4(4/10)-かみ?紙?神!-
* * * * *
屋敷の応接間……
ギィ、と、
棹らしく扉が開かれる音が鳴って、
「失礼いたします……」
メイドのタチアナが、茶を供しに来たのだ。
「………、、、、」
ホムンクルスのメイドは、どう仕事を動いても様になる。
盆に乗せられて持ち込まれた白い磁器のティーセットが使われ、
茶……といっても、なけなしの東方産茶葉を出涸らし同然までに使い込んだものだが、
それの、もはや色付き水と大差ないような液体が、
タチアナの手で、二つのティーカップにそれぞれと注がれる。
「まあ腰掛けてくだされ、テュポンよ、商会の景気はどうだ?」
「世間話でごまかそうとしても無駄ネ」
ごふっ、とガーンズヴァルは口付けたティーカップの茶を噴き出した。
「フーム、」
一発目の先制攻撃に満足したからだろうか。
しかしニヤリともする事をせず、
ずずっ、と、渡された茶を不味そうにすする、この、
テュポン・ダーキン・ハーレンヴィル……
まだ魔王を打ち倒す前の、ガーンズヴァルの勇者時代から、
このアヴトリッヒ家を長らく世話する、御用商の商会の、先代の父親の後を引き継いだ、現頭取……の、男。
まるでオークのような出で立ちと風貌であったが、
これでもれっきとした人間である。
そのテュポンが、鋭い目線で、ガーンズヴァルの人相を貫く……
ガーンズヴァルは、平身一方のままである。
「しつれいいたします。。。。」
メイドが、その障気にあてられまい、と早々に退散する。
あとにのこされたのは、ガーンズヴァルと、テュポン。
「相変わらず茶菓子も出せないノーネ?」
「っ……ぬぬぬ」
そのテュポンにブヒブヒとやりこめられる一方のガーンズヴァル。
デュフフフフ、と笑った、テュポン。
「では、本題の話をするノーネ」
テュポンは、悪鬼のようなその顔をさらに歪ませた。
× × × × ×
「失礼いたします……」
メイド、そのタチアナが、扉を閉めて、部屋から出た。
「………」
屋敷の廊下の灯りに、その令顔を横から照らされながら、
しばし、悩みを考えるような仕草をした。
そうして、はぁ、と小さなため息をついたあと、
「………あなたがたはなにをされているのですか」
ぼやくように。
その扉の、部屋の中からみて向こう側の、
廊下側に必死な様相で集っていた、三人の姿を認めて苦言する。
「あ、あれがおまえの父ちゃんなのか……」
「確かに人相は悪いけど、失礼わね。
ああ見えて、お父様はすばらしい方よ。
情け容赦と人情にあふれてるもの!
このつぶれかけのアヴトリッヒ家に、
まーだ資金と需品の提供をして…
…長らく代々にわたってきてこの家に勤めてきたから、
惰性でやっている、というのが正直なところだわ」
ゆうた、ルーテフィア、
そしてアリエスタというテュポンの娘である…
…おやじ譲りではどう考えても違うだろう、まったくの美少女の三人が
屋敷の応接間の扉を四分半分こっそりと開けての、
盗み見と盗み聞きをかねた様子伺い。
メイドはあきれながら、その様子を見ていた。
「そ、そんな……」「ルー、大丈夫か?」
最初に漏れ聞こえてきたのはそのような内容に、
誰よりも衝撃を受けたのはルーテフィアである。
真っ青な顔になって、倒れそうによろよろとよろめきながら、
廊下の床に、ぺたん、と座り込んでしまった。
「景気がわるいから、とは聞いていましたけど、
借り入れの額がそんなにあるだなんて……」
「心配いりませんわ? ルーテフィアさま!」
そのルーテフィアの目線まで、
比べては若干背え高な自分の腰を落として、
片膝立ちでしゃがんでかしづいて、
ルーのその不安げな目を見ながら、アリエスタは言葉を続けた。
「わたくしと貴方、
二人が二人三脚で頑張れば、その後の生活は大丈夫!
なにより、ルーテフィアさまはわたくしが不自由させませんもの。
それより、も………」
そこまでまくし立てたアリエスタは、つぃっ、と言葉と表情を尖らせ、
「この東方人は、誰ですの?」
「え、えぇっと……、、、」「おい、なんか始まったぞ!」「!」
アリエスタの宣言と疑問には誰も答えることなく、
ルーとゆうたは、
状況が再び変動した様子の部屋の中を伺うのに熱中をはじめたのである。
「………。。。。。」
メイドは阿呆臭そうに一瞥して、番所まで立ち去っていった。
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