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5(5/10)-かみ?紙?神!-

連続更新中でございます…

ごゆるりと…

     × × × × ×






「来年度の国からの交付金の換書を書かなくてはならないのだ……」



 ガーンズヴァルは、うめきながらそう述べるのが手一杯であった。




「次の年度カラ、書類の数がイッパイ増える、って一年前に言ったネ!

 これをこなすことデキナカッタラ、あーた、領主失格ネ。

 資金引き上げ貸し剥がし。

 領地財産は没収の上、一族家族は一家離散ネ!」



「う、うむ………」



     × × × × ×




「……ということなのよ、」


「ふーむ?」「ひぃ?! お、おじいさまぁ……」



 反応は三者三様であった。

 まず、ゆうたは落ち着いた様子で、しかし考えるような声で、



「紙……か、」


 


……にわかに、解決策の思い当たりを開始していた。




「おじいさまぁっ、ボク、おじいさまと離れるのいやだよぅっ!」



 次に、しかしルーテフィアは、一家離散、というワードにとても怯えていた。



「大丈夫ですわ、ルーテフィアさま?」


「ぇぇえぇぅ、ぇぅぇぅ……大丈夫じゃないよう……ぐしゅ、ぐすっ、」



 泣きべそをかくルーテフィアに、みっつめの、

 アリエスタはそうやさしく、笑みを浮かべて向けた…


…が、その顔には、隠しきれようのない、邪なる腹心の陰が射していた。



(ふふふ、大丈夫だいじょうぶ、あなただけは安心していていい。

 わたしが攻め落としたいのは、アヴトリッヒの家というモノだけ。

 そうなれば、自然と貴方だけが残る……


 嗚呼、麗しく、私のいとおしのルーテフィアさま!……


 このわたしの慕う、お父様の方策は、

 これだけではありませんもの…

 いーひっひっひっひ、って……

…ん?)



 暗に、アリエスタはまだ次の段がある、といわんかの顔を浮かべていたが……



「大丈夫か? ルー、」「あ、ありがとうゆうたぁ…ぐしゅ、ぐす、

…もし交付?の書類が書けなかったら、ボク、借金の代わりにされちゃうのかな……?」

「お役所はさすがにそういうのはやらんだろ……」



「!」



 ゆうたが安心させるように、ルーの目をハンカチで拭った時、

 ぴぴぴーん、と、

 アリエスタの眉が急角度につり上がったのはそのときのことであった。



(あ、あんた、さっきから、ルーテフィアさまになれなれしく…~!)



 暗怒の気配を立ち込ませ始めたアリエスタであったが、ルーとゆうたは気にするそぶりすらみせない。

 単に気がつかなかっただけである。



「今ある借金の取り立てじゃなくてよかったじゃねえか!

 交付金を受け取るなんて、

 自治体としての、今までの実績があるから簡単だろ?」



「そ、そうなのですか…?」



 実のところよくわからないゆうたであったが、

 ルーテフィアはその言葉に幾分かの安堵を取り戻すことができた。




「うぬぬぬぬ……ごほっん、

 ま、そういうことね

 今日のところまでは、だけれどね……」


 

 怨怨とした表情を回転させて一変させ、

 すました顔でアリエスタはそうまとめた。…匂わせるような言葉を加えて。

 アリエスタはそういうと態度を翻し、



「脅かしすぎてごめんなさい、ルーテフィアさま。

 わたしったら、本題を急ぎすぎて、よけいな不安まで怯えてさせてしまって……ね?」



「い、いえ、……」



 意識が応接間の中に向かっているルーは気持ち半分で、

 相づちをうつことしかできない。



「む、」



 アリエスタは、そのルーの態度に不満に頬を膨らませるしかない。




「しつもーん、」




 そんな折りに、声をかけたのがゆうたである、



「質問があるんだが?」



「なによ、黄色人。」



 ゆうたは、少し考えるそぶりを見せた後、



「ふたつあるんだが、まず一つ目は……

 紙って、ちゃんと製紙された紙って、この世界では貴重なのか?」



「はぁ? あんた、おもしろい語り口するわね、まるで自分がこの世界の人間じゃないかみたいなしゃべりするなんて……

 その通りよ。紙ってのは、とてもお金がかかるものよ。

 紙自体は、まあ古代からつくられている地方もあるし、天空の神様と天使様たちの世界では、紀元が始まったはじまりの最初から存在があったという伝説のお話だわ。

 それなのになぜかというと、

 地元の消費でもないかぎり、経営されている製紙場があっても、この広大な世界の隅々まで行き渡らせられるのにはコストが非常にかかる……

 だから、その輸送費の分が価格に積み増しされているのよ、

 このアヴトリッヒ領が田舎のイナカもいいとこなのは、知ってるでしょ?

 だから、さらにお金がかかるのよ」



「ふぅん……」



 ゆうたは、それならば、という声を小さく言った。



「二つ目だ。今日、それなら、なんであんた…「レディにあんた、だなんて、どういう教育受けてきたの!?」…ああ、ハーレンヴィルさんだったっけ…!? 

 あんたはどうして親父さんについてきたんだい。

 役場の愚痴なんて、聞いてもおもしろくないだろ?」



「それだけど、それはね……」



 アリエスタは、んーと、という自分の考えを出す前に、

 ゆうたに尋ね返した。



「どういうつもりを聞きたいの?」



 一筋縄ではいかなそうだな、とゆうたはこの時、確信した。



「けっきょくこのことって、親同士のやっかいごとだろ?

 そのうえ、借金のことはもちこしだろうが、

 今回の話は、紙さえなんとかできりゃ、

 円満に解決できるとまできてるじゃねえか。


 さっきの「わたしと一緒に」って、どういう意味になるんだ?」



「どうって、言葉通りの意味よ?」




 そこまできかれたアリエスタは、一瞬きょとん、として、

 しかしフッ……っと、妖しい笑みで、

 ゆうたのその疑問に表情を返した。



「あなた、ルーテフィア様のなにさま?」



 試すように、アリエスタはそう尋ねた。

 そう聞かれたゆうたは、



「家臣というか、友達みたいなことをやらせてもらっている」



 それを聞いたあと、一拍の間を置いて、

 アリエスタの表情は愕然とした。



「──とっ、ともだちぃ!? ゲッ、ゲフンゲフン……」




 こんどは驚愕する方はアリエスタの番であった。

 露骨にうろたえるアリエスタは、げふんげふん、こほん、……と息を整えて、



「お、おしえられることではないわ。乙女のひみつだもの!」



 そう、ツーン、とそっけなく返した…

…内心では衝撃とショックで焦りと混乱一色であったのであるが。



「ま、まあいいのだわ! (くやしいけど……)

 というか、それよりも……」



 取り繕うアリエスタの言うとおり、部屋の中の話はさらに進行していた。




    × × × × ×


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