わりに使うだけだ。
ただ、もしやすれば、晩餐会の場に居並ぶであろう将軍たちや将校士官一兵卒、あとは貴族連中や公務員、などの関係者連中へのお披露目式にもなるであろう。
その暁には、はたしてどんな面の表情が見れるだろうか……
間抜け面? 鳩が豆鉄砲くらったとかのような、それとも……いや、今はまだ、わからんね。
それも含めて、期待はせず、いってみよう。
「………」
ほんの数週間前まで、俺はルーと一緒に、これを操って戦争をしていた。
その機体に、また再び乗り込むのだ。
なぜだか、握り込んだ利き手の拳がやけに汗ばむ感覚がある。
「ルー、準備はできたか?」「うん!」
俺は声を振り絞った。
ハッチを開いたシミターの、複座になっている前席に俺が、後席にルーが乗り込む。
前席がドライバーで、後席は車長の役割分担だ。
まず、俺は始動スタートの手順を踏んでやって、機体に火が入る。
ハッチ裏のモニターに頭部カメラユニットからの映像ビジョンが投影表示されて、これで外部眺望を得られる状態となった。
俺の目の前の、操縦桿の周りのコンソールの一カ所に光が点った。
後席の着席確認のランプだ。後ろのルーが確認灯のスイッチを押したのだ。
直後に後席のハッチが閉鎖された、という旨の確認灯が点灯した。
それを確認して、俺は、正面ハッチの開放を閉めた。
一瞬の間の後、コンソールの着座姿勢復座のスイッチを押す……
押し込んだ後のキックバネのように機体が可動し、足首で折るように座らせられていた脚部が垂直に立たされたことにより、それと腰ブロックを介して連結された、俺たちの乗り込んでいる胴体が浮くように持ち上がる。
「よっ……っと、、ふぅ、」
ステアリング及びガンスティックを兼ねた操縦桿で機体を操向させつつ、進行方向への前後進ならびにその他を司るフットペダルを踏み込んで、
まず大地への一歩めを機体に踏みしめさせた。
「なぁ、ルー」「? どうしたの、ユウタ?」
自分でも気付かない内に呼びかけてしまっていた。
ルーの戦いが始まる。それは、逃げようもなく、俺の戦いでもある。──
俺はあくまでも、この現実世界を守るために努力して、頑張ったのだ……といいきることも、まあできる。
ただ、その努力は主に、なにに向けられていたかというと、まずルーの奴への応援、というのが大きかった気もする。
頼りない子供に絶後の重い宿命が課せられた瞬間を間近で見てしまって、
それを課したモノ、課されたモノをバカであると一蹴してやりたくなった、というと揶揄がありすぎるだろうか?
すくなくとも、それは今なお俺の原動力ではあるらしい。
それをルーの声を聞いたことで再確認をした。
「何をいうのかわかってるよ♪ フォワードとバックアップは一心同体、でしょ? でも、同じ機体に乗り込むんだからさぁ」
言いたい雰囲気の言葉を先にこされてしまった。
「大丈夫だよ、ボクとユウタは“こんび”だもんね!」
……まったく頼りになるぜ、ご主人様。
「相棒、だよ?」
わかりましたよ、相棒殿。
「おーい!」
機体の足下から少し離れた安全圏で、馬に乗ったアリエッタの奴がこちらに手を振っている。
同じく騎馬に乗ったコンラートが、導くように俺たちの先を進んでいく。
「あいかわらず迫力があるわね……そのカビ色のゴーレム!」
敵も味方も、このシミターは塗装色の色が由来となって
カビ色だとかなんだとか、と言われ放題になっているのは、俺も知っていることではあった。
「目に物みせてやりなさい!」とアリエスタが物騒な声援を上げて、コンラートが苦笑したところまでは、機体のモニターで見ることができた。
馬がいななきを上げる。
俺も乾坤の声を上げた。
「せいぜい度肝抜かしてやろうぜ、こいつで、あのフレズデルキンのヤローのよ!」
俺は鼓舞するようにルーに発した。
なにもかもがめまぐるしい数ヶ月だった、と今の内なら無事に振り返ることができるだろう。
俺がこうなったのは、かれこれ三ヶ月前にはなしをさかのぼる必要がある。