2 (2/8) 歩幅を越えたその先に?
###……翌朝……
…… コッカコッカコー!!! ……
「ふわ、ぁふ……、きょうもおはよう、みんなぁ。
みんなのたまご、きょうもいただくからね。」
……コカー、コッコッコカ、コッコッコ……
「みんな、きょうも元気だねー。
げんきなみんなから取れたたまごのおかげで、ボクたちもみんな、げんきいっぱい!」
ニワトリ小屋を思わせる簡素な掘っ立ての中に、今日のルーテフィアは居た。
その手元には、朝の温度に晒されながらも、湯気がホカホカと立ち昇る、生みたての卵が。
その卵たち……殻は毒々しい柄で、淡い緑色をしている……を、ルーは一つずつ繊細に手の指で手に取りながら、
不意に、脳裏に去来したのは、ユウタと知り合って間もなかった頃の、こないだの……
「たまご、……かぁ。
……あのときの、ニワトリさんの卵…おいしかったなぁ…/////」
…… コカー! つん、つん、……
「いたいよぅ?! や、やめて~! いたいよう、コカトリスさんたちっ、」
つん、つん!
「き、君たちのたまごがいちばんだからぁ、もう不埒な事は考えないようにするからっ、ボクをつつかないで~!!」
朝から涙目のルーである。
ちいさなルーは、ガーンズヴァル屋敷に付随する家畜小屋の、そのコカトリス当番を任されている。
といっても手伝い程度ではあるが。
そうなので、今朝はそのコカトリスが産んだ卵の収穫をすべく、今は屋敷の家畜小屋の中にいた。
……そうだった、これというのにも、曰くはあったのだ……
『ぇうっ!?』
『愚姪!
あんたねえ、
あんたなんか、
家畜小屋のコカトリス当番がお似合いなのよ!』
己の幼少の時にそう任じられ……
「さあ、今朝のあたしの分のコカトリスの卵、
持ってきなさい。」
「え、ぇう……」
「はやくなさい!!!」
そして今朝もそう告げられて、
いま、己はそれに従じている……
そう、いつだって、エリルリアは強硬だった。
(ボクってば、やっぱり愚図なのかな……)
つん、つん、つんつん!!
……コカー!……
「えぅ、えうっ、えうぅっ!? ぼ、ボクのシャツに、穴があいちゃうよぉぅ?!」
」
つん、つん、つん!!!
「え、ぇううう~~!!!」
そんな最中にも、コカトリスにつつかれる。
「ううう~!」
そんなふうに、ルーのことをつついている、三羽……三匹?の、コカトリス。
「いたた……ヴァロ、ヴァル、ヴィグラ。
ねぇ、みんなはボクのおともだちだよね?
だから、やめてぇえ~~……」
“““コカ…???”””
「ぴっ?!」
孤独なルーは、飼っているコカトリスに、自らのおともだちとして、それぞれ名前をつけているのだ。
……コカトリスたちは、獲物を見るかのような鋭い目つきでルーをみていたが……
「ぇぅ〜…!
しくしくしく、ボクって、とっても、愚図?な子なのですね…ぐすんっ」
そんな感じに、ルーは朝のタスクを終え、
小ぶりのバスケットにコカトリスのたまごを入れたものを携えて、
屋敷の食堂に戻ってくると……
「あっ!//// ユウタ! ユウタがいる!! やったぁ!//」
己にとって、最高の友達の存在!
その存在の最有力たる、ユウタが食堂にいたのだ。
ルーは、食堂の卓上に卵の入ったバスケットを置くと、喜んで駆け寄ろうとして……
「…あれ?」
確かにユウタは、この時、その相手と弁舌を交えていた。
……その気配は、剣呑なものだったのだ。
「……冗談だろ?! エリルリア叔母さん?!」
「冗談でもデマでもないわよ、ふんっ」
……ここまでの経緯が経緯であった。
ユウタは朝一番に、昨日あった一連のあらましを、
先日から己に協力してくれていたエリルリアたちに伝えに来ていたのである。
だが……
「そこから先は知らない話ね。そちらのことは知らないし、そちらがそうなら、こちらも、原理原則を持ち出させてもらうわ。」
「それにしたって、いまここで手放されても……!?」
「だから、知らないって言ったのよ」
エリルリアは飄々としながら、
「とにかく、あんたからのリターンが無ければ、ないのなら……わたしはどうもしないわよ」
「そんなぁ……「じゃあ、次のご縁がありましたら、ということで、ね…」…えっ、ちょっとー!?」
……あとに残された、ユウタ……
「ちくしょうがおー? ふられちゃいましたねぇ?」「……ふふふっ……」
「おまえたち銀髪メイドどもは、どっちの味方なんじゃい!!?」
プークスクスwwwww…と嘲笑うメイドが二人……それぞれ、イリアーナとタチアナである。
ユウタはこの不条理に半ば激高したものの、銀髪のホムンクルスメイド二人は手玉に取ったような態度を続け、
「わたしたちはぁー、この家に仕えるメイドですしぃ~~、勝ちそうな方に、有利そうな方に、つきますのでぇ~、」
「まあ、穏便に済んだほうじゃないですか…エリルリアお嬢様の普段に比せばの話ですが」
こ、このメスガキども~~…!?
メイドたちの野次に、むっ、となるユウタではあったが…
「チクショー、これじゃあ、なにもできなくなったも同然だ……」
母親発令で、
あねきにタカるのが禁止されて、
ユウタはお金の獲得手段を、喪ったユウタである。
そうしたら供物による支払いが出来なくなったってことで、こんどは異世界側からの協力の停止……
「あんまりだーー!!!!!」
屋敷の中で、不幸を叫ぶ……
「……。。。。」
ガーンズヴァルは夫人のエリルローズを傍らに、椅子に座ったまま、冷や汗をかいているばかり……
「娘はああいっておるが、その分は、わたし……おばばが手伝うぞい?
とはいえ、エリルリアのことだから、己の造っている錬金材料を使わせない、だとかと言うかのう……」
「あ、ありがとうございます……けど、そうか~~ぁ……」
がっくり……とうなだれるしかないユウタであった。
「ユ、ユウタ……」
「おう……ルーちゃんかい、いやー、まいったなぁ…こりゃ……」
あいさつに、とルーとユウタ。
互いに掛けられたい言葉というのがあった訳だが……
「……こういうときは、ボク、どうすればいいのでしょうか?」
「…笑えばいいとおもうさ。俺のことを、な……」
……
「「……!」」
はっし! と両手を酌み交わして……
互いに涙目の、ユウタとルーの二人であった……