最後の魔女86 鉱山都市トレランス1
シュメルハイツを離れ、鉱山都市トレランス行きの乗合馬車へと乗って移動していた。
何故わざわざ乗合馬車なのかと言うと、数時間前の出来事に遡る。
リアたちの次なる目的地は、シュメルハイツから馬車で一週間程の距離にある鉱山都市トレランス。ここに至る為にはいくつかの貴族の領地を抜ける必要があり、単騎の馬車だと提出しなければならない書類であるとか、通行料などが割増となってしまう。
隠れて通行するという手もあったが、領地を通過する度に同様の手段を講じなければならない為、今回は乗合馬車を選択したのだ。
シュメルハイツの隣に位置付けているのは、カースド領。シュメルハイツはバラム王国の都市の一つで、そのバラム一の貴族カースド公爵の領地だ。
公爵でありながら現当主のカースド公爵は武芸にも秀でており、短い間ではあったが、バラム王国騎士団の団長に在籍した経歴を持っていた。
馬車の中には、私とリグ。そして、自領に帰路中の一般市民が三名とフードを頭から深く被っているいかにも怪しげな人物の六名だ。シュリちゃんは、お願いして帰って貰った。二人が揃うと仲が良いからすぐに喧嘩しちゃうから。いつもなら良いけど、今回は周りの人に迷惑が掛かるからね。
馬車は十人乗り仕様の為か、私が使っているよりも少しだけ広く感じる。スピードは全然遅いんだけどね。
外には護衛をしている馬に乗った騎士さんが二人。
首都に近いから治安はまだましな方だけど、絶対安全と言う訳ではないから、こうやって乗合馬車には護衛の依頼が必ずある。治安の比較的良いルートは護衛する方からしたら何も起きなければ移動のみの働きの為、楽して依頼達成出来るのだから割と争奪率の高い依頼なのだとか。
道中は何事も起きることなく、カースド領を越えてマルス領を越えた。リグが大人しくしているのか心配だったけど、どうやらそれは杞憂に終わった。
最近のリグの趣味は、修行なのだ。剣王との一戦が余程悔しかったのか、あれから時間のある度に修行と言い張り、瞑想して自己の強化に努めているらしい。目を閉じて、時折ぶつぶつと何かを喋ってるけど、本当にこれが修行になっているのかは甚だ疑問である。
ここまで多少時間は掛かっちゃったけど、最後のクザン領を抜ければ晴れて鉱山都市トレランスに入る。
楽しみだな。トレランス自体は私も初めてだし、魔導具作成に欠かせない魔石や鉱石などをこの機会にたくさんゲットしておきたい。
「お姉様楽しそうですね」
「ん、そう?」
あら、私としたことが顔に出ていたかしら。気を付けなくっちゃね。
そうして何事もなく、クザン領を抜ける⋯はずだった。最後の関所を抜ける所で事件は起こった。
「全員馬車から降りろ」
槍を持った兵士さんが、一様に私たちを睨んでいる。何かしたかしら?
最初は六人いた乗客も途中下車で減り、今は私たちを除けば、終始深々とフードを被っていた女の子だけだった。
あれは、三日目の深夜。皆が寝静まった頃だった。私は見てしまったのだ。あのフードの中を。一瞬だけはだけてしまったまさにその時に金色にたなびく綺麗で長い髪を。だから、たぶん女の子なのかなと。
で、全員下ろされた訳だけども。
「手間を取らせてすまぬな。詳しい話は出来ぬが、人を探している。全員顔をよく見せてくれ」
兵士のおじさまは、似顔絵と思われる人相書と私たちとを交互に見比べる。
私とリグは当然ながらセーフだった。
「フードを取って貰えるか?」
横にいたフード娘はそれでもフードを取ろうとしない。小刻みに震えているのが分かる。
私の袖を掴み小声で『た、助けて⋯』と呟いた。
もしかしてお探しの子って、この子なんじゃ。この状況、周りにいるのは関所の人を含めて六人。私なら何とか出来なくもないけど。助ける義理はないよね。
でも、何だか訳ありぽいし、震えてる。うぬぬ。しょうがないなぁ。
バレないようにそっと魔法を使う。これで準備はOK。
「この子、顔に火傷しているの。だから人様に見せられないんです」
「なに、そうかそれはすまないことをした。しかし、我々も任務なのだ。一瞬で構わない。それでも拒むようならば強引に見させて頂くことになるが」
今度は私が小声で彼女に話しかける。
『大丈夫だよ。大丈夫だからフードを外してみて』
彼女は私の方を見て、小さく頷いた。
その後、お探しの子ではないと判断したのか、私たちは解放された。
魔法で顔の右半分を火傷で爛れたように錯覚させた。
「で、アンタ何者なのよ。お姉様に感謝しなさいよ」
馬車は無事に関所を抜け、鉱山都市トレランスに向けて荒れた大地を走行中だった。
「本当にありがとうございました。どうしてもトレランスに向かわなければなりませんでしたので」
「なら、あの人たちが探してたのは」
「恐らく私です。書き置きだけ残して黙って出てきたもので⋯」
「私の質問に答えなさいよ!」
馬車は目的地へ向けて進んで行く。




