最後の魔女51: 盗賊団ヴォルス
本当なら問答無用で倒しちゃってもいいのだけど、既に戦意喪失している彼女たちを殺しちゃうのは、流石に⋯ね?
まぁ、この憂さ晴らしはさっきからあの木陰でこちらの様子を伺ってる奴で晴らすとしよう。
私は聖人君主でもなければ神でもない。
だけど、あの村の惨状は酷すぎる。
幼子だってまだ居たのに。
皆殺しにした連中に相応の鉄槌をくれてあげる。
「ねぇ、一応確認だけど、傭兵は貴女たち三人だけ?」
「あ、はい。私たちだけです」
「貴女たちの雇い主に連絡は取れる? 何処にいるか知ってる?」
私の問い掛けに三人は顔を見合わせ、首を振った。
「それが⋯何処にいるかまでは。報酬は既に貰ってまして、何かあればこちらから連絡すると言う事でしたので⋯」
「それ本当なんでしょうね?」
リグ。漏れ出てるから、その禍々しい殺気。
早く消しなさい。あ、一人が口から泡を出して気絶しちゃった。
「ほ、本当なんです。信じて下さい!」
まぁ、この期に及んで嘘はつかないよね。と言うかつけないよね。
さてと、あれ、ああ⋯さっきのリグの殺気で偵察くんが遠くへ行っちゃったよ。
「リグ」
「はい! なんでしょうお姉様!」
私はリグの頭に優しくゲンコツをお見舞いした。
「ぎゃぁぁ、、、酷いです⋯」
「酷いのはそっち」
「え、どう言うことですか?」
「この子たちを監視してた輩があっちの方角に逃げた。追い掛けてここに連れて来て。今すぐ」
私が指差した方向にリグは鋭い視線を送る。魔力を感じるので恐らく何かを使ってるのだろう。
「見つけた! 二分で戻ります!」
「えっと、殺しちゃだめだよって。もう居ないか」
リグは一瞬でその場から消えると視界からも消えてしまった。
暫くすると、リグが戻って来る。二分どころか一分も経ってない。偵察くんは何処から調達したのか、紐で雁字搦めに拘束されていた。
リグが褒めて褒めてと言わんばかりに頭をこちらに向けていたので、少し強めに撫で返すと、若干頬を染めながら、奇怪な声を上げていたので、すぐにやめ、こいつらの尋問へと移る。
確認するまでもなく、こいつは黒幕の一味。
たぶん簡単には口を割らないでしょう。
「リグ。黒幕が誰なのかとその居場所を聞き出して。手段は問わない」
「了解です!」
リグはラジャーのポーズを取る。
仕草や口調は見た目通りで可愛らしいことこの上ないのだけど、中身はあくまで悪魔。身も心も悪魔なのだ。決して騙されてはいけない。
乱暴に目隠しを剥ぎ取ると、ニヤついた笑顔を相手に向ける。
「こっちを見ろ」
自らの目を偵察くんに見させる。
◆悪魔の眼差し
悪魔の能力の一つに相手の精神を支配して、思い通りに操る術がある。動きを封じる手段にも使える。
それにより、聞きたいことを嘘偽りなく? 聞き出すことが出来る。
私も似たような魔法を持ってるけど、今はリグに任せる。
「それで、貴女たちはこれからどうするの?」
「えっと、それなんですけど⋯私たちも連れてって頂けないでしょうか?」
えっ? なんで、何の為に?
「一緒に首謀者を捕まえたいんです。騙されていたからと言っても私たちにも責任があります」
他の二人もコクコクと頷いていた。
「お姉様、敵の本拠地が分かりました」
「首謀者の名前は?」
「それが、コイツからは兄貴という文言しか読み取れませんでした」
「そう⋯」
まぁ、居場所が分かったのなら攻めるだけ。
「私たちも連れていって頂けませんか」
どうあってもついてくるようだ。
まあでも、色々と使い道はあるでしょう。肯定の意味で彼女たちに頷きで返事を返した。
リグが掴んだ情報によると、ここより北西に行った場所に盗賊団ヴォルスのアジトがあるらしい。
今回の騒動は全てこの盗賊団ヴォルスが仕組んだことであり、彼等はある実験を例の村で行なっていた。
それは、殺人兵器を作ること。あの毒を使い兵器を完成させ、ゆくゆくは都市シュメルハイツで使うつもりだったという恐ろしい計画を企てていた。
そこまで聞いて、彼女たちを喜んで連れて行くことに決めた。こちらからお願いしたいくらい。
目的はまぁ、後でね。
彼女たちの名前は、右からセリーヌ、ミレイ、マリー。たぶん、てかどうせ覚えれないだろうから、傭兵さんと呼ぶことにする。
さてと、
「お願いね、バッカス」
「仰せのままにリア様」
マイ馬車に揺られること半日。
快適な馬車旅はやっぱりバッカスに限る。
道中は特に変わったことも起きず、遠目に要塞のような物が視界に入ッた。
「リグ、もしかしてあの変なやつ?」
「場所的にはこの辺りですから間違いないと思います」
変と言ったのは、歪な形をしていたから。
輪郭だけを言うならば、木みたいに所々が左右に枝分かれしている。それと、アジトと言う割には、中々の規模だった。
遠目で要塞に見えたそれは、察するにかなり昔に廃棄された砦を盗賊団ヴォルスが勝手に使っているのだろう。
《索敵》
ひーふーみー⋯⋯えっと、軽く見積もっても百人はいるんだけど、これって一盗賊団の規模じゃないよね?
流石に一都市にテロを仕掛けようとするだけある。
「皆殺しにしますか?」
リグから発せられる殺気に、またしてもセリーヌたちが怯えてしまった。
相手がいくら多くてもリグ一人で余裕だとは思う。
「ん、ちょっと待って」
私は何かの違和感を感じた。
人ならざる者の気配。
あのアジトの中にそんな気配を感じる。
しかし、私の感知に勘付いたのか、その気配はすぐに消え去った。気付かれたと判断してから気配を隠す速さからみても、相手は相当の実力者だと思う。
「リグ、今の分かった?」
リグはキョトンとしている。もしかして私の勘違い?
まぁ、考えてても拉致があかないか。
「これからあのアジトに攻め込む。準備はいい?」
「あの、全員殺すのでしょうか?」
不安そうな顔しているセリーヌ。
大丈夫。生き証人として一人だけ残すつもりだから。
「盗賊団の頭以外は全員殺して。じゃないとこちらがやられる」
仮にも傭兵なのだから、人の命を奪うのくらい慣れてると思ってたのだけど。
どうやら彼女たちは、今まで人を手にかけるような仕事はしなかったらしい。
「なら、帰る?」
「いえ、やらせて下さい!」
「やります!」
「正義は我にありです!」
うむ、よろしい。さて、突撃の時間。
裏からこそこそ?
姿を消して、こっそりと?
遠距離から魔法をぶっぱして全滅させる?
どれも違うよ。
「正面から正々堂々と攻めるよ」
リグ以外の三人の顔が青くなる。
圧倒的な数の不利な状況で真正面から攻めるのに何か問題があるのだろうか。
傭兵さんが何かブツブツと喋っていたけど、無視して歩き出す。
暫く進むと偵察者にバレたようで、あっという間に囲まれてしまった。
「おい! そこで止まれ」
「なんだお前たちは。ここがどこだか知ってるのか?」
男たちは全身を舐め回すように視線を私たちに向ける。
「ガキだが、かなりの上玉じゃねえか、全員頭に献上だな」
「なあおい、これだけいるんだ一人くらい味見してもいいよな?」
「馬鹿かお前! バレなければ二人でもいいんだよ!」
人数の問題じゃないと思うんだけど。下卑た笑いがどうしようもなく耳障り。
私が手を下そうとした瞬間、まさかのセリーヌたちが全員片付けてしまった。
「女の敵は容赦しません」
一撃だった。通り過ぎ様にチラリと確認するに皆一様に的確に急所を貫かれていた。
盗賊たちよりも全然彼女たちの方が実力は上らしい。これは、もしかしたら私たちの出番はないかもね、リグ。ん、リグ?
「どうしたのリグ?」
リグは一点だけを見つめ、何やらボーッとしていた。
「あ、すみませんお姉様。なんでもありません」
「そう? なら、砦の中に入るよ」
盗賊の遺体は、リグが綺麗さっぱりと消していた。
どうやって消したのかは聞かないことにする。




