幕間・少しだけ未来にて…(3/6)
一ヶ月と少し前、ルーテフィアとゆうたは、一緒に乗り込んだシミター初号機で、
アヴトリッヒ領に攻め込んできたセンタリア軍を、
打破し壊滅させ元の国境線にまで撤退させた、
その大戦果を上げたのである。
シミターは一躍、英雄機となり、
勇者の孫である所のルーテフィアは、今代の新たな勇者として讃えられ、
皇太子フレズデルキンの後見の元、
皇帝フリード直々の受勲と英雄騎士位の授与を受けた。
ゆうたも、そのルーテフィアの第一の家臣にして、
シミター機の走行操縦を担ったパイロットの一人として、
異邦人ながらに褒美を与えられ、讃えられた…
先日の出来事による“不死身のドウジバシ”の悪名は轟いていたとはいえ、
詳細子細を知らない一般の市民の内で、好奇なゴシップ扱いをするモノが大勢とすれ、純粋な、新たな英雄として、注目する人間はあまり居なかったが。
「……シミター型のエルトール本土軍への納入、
宮廷の連中が邪魔してるってのは、あれ、本当なのか?」
そのゆうたが、忌々しく、そうため息を吐きながら言葉を出した。
「……妨害されてるのは確かなのだわ。」
アリエスタがそう述べた。
ゆうたは、手にもったシミターの模型を、卓上に置き、その上を滑らせるように動かしたり、ポーズを取らせながら、
「確かに、うちらのシミターはまだ詳細改良の途中で、
うちらアヴトリッヒ領部隊に引き渡してるのは先行量産型……相当、としてというのは現場の方々にも念を押してる状態なのではあるけど、
確かにエルトール軍の本体は、今までの放蕩な兵器行政……やみくもな採用と逐次配備の事情の教訓があるから多少、慎重にはなっているとはいえ、
それでも国防部は要求して欲しがってるから、専用の引き渡し枠を用意して生産させて、機を引き渡してるが……」
まあ、少し待ってて、とアリエスタは言い、
「うちの商会の独自コネクションというのもあるし、
政府内外に幅広く分布するアヴトリッヒのインテリジェント細胞たる、
ルーさまの異母御姉妹さまたちや御叔母さまたちから、情報は逐次得ているのだわ。それによると、宮廷府が導入を模索しているのは……」
ごそごそと、アリエスタは自身の可愛らしい肩掛け鞄から取り出した、無骨な紙の束を読み上げ始め、
「……月の節、白鳥の刻の頃、
月日はそうなってるけど、この、三ヶ月前に作られた、エルトール軍の新式兵器導入に当たっての各企業への競争入札の布告書、これに乗っている文面としては……」
「……ネクロアーマー、ほか多数……か」
ゆうたは椅子に座ったまま、天井を仰いだ。
「ダブル・ブッキング……といっても、うちらは後発で、
開戦のごたごたでいきなり、
この国の兵器行政に乗り込んで来た格好だから、
まあ話の前後の事情もあるんだろうし、ヤッコサン方のほうが筋を通している、っちゃあ通しているんだろうがな……」
そういいながら、ゆうたは、傍らから、G型・ガルバーニタイプのネクロアーマー……それの大雑把なフィギュアを取り出して。
スケールを同じに作ったそれとで、
先ほどのシミターの模型とを、所謂、ブンドド……の手遊びを始めながら、
「今更ネクロアーマーでは、相手センタリア国のほうが購入導入数は多いし、いまさら性能差のメリットはないだろう。
なんせ、せいぜい同じ型のやつを何処の国も使ってるんだから!」
ネクロアーマーに被弾、直撃! などのポージングを矢継ぎ早に取らせた後、
「ネクロアーマーなんて、うちらのシミターに比べたら、只のサンドバッグ君でしかないやん!」
シミターのナックルの直撃!
……というポーズの組み合わせをシミター模型と組み合わせた後、
卓の上にネクロアーマーの模型を、再び置き直した。
「それもあるけど、ボクらが直面してるのは……」
「……うん、」
ルーの促しの後、
アリエスタが、二冊目の紙の束を出した。
「ルーは、どうする?」「まあ、今あるシミターを、改善させていくしかないよね。」
ゆうたとルーは、シミター模型を弄る手元をいったん止め、
「エルトール軍、
支援戦闘・装甲機の開発導入計画。
FS-X、あの計画か。」
そう言葉を言った。