6(6/8)-ぷろろーぐ-
###6(6/8)-ぷろろーぐ-
気休めでも、ありがたい言葉ではあった。が……
「アヴトリッヒ領周縁の戦闘が中断しているのが、いつまで続くかがわからないのに、そうおちおちとしてられないぜ……相手が本気になって、領境で切断作戦なんてやられたら本土から浮島になってしまうってのによ。んで、名目上は頑張りすぎだ、ってこれ(療養)、なんだもんなぁ、」
「あきらめてください、とは軽くいえないものですが……我々も努力しています。
この一週間の内に、新たに八名、搭乗要員の育成が完了しました。
防衛計画の充実は順調です。
あとは、それをあなたたちにこなしていただければ、とりあえず内憂の方の、区切りはつく、だろうと」
「かといって、なぁ、……まぁ、な」
どうにも、この話題になると、俺は顔に力が入らなくなってしまう。
それでも言葉を続けるならば、
「まぁなぁ、おれはこっちの、自分の世界守るために頑張ったってことだし。
それよりも……気分代わりで手のひら返しやがったのかは知らんけど、今更フレズデルキンのヤロウが俺たちに謁見の許可、だなんてな、」
「まあ、こちらの方は事前に貴方の仕込んだタネの通り、準備は突貫ですが、間に合いましたよ……
もっとも、これで相手側のさらなる増長を招かない、という保証はないのですが、」
「そうだな……」「ねぇ、まってよ、これじゃああたしたちバカにされてるようなもんじゃない!」
アリエッタのやつが声を憤らせた。
「あたしとウチの家はともかくとしても、いやともかくじゃないけど、あんたとルーテフィア様はそれでいいの…!?」
「………」
ふぅっ、と俺は唇でため息を吐いた。アリエスタの隣のコンラートはやれやれ、の仕草をした。
「水は低いところを流れる、ってさ。
またフレズデルキンが気分変わりを起こしたとしても、俺たちのアレ(・・)の有用性はなによりもそっちの国がわかってるだろうさ……
自分の手柄としておれらを国の中央に売りこみたい帝国第四皇太子サマなら、なおさらだろ」
ぶっちゃけ、具体的にあの豚親爺がなにを腹の中で黒く練ってるかは、俺もルーも、わかる範囲のことではない。
とにかく、療養を言い渡されてからこっち、今日までの日々を、静養に費やして羽根を伸ばすことに邁進してきた訳だ。
そしてこれからがどうなるかはわからないが、
今日今こうして告げられたこれによって、その日々は…おしまい、
一区切りがついた、ということになった。
告げられた内容はこうだ。
ルーテフィア・ベルク・アヴトリッヒ、以下ユウタ・ドウジバシ
両名に本邸宅までの出頭を命じる。
本日の夕餉の餐会に出席の事。
そののち、療養を解除し、正式な機甲ゴーレム操作要員としての任を任ずる。
皇太子令
……と。
おおかた、将軍たちに俺たちの現物をお披露目しよう、という魂胆なのであろうか。
あの腹黒親爺の考えそうなことである。
もっとも、あのオヤジに俺たちの身柄を預けた覚えは、実の所ないのだが……
まあ何の話かちんぷんかんぷんということであるので、注釈をしておこう。
聞いてくれよ、俺たちってば、つい数週間前まで、異世界で戦争やってたんだぜ?
すこし事情を語ろう。
なんにせよ、最初の平和だった頃はさておいてとすれ、この異世界に通じる扉がこの家の勝手口である以上、俺に残された選択肢はそうなかった。
なにせ向こう側での戦争の状況は非常に逼迫していて、ルーとみんなと、それから俺が頑張らなければ、この扉の異世界側は相手の軍隊の手に落ちるという寸前だったのだ。
つまり、なにもしなくても、そう遠くないうちに、扉の向こうから異世界の軍勢が、コンニチワ!……としてしまいかねない状態だったのである。
つまるところ、昔の戦争映画とかで“地獄の一丁目”とかいう言い回しがあっただろう。
そして前述の懸念がそうなれば、この俺の住む日本の、俺のこの街が、
あるライトノベルよろしく、
いわば〈銀座の一丁目〉になっていたかもしれないのである……
……自衛隊に任せればよい?
いやあね、それもごもっともなのです。
放置しておいて、あとは、ごぼう抜きのもぐら叩き!
とすればよかろうと、そうなのですが、頼れない事情は有った……
如何せん、どこぞの近場の自衛隊さんなり警察さんなりの公権力に、この扉のことをタレこむとしても…タレこんだとしても…
まず第一に、俺の正気が疑われてしまう! ということになりそうだった。というのが一つだった。
もしそれの話の転び方がどうかなって、どこぞの山奥の病院に閉じ込められてしまうとかというのは、なんとしても御免被りたい!というわけで。
そしてもうひとつは……異世界側のその事情。
一度は結集して対・魔王の戦争を打破し勝利した由来を持つ、その団結のあったはずの人類同士で、
今度はドンパチを始めた異世界情勢なのだ……
かつての勇者の英雄譚が華々しく打ち立てられたという、先の大戦。
そこから今次の熱戦の再来までに、60年以上あまりの間があった。…という。
その間に……
かつて地の果ての地底から現れたという魔王の帝国の、進んだ科学技術てくのろじい、
と、それから、人類種とその友好種たちの崇める、神界に住まう……天空の神々。
(なんとおそろしいことに、この異世界では、神、というのが、実体を持つことも可能なのであるそうだ……
もっとも、滅ぼされた魔王国の旧臣民からは、
“宇宙人!”“エイリアン!!”
などと、呼ばれているそうであると聞くが……)
そうなのである。これというのは、源泉の根源が多極数存在するのである。
とりあえずは、そのふたつの由来の、
・魔王帝国の残余遺棄された兵器品類や技術品の鹵獲接収品と、
・神々のそれらとその御使いの天使たちから下賜された、なにやら良くわからん宇宙外的/人知外的・オーパーツ。
その上、さらに加えて三極目を成すだろう、
・異世界の人類側固有技術。
一番なんてことのないようなこれのそれにもすらさえ、さらに曰くはあるという。
どうも由来がそれぞれ単一起源ではないという、多々数種の起源が、こよりのようによりあわされた、より集まり…だというのだ。(実は、前述の二極にも同様のことが言い当てはまる……)
そのうえ、しかももっと厳密にすると、この三極以外にもマイナー/メジャー問わず、さまざまな源泉や由来と起源を持つような技術根源があり……
つまるところ、由来や起源や進化してきた過程とその派生分岐があまりにも多すぎるような……
さらに由来起源が散逸していて、それが多少でも集合された結果、今の状態にされているという…魔法錬金科学、と一概に取っくるめられているそれで、ミックスされてコンバインドされるに至った。
さて、その結果とは?
混沌のように広大に広がって、神話のバベルの塔のごとく打ち立てられた、強力な兵器技術、魔法技術。この、異世界独自のミリタリーパワーの現状がある。
いわば、闇鍋そのものであるのだ。
そんないびつな兵器類や戦争テクノロジーの発展と進化を遂げた、そのような具合なのです。
いわば、ひとりスーパー大戦状態の様相なのであるのだな。
さて、それの一例を挙げるならば。
相手は空飛ぶ戦艦を桁ダース単位で保有し、大複数個の艦隊にしており……いや、その数複隻ほどはこないだ沈めてきたわけだけども、
なにより、この異世界は、火器火力の性能のインフレーションが、
そのクラシカルなほど古く見えて、みょうちきりんで、貧相で貧弱な兵器の外観からは考えられぬほど、
極めて、高い……
歩兵級からして、火力のインフレーションが、著しかった!
染みついてどころではなく、むせる間隙があったらその瞬間までには漏れなく焼け木杭にされている。
その上、そんな強力武装を持った兵隊が、
数万人単位! 下手すると数百万単位……で運用されている、
そんな物騒なワールドなのであった……