2(2/10)-かみ?紙?神!-
日刊投稿中でございます…
ごゆるりと…
* * * * *
さて、場所は移り、、、
アヴトリッヒの屋敷の、ルーのおへや。
その寝台の上に、ルーはころころと邪気のない笑顔を浮かべながら、寝そべっていたのがたった今だった。
「♪、♪、♡」
コピー用紙を、とりあえず五十枚いただいた。
「これでお礼は、どんなのができるかなっ♪」
はねるような心地良さで、
ルーテフィアはああでもない、こうでもない……と、思案と想像を豊かに膨らませていった。
そうして、
「そうだっ、!」
「おれいのてがみをかこう。」
最高のひらめき! であるとルーテフィアはよろこんだ。
ゆうたにプレゼントするのだ。
「そうしたら、」
そうとなれば、話は早い。
ルーは机の上から、よっこらせ、と、そのお目当ての魔導機械を、自分のベッドの上にへと移動させ……
用紙をセットして、
「うごいた!」
これで準備は完了だ!
「ふっふっふ~ん、♪
前略、異邦人のドウジバシ、ユウタさま……」
ルーテフィアは、ひさしぶりに快調な稼働音を出す自動筆記装置に
なんともいえない満足感と、
幼少期のころぶりの、なつかしさのよろこびを感じていた。
「ふんふ〜ん♡」
自動筆記装置…又は自動念写装置ともいうが。
これというのは、この異世界・アリスティリーヴでは、珍しくはない代物だ。
確かに少なからぬ費用を購入の際には要するが、しかし、かと言って普及品ではないわけでもない。
………………、、。。
ルーテフィアは、いまよりももっと幼い頃、自分の秘めた能力…“理の裏の裏まで見通す異能”が、暴走し、しばらく…廃人状態になっていたことがあった。
モノや人に触れるだけで発動してしまうため、その度に殺到する情報の洪水に、
幼い頃のルーテフィアは、耐えられなかったのだ。
それからの、ガーンズヴァルたち、アヴトリッヒ家の家族一家の献身は、切に深に、尽くされた。
この自動筆記装置の購入…プレゼントがされたのも、
そのリハビリのため、という用途であった。
高い買い物ではあったが、しかしその当時のアヴトリッヒ家の財務状況ならば難とする程ではなかったのでもあったし、
イメージや記憶、思考や想像のその情報を、
印刷出力して吐き出すことができたことで、なんとかルーは己を取り戻し回復できた、ということであった。
……、只、この自動念写装置は、欠点もあった…
対応する魔導記憶媒体の普及品である、
情報記録球(レコード・オーブ、又はデーター・オーブとも)
をつかい、情報を記憶媒体に収める分ならばまだいいが、
この機械は、使い出すと、大量の用紙が必要となってしまうのである…
事情により用紙が欠乏し、そしてその頃には悪化していたアヴトリッヒ家の財務状況との相乗の結果、
購入からしばらく経った頃には、用紙の補充が切れたこの機械は、置物になってしまったのだ…
しかし、なんぬるかな。
ゆうたから貰ったA4さいずコピー用紙は、なんと問題なくこの機械で使用できた!
それなのでそれなので、
おじいさま…老ガーンズヴァルからのこの大切で記念のあるプレゼントが再び使えるようになった、というのもあるし、
そしてゆうたがその機会をくれたことにも、ルーは感謝の思いで、感極まっていたのである……
なので、タイピングのタッチが、すすむすすむ。
「それ、で、えーと、ここはこんなかんじで!
これを、こうして、エィっ! ……っと、ふーむ…?」
途中まで出力された原稿物をたしかめようとルーは考えた。
一回、さらっとそらんじてみる……うんうん、
イメージした感じの内容が、うまいこと出力がされた。
「むふ~、♪」
ちゃんと敬称は使えているし、
ちゃんと丁寧な、今日までの多大なる理解とご容赦への、
その伝えたいお礼の言葉もかけている。
身に受けたかぎりの、恩義への感謝の言葉を詰め合わせた…
これくらいまで子細を詰め込めるだけつめこんで、書き込めば、
この滅多に書けるものではない、
手紙という体で恥じることのない内容にできたかもしれない。
受けた恩への感謝の手紙だ。
自分というアヴトリッヒの領主の孫が、
騎士というあこがれの存在に恥じないであろうし、
資格に恥じないかきぶりであったろうし、
そしてその、感謝の手紙……という、一種のゼイタク、
本格派の騎士の流儀と嗜みを、ひとりだけでこなすことができた!
「えふ~、♡」
これが、幼いルーテフィアの心をときめかせてやまない。
「むふ~……♡」
そのことを思うだけで、顔の表情はころころとほころんで、
とめどなくやわらかい幸せの感情がルーテフィアの心を満たして、
自然と笑みの表情となる。
今回はおばあさまやおばさま、メイドたちの手助けを受けずとも、
ひとりで書き上げることができたのだから……
おおまかに満足であった。
唯一の懸念は、
二十枚くらいの綴りの大作となってしまったことだけであるが、
紙は……またもらうことができたらいいのだが、
問題は、ゆうたのことである。
しかし、不安はそれほど無かった。
あのマンガとかやラノベとやら、
無尽蔵にある紙の本を理解し内容を読みこなす、
優しく包容力のあるゆうたのことだ、
これくらいの自分の騎士の嗜みと流儀は、
きっと理解してやさしく受け止めてくれる範疇のことであろう……
「ユウタ………♡」
ここまでやり遂げてみせたルーは、ほぅっ、と息をつくと、しっとりと目を閉じて瞑り、
それから、長いまつげの下の瞳を薄やかに開くと、
このしたためた手紙の、その宛先の人物のことへと、思いを向けた……
(ユウタ♪ ユウタ♡ ボク、やれましたよっ、とっても、とっても、すごいでしょぅっ♡)
そう思うだけで、どこまでも元気が宿ってくるような、そんな不思議なパワーが、自分は感じることができる……ルーはそう自己発見した。
(ユウタ。。。。。)
自分がゆうたを思うとき、
なぜだか胸のあたりがとてもあたたかくなって、この心地よさが宿るのだ。
それは、今日のこの瞬間だけではない。
ゆうたと出会ってから、出会えてから、
顔を合わせる度、声を掛けてくれた度に、そしてふれあったりする度に…………
この心地よい感覚の気持ちに浸れるのが、もう何度ともない程、ずっと繰り返すことが出来た。
そうして、この感情が去来するのが、ルーにとって、とても愛おしいモノとなっていた。
だから、ゆうたのことを、想像する……
それは、ルーにとって、この上ない幸福な想像になれたのだ。
でも、その温度は、まるで疼く様でもあって、
そして、思いと身体と気持ちが……熱くなってきて、せつなくなる。
そうして、それを繰り返す度に、
ルーの中では、
感情の細波の揺らぎはどんどん水位と潮位を高めていって、
幸福度は高くなっていき……
そのことは、だんだんと……──欠くことができない、一種の儀式になっていた。
自分のその疼きと温度を、我慢できなくなったルーは何度ともなく、鎮めようとして、試行錯誤の身じろぎを繰り返してきた……
しかし、解決のよりどころとなり得たのは、
回数の度に、より強く、ゆうたのことを想像して、
以前以上の増しさせた温度に自らを過熱させることしかなかった。
理由と答えはまだわからないけど、でも…
…今、伝えたい気持ちを込めたい。
「かけた!……って、」
それで完成した原稿を呼んでいて、気づいた。
「これ、こっち(異世界)の文字だよぅ!?
外国人の、チキュウじんの、異世界人のゆうたには、
読めないし、わからないだろうし……ふぇぇぇっ」
自分としたことが! うっかり、不覚であった……
とたん、今までの幸せな顔が、まっくろなペンキで目塞ぎがされたかのように、暗転して、めのまえがまっくらになるのであった。
「えっと、えっと、えぅぅ~!?」
さけんでみるものの……返ってくる声は、ない。
しばらく、ベッドの布団の上で、じたばたするしかなかった!
「へぅ、あぅ、えぅぅ……あっ、でも、!」
でも、まだだ、とルーテフィアは考えた。
まだ諦めるのは早いと感じて…。
「 辞書の機能をつかおう!」
ペンダントを起動させ、辞書機能を呼び出す……
空中投影によって、空間中に
文字が表示される。
自動念写装置を買った時の説明書には、同じメーカーの対応品ならば、
翻訳魔法と自動辞書との連携で、プリセットとは異なる言語の出力も可能、とされていたからだ。
しかし、
「この自動念写装置と辞書の入ったペンダントの相互接続が、
別々のメーカーのだから繋がらないんだ……」
ダメだった!
ルーテフィアの努力と機転は、また座礁してしまったのだった。
「ど、どうしよう、?」
「 ……、!」
しばし悩んだが、解決を思いついたのはすぐであった…
…難度という問題があったが。
「ボクの手で、もじをかこう!
このいただけた、ぼーるぺん? というモノで、自分で文字を書けばいいんだ! え、えーと、……えいえい!」
そう判断と決断をしたとなると、そこからのルーの行動は早かった。
キャップを外し、転がして……
グーの手で掴むように握ったボールペンの先を、
布団の上に置いたA4コピー用紙へと、
直に走らせたルーである。
しかし……
べべり、
「 あ゛っ 」
悲劇が訪れたのはこの瞬間であった。
なにということはない……
布団の上で直にやった為に、
下敷きや画板や堅いモノの上で書かなかったので、
ボールペンの先端が、コピー用紙を貫通したのだ。
しかも、不幸はそれだけではない。
貫通したボールペンの先は、
その真下のまっしろ……という形容をするのには、ルーの日常生活に長い期間供されてきたので、ややくすんだ色と日常体臭の沈着がされていたが……
とにかく、下敷き代わりにしていたその布団の表面に、着弾!
……インクの色の痕跡が、その箇所として残されてしまった……
「あ、あわわわわわ……」
なんどもその箇所の痕跡をこすってみたりして、
ごまかそうとする、ルー。
しかし、消えない。
「ど、どうしよう?! え、え、えぅぅ……?!」
さらに焦ったルーは、
唾液を付けたおのれの指の先でさすってみたりした。
「う゛ぇっ……、、、ぇ、えぅ、……」
こすってた指の腹をなめた時、果たしてルーは、
その己の指に付着した、ボールペンのインクの苦い風味とえぐみで、うぇっ……とえづきかけたのでもあったのだが、さてさてそれはともあれ……
そうしたら、
……インクはにじみ、汚れは大きくなり……
「あ、あうぅ?!」
結果、小さなシミになってしまった。
「た、タチアナやイリアーナに、おこられちゃう!」
自らが招いた破滅の結果により、
メイドらからの折檻を予想して、
まっさおになるしかないルーであった。……が、
「で、でも、ボクはやるんだ! 」
出そうになった鼻水はすすり、
目の端からこぼれかけた、涙の粒を、ぐっ、と堪えて、
「おこられたって、いいよっ……大丈夫だもん、こわくないもん!
だって、だって…………」
心のファイティングポーズを取った瞬間だ。
「ユウタに、ちゃんとした、おれい、したいから!」
ルーは、再び、紙とペンを手に取った。
「ボクはできるこだもん。やれるこだもん!」
ルーはあきらめなかった。
「まっててね、ユウタ!」
ルーテフィアの苦闘はしばし続いた。
さらに時間を要した。
書きたい内容を大割割愛して最小限にしても、
はじめて書く異世界語というのは困難を極めた。
頭をひねりにひねって、いちフレーズだけは書けそうだ、と、
断腸の思いでさらに短くして……
そうして、格闘に近い努力が奮われた。
おおよそ手紙を書き始めて、半日近くが経ったころ……
「よ、ようやくかけた……ニホンゴ、おそろしい難敵でした……」
仕上がった手紙を手に、ベッドに寝転がり、ルーは息をついた。
ようやく書けた手紙を、ルーはそおっと、その胸に抱き押さえる……
「えへぇ……ゆうた……」
しばらくベッドの上で、ルーは幸せな思いで、満足していた……
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