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最後の魔女  作者: 砂鳥 ケイ
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最後の魔女50: マリンバ村の悲劇

「本当にありがとうございました」


 彼女は私に頭を下げる。


 今日も私は困ってる人を助けていた。


 一家の主人が謎の高熱で何日も寝たきりだと言うので、治療したのだけど。

 治療とは名ばかりで、病気になる前の時間に戻すだけ。

 聖女のサーシャが使う治癒は本当に治してしまう本当の治療。私には出来ない。


 ダーブルを出発した私は、マイ馬車に揺られる事一週間、シュメルハイツと呼ばれる都市へと辿り着いた。

 着いて早々、無断で人様の家に上がり込み、病気の人を治した。その後、広場である噂を耳にした。


 ここから北に3日程進んだ小さな村からの音信が全くないのだと言う。胸騒ぎがする。

 モンスターに滅ぼされたのでは?

 天変地異で跡形も無くなったんじゃ?

 などと噂は様々だった。

 依頼を受けて様子を見に行った者も戻ることはなかった。


「おー! 全滅かな?」


 なんでそんなに嬉しそうなのさ。


 リグは前からだけど、悪魔と言う種族からなのか人の生き死ににあまり頓着がないというか、私以外の事は基本どうでもいいみたい。


「ん、見に行って確かめる」


 私とリグは件の町まで馬車を進めた。


 3日と聞いていたけど、朝方出発して夕刻には目的地へ到着してしまった。

 バッカスがドヤ顔をかましてくるので、頭を撫でて労を労った。


「ここだよね。なんだか異質な空気? と言うか、瘴気だよねこれ」


 まだ、日は暮れていないにも関わらず村全体が薄い紫色に覆われていた。

 リグが瘴気と言っていたけど。瘴気とは、魔なる者が出す他種族には身体に害のある毒素の事。

 吸い続ければ、最初は目眩や吐き気を覚え、最終的には死に至る。


「駄猫、瘴気の出所を探って」


 眷属召喚により駄猫を召喚し、命令する。

 ちなみに眷属に瘴気は効かないので衰弱する心配はない。


「了解にゃ」


 駄猫は真っ直ぐに村の中へと入っていく。


 生存者の反応は⋯⋯ない。どうやら間に合わなかったみたい。胸騒ぎは的中してしまった。


 少し歩くと、駄猫の姿があった。

 どうやら探すまでもなかったようね。


「これが瘴気を出してるみたいにゃ」


 そこは村の中央に位置する小さな広場だった。

 駄猫の前にはモンスターの無残な死骸が放置されていた。

 ワイバーンだろうか。小さな羽の生えた翼竜が朽ちた姿で放置されていた。

 小型と言えど、ただの村人にどうこう出来る相手じゃないことは明白。つまりは第三者による犯行。


 全滅では誰に話を聞くことも出来ない。頼みの精霊さんもこの辺りはいないみたい。


 取り敢えず目の前のこれを何とかしないとね。


 《炎獄・堅牢》


 文字通り超火力で一瞬で灰すら残さずに燃やし尽くす。その際、有害な煙が飛散しないように牢で覆う。

 複合魔法と呼ばれる術。


 瘴気の発生元を駆除した事により、村全体を覆っていた紫色の靄が次第次第に晴れていく。


 ん、何だろ、今一瞬視線を感じた気がした。

 それはリグも同じだったようで、視線を感じた先を睨みつけていた。


「出て来ませんね。こちらから攻めます?」

「もう少し様子見。逃げる素振りを見せたら拘束して」

「任せてお姉様」


 リグはニヤリとその口元を歪めた。

 こちらから一方的に殺したりしたら駄目だからね? 絶対だよ?


 暫く硬直状態が続いたが、すぐにそれも崩れた。

 最初の反応は一人だったけど、どうやら仲間を呼んだらしい。3人が私達を取り囲む用に配置を取った。


 これはもう敵対意思ありってことでいいよね。


 無害の私ではなく、先程から殺気を放っていたリグへとナイフが投擲された。

 背後から投げられたにも関わらずリグは最小の動作でそれを躱す。次いで複数の火のついた爆発物が投擲されるも、リグは器用に導火線だけを切り落とし、爆発を阻止する。


 遠距離からは仕留めきれないと判断したのか、一人が姿を見せ、こちらに向かって突っ込んで来る。

 真っ黒い装束を羽織り、口にはマスクを深々とつけ、目だけを露わにしていた。

 それが人族なのか魔族なのかはたまた他種族なのか性別すら判断出来なかった。

 誰だからは知らないけど、真っ向勝負で私たちに挑むなんて100年早いわ。


 私はリグにある誓約をしていた。


 それは、私の許可がない場合は戦いにおいて自分が悪魔だとバレる戦い方はしないようにと言うものだった。故に十八番である悪魔の腕は使えない。

 それでもリグは見た目幼女でありながら十分に強い。結果、突っ込んで来た勢いのまま、そいつはリグによって簡単に地に伏せられてしまう。


 《影縫》で大地に縫い付け身動きを封じる。


 さてさて、お顔を拝見させて貰いますね。


 必死にもがこうとするが、その程度じゃ私の拘束からは逃れられないよ。


 しゃがんでマスクを剥ぎ取ると意外にもその下から出て来たのは人族の女性だった。

 人族なら話が通じるかもしれない。


「何故攻撃するの?」


 話し掛けられたのが意外だったのか彼女は一瞬驚いた素振りをする。


 背後から残りの二人がナイフを握りしめ出てくる。

 そして、リグの威圧もとい悪魔の眼差しによって、その場で時間が止まったように動きを封じられてしまった。

 まさに蛇に睨まれた蛙のように、圧倒的な強者の前に弱者は身動き一つ取らせてもらえない。理不尽なまでの力。


「か、身体が動かない⋯」


「お願い! あの二人には手を出さないで」


 彼女は必死に私に訴えかける。

 リグが睨み付ける。


「そちらが先に仕掛けておいて、助けて欲しいとは虫が良過ぎないかしら?」

「あぁ、確かにそうだ。私はどうなっても構わない。知っている事は全て話す。だからどうか⋯」

「フィーナ! 駄目よ! この場を逃れてもどのみち失敗した私たちは消されてしまうわ!」

「どうせあいつらに殺されるなら、このお嬢ちゃんたちに殺された方がまだいいわね」


 声色から察するに三人とも女性。格好から察するに女性の暗殺者?


 どちらにしても訳ありみたい。


 彼女の影縫いを解除する。

 そして、リグに目配せし、悪魔の眼差しを解除するように伝える。


「じゃ、話して」


 日差しが強かったのを理由に場所を木陰に移して、話を聴くことになった。


 3人を正座で座らせる。当然フードとマスクは外してもらう。


「私たち3人は雇われの傭兵をしています。今回の依頼は、このマリンバ村に誰も近付けさせるなというものでした」

「ふーん、それで近付いちゃったから、私たちを口封じに消そうとしたって事ね。で、返討ちにあったと」

「はい⋯そうです。もし村の惨状を見られた暁には消すようにとの指示でしたので⋯」


 私は少しだけ怒ってる。


 人を殺す覚悟はあるのに自分たちは死ぬ覚悟はないなんて、笑わせてくれる。


「で、何故命乞いを?」


 今回ばかりは同情の余地は一切ない。


「どうせ命が惜しくなったんでしょ。お姉様、さっさと殺して街に戻りましょうよ。瘴気を全身に浴びて、何だか気分が悪くて」


 リグの意見は至極最も。

 はぁ、私も帰りたくなった。

 でもその前に一応一つだけ確認しておく事がある。


「瘴気を放って村人全員を殺したのは貴女たち?」


 3人は互いに目配せし、首を振る。


「瘴気とは一体、何の事でしょうか?」

「しらばっくれないで!」


 リグが隣に立っていた木に裏拳をお見舞いし、お見舞いされた木が、根こそぎ彼方へと消え去る。

 その様を見た彼女たちは一様に青ざめる。


「さっきまでここらにあった紫の靄よ!」

「し、瘴気かどうかは分かりませんが、私たちは伝染病が流行り全滅してしまった村に誰も近付けさせないようにと依頼を受けたの。本当よ」


 もう一人の女性も同じように否定する。


「じゃあ、何で殺そうとしたにゃ」

「ね、猫が喋った!?」


 何処からか戻って来た駄猫が会話に加わった。



 彼女たちは、伝染病が拡大するのを阻止する為に今回の仕事を依頼されたそうだ。

 村に近付けさせない。

 強引にも近付く者がいれば伝染病感染拡大の恐れがあるから即刻拘束。

 近付いてしまった者は感染の疑いがあるから排除。

 更には近付いて伝染病蔓延る中に平然としている連中がいれば、抗体を持つ者。つまり、そもそもの伝染病を撒いた首謀者だから始末して欲しいと言うものだった。


「で、私たちが首謀者だと?」

「はい⋯ですが、途中から違うんじゃないかと思い⋯それで⋯」

「それで待ってくれと? 命を助けてくれと? どちらにしてもこれは命のやり取り。先に仕掛けて来たのはアンタたち。正当防衛で殺しちゃっても文句を言われる筋合いはないわ」


 全くリグに同意である。

 彼女は地面に頭を打ち付け、両手を地面に当てる。いわゆる土下座だった。


「ですので、私の命だけで許して頂けないでしょうか」

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