7(7/8)-ぷろろーぐ-
###7(7/8)-ぷろろーぐ-
なにせ、“今回”…の戦争の、その劈頭も、酷いものであった。
開戦初頭の第一撃が、
3桁単位で互いに乱射した、有り体に言えば弾道ロケット弾…
それの大々的な相互確証破壊シナリオの実践と、
しかし、互いが事前用意していた新型種類の迎撃対抗手段と、さらに準備されていた新種の予備攻撃手段による、
乱発されたスマート・キル、スマート・ヒットと、……その、無効化。
そのすべての適用により巻き起こされた、泥沼の情勢から始まる、異世界バトルストーリー。
そんなんあったら嫌でしょお??
あっ、俺ちゃんたちがこないだ巻き込まれたの、まさにそれだわ……
……というのは置いといて、
俺ちゃんが、何度か自分の肉の生身で思い知ったからこそ、こうして恐れているわけです。
そうなのだ、ひいきとか言い訳抜きで、死ぬかと思った……
…なら、なぜおまえたちは今まだこうして生きているのかって?
そこなのですよ、話のツボは。
まあそれで聞いてくださいよ、
そこまでならば絶望せざるを得なかったであろうが、
なんと、このルーのやつは、
中々有効な、新しい物品を作り上げた!
そう、それこそが! 我が殿様商売一味の、独自の売り物なのである……。。。。。
とはいえ…
勝算というには、あまりにも儚かったそれ。
能力性能だって、如何せん目安がわからないので暗中模索だった。
ありあわせの資材でなんとか作れたからその形と能力と機能になった、というのが理由の、
まるで本邦のナポリタン・スパゲティ、のような、その開発理由と製作過程……
うん、なんで生き残れたんだろうね、俺ちゃんたち。
だからこそ……いやぁ、俺がこのルーのやつと一緒に戦ったのは…そのこともあるけど、
また別の理由もあるといえばあるがね…
でも、そして現在、この勝手口は、健在なり。
これの陥落を防ぐ為の具体的な努力を、俺はまあ、異世界の地とこの現実日本とをいったりきたりしながら、なんとか形にしてみせた、という所までは、まあいった。
それが、ここまでに有った前日譚、というわけさ。
そして、俺たちに強制的な療養が言い渡されたのは、
そんなさなかの、きわめて中途半端なタイミングでの事であった。
なんでも、、俺とルーに対する、累積過剰による戦果調整……だとか、というのがその時のなめくさった理由付けであった。
俺たちの存在は相当に扱いに困っているらしい。
それだけ、あの数週間で揚げた戦果は膨大なモノだった。
イレギュラーである俺たちの上げたその手柄を、ほとんどなにもできなかった将軍たちの間でそれをどう分配するか……書類上で、活躍できなかった自分たちの名誉保護の為の記録操作……だとか、
あるいは、俺たちがいないモラトリアムの状態で、自分たちのみで戦果を挙げようと意気込んだからだとか、
たしかに在来軍との共同戦果は多いかもしれないが、ほとんどは壊滅して混乱した友軍に助けに入った、ということがだいたいであったし、
厳密にスコアマークをつけたらば、そのおおよそは“それ”に復座で乗り込んだルーと俺に帰緯するモノが大多数だろう。
つまりは後ろ暗いその場のそれを取り仕切る、第四皇太子……フレズデルキンによる弱み握りと恩着せの思惑通りにまんまと進んでいる、だとか、
そういう生臭い事情がむこうにはあった、ということであるらしい。
そのせいで……というのもあれだが、敵の脅威は依然として残り、
敵の駆逐は中途半端な状態で、止まってしまっていた。
今も、もしやすると、相手が本格的な逆襲を開始すれば、この扉が敵に攻略されかねないかもしれない、
という現状ではあった。
それは、なんとしても防がなければならない……
パイ生地よりも薄い、薄皮一枚で首がつながっている状態なのだ。
して、俺らも無策でいた訳ではないのだ。
なんとかするための努力は、俺も、そしてルーも、目の前の二人も奮っている。いや、死にものぐるいでやってきたし、そして、ひと心地がついた、これからもそれは続くだろう。
いわゆる騎士さまでお貴族さまであるルーのお家……アヴトリッヒ家が治める、アヴトリッヒ開拓辺邦領。
そしてそのアヴトリッヒ家が守護せし、アヴトリッヒ領の〈悪魔の扉〉……ふたを開けてみれば、それはウチのこの勝手口の扉と通じていた、という事であった訳だ。
大昔の対魔王戦争での勝利で得た回廊地域を、魔王を倒した勇者であるルーの祖父に押しつけてできた土地。
そこを巡って、こんどは人類同士で不毛きわまりない戦争をおっぱじめた、俺たちの所属する帝政エルトール国と、仕掛けてきた側の隣国のセンタリア王国、アンドその他の国々モロモロ。
ルーは、自分の家族とアヴトリッヒ領を守るため。
俺は、この現実……現代日本を守るため、
そうして頑張った、というのがあった。
今の情勢は、どうなにがなろうともきな臭いものだ。
一時内陸まで攻め込まれたエルトールだったが、俺とルーが作り上げた“それ”のおかげで、元の国境線まで押し返すことは、できた……それが俺たちが療養を言い渡された直前までの状況図である。
今は、エルトールの周囲にある無数の領邦国家のぶんどりあいになっている……と、前回コンラートが訪ねてきたときに聞かされた。
アヴトリッヒ方面の防衛も盤石とは言えないが、“それ”の存在により相手は積極的に攻め込む意志を失うに至っている、と見ることができる。
一方で、こちらからの反撃に打って出た将軍たちの軍隊は、戦力にいまだ“それ”を欠いているが故に、なかなか占領地の獲得には難航しているとも聞く。
なので異世界人側からの、
その難題に対するアプローチの一つとして、
それをなんとかするため、としてのサンプリングのために、これから俺たちは、俺たちに召喚をかけた、帝国第四皇太子……フレズデルキンの元へと向かわされるのであろう。
書類に記されている情報がそうなのであれば、俺たちもそう動くしかない。
「ルー、おでかけの用意だぞ」
「! ひょっとして、アキハバラ!?」
「ちがうちがう、フレズデルキンからの召喚だとよ……よんでくれ、」
「えーっ、……ふーむ、………」
風呂の準備は、中止だな、こりゃ、
のんきにソウメンをすすっていたルーに画板の書類を手渡してやる。
ルーは……表面上、平静とした様子で、ソウメンをすすりながら内容を読み込み始めた。
「かあちゃん、夜中に帰ってくるかもしれないから、そこらへんよろしくな!」
「わかったわよー」
さっきの話の続きをしようか。
もし、俺の為ではなく、誰のためであったとして、それがルーの為だとしたならば?
今日までの波乱きわまりない日々がこいつ……ルーの為に用意されてあったのだとすれば、
それはあまりにも酷なものだったじゃないか、と俺は思うのだ。