5(5/8)-ぷろろーぐ-
###5(5/8)-ぷろろーぐ-
とりあえず、俺はルーと一緒に、二階にあるこの俺の寝室から、一階のリビングへと移動を始めた。
その頃にははしたなく菓子パンを食べ終えたルーが、階段の階の上から声をかける。
「ゆうたのおかーさんー、おひるごはんはなにー?」
“いま、お素麺茹でてるところわよー”
だってさ、
「オソウメン! ふっふふー、アゲダマいっぱいいれちゃおぅっ♪」
ちりんりん、と風鈴の音が、垂らし帯を風になびかせながら鳴った。
季節は夏だ……もっとも、それはこちらの世界では、の話であるのだが、
「おそようかあちゃん」
「ちょっとはおはようっとか! まったく……本当にあんたたち仲いいわねー、今日も二人で添い寝してたの?」
「えぅっ?!、それはその………「こいつったら、最近毎日がそうだ、」ぇぅっ…ユ、ユウタ~~……」
「いいのよルーテフィアちゃん、この子ったら、存分に迫ってあげなさいっ」
「お、お借りしてますおかあさま!……ボクとユウタの仲を応援してくれるなんて、て、照れちゃうなぁ」
おれよりかあちゃんの方が、知ってることはおおいらしい…なんだかなぁ。
なにやら俺にとって不穏な会話が繰り広げられている気がするが、
ルーを素麺の支度が出来上がったリビングの卓の前に置いときつつ、俺は風呂を沸かす準備を始める……
チャイムが鳴ったのはその時だ。
「ちょっとゆうちゃん、勝手口から! アリエスタさんよっ」
「おっ、アリエッタの奴か……ルー、ちょっと見てくるぜ」
リビングの奥のキッチンのさらに奥へと向かう。
そこにある、勝手口……
年代物の我が家のその年代物の勝手口の扉は、その来訪者によって半分ほどすでに開き掛かっていた……
となるとあいつもいるのか。
「どうもどうも……って、」
「よっす、相変わらずへばった顔してるわねっ「なっ」「失礼致します、」
扉を完全に開ききると、その向こうからは……──晩秋の光景とその温度が吹き込めてきた。
湖の温度を思わせる冷たい風と大気。
木々の葉、落ち葉共に、金色の秋の森が、とめどなく、どこまでも続いて広がっている。
黄金色に輝く森の果てしない光景だ……それを背後に、俺とルーの共通の知り合いが、そこに二名存在していた。
蒼がかった地色の髪を変則的なツインテールにしている、ルーとは違うテイストの“美”が付く少女と、エスコートにしては気が急いている風に扉を半分開けたままの、背の高い、軍服の成人。
ルーの家……アヴトリッヒ家に仕える御用商人一族の娘の
アリエスタ・ハーレンヴィルと、
ルーの祖父であるアヴトリッヒの当主……に仕える、軍人の、
コンラート・ウェスタンティン、
この二人だった。
まあ、二人とも、俺の後ろでソウメンをすすり始めているルーに仕える御用人、という立場であった。
要するに平たく言えば、俺の同僚、って訳だ。
「なんだよ、療養中の俺らだってわかってその言いぐさなのかよ?」
「ちょっとはスキンシップって奴をしないと、あんた、立ち枯れてしまいそうだから!」
「な……へ、へいへい、そーですかい、」
「アリエスタ女史、あんまりこの方をいじめるようなことをしてはいけませんよ……して、本題の方を、」
「ん、」
長身のコンラートが、その脇腕に携えたクリップボードの書類を
画板ごと渡してきた。
であるが、俺は異世界の字が読めない……ので、代わりにアリエスタに読んでもらう。
コンラートは微妙な顔になった……許せコンラートよ。
その内容に、耳で目を通す。
……、……、…
「どうにもなぁ、」「なにこれ!?」
「そういわないでください、我々の努力もありますし、なにより貴方とルーテフィアさまが大いに頑張った功績があってこそですから……」
つい数週間前の、あの地獄のような状況を思い出した。