最後の魔女34:リアとリグ
第9位階悪魔リグ。
上級悪魔は己の強さを等級で現していた。
どうやらあの幼女は見た目に反してとんでもない化け物だったみたい。
「私が何をしたの?」
「とぼけるんじゃないわよ! あんたが私の同胞を屠ったんでしょう! 隠しても無駄よ。悪魔の眼を通してあんたの顔はばっちし見てたんだからね!」
悪魔の眼って何。もしかして全ての悪魔と繋がっているとか?
しらばっくれても駄目なようだ。
やだなぁ戦うの。見た目は弱そうだけど、実際は強いんだよね。
先に動いたのは黒騎士だった。
私の首を刎ねるべく、その超重量の大剣を振るった。
距離は50mくらい離れていたのに剣撃の軌跡をなぞり、見えない刃が私を襲う。
シャモンがそんな無防備な私の前に出て、その見えない刃を受け止め⋯
《反射》
いや、跳ね返した。
「主の前に私が相手になろう」
リグはニヤリと笑みを零す。
「いいわ。カーバイン、先にアイツをやっちゃって」
2人は一瞬にして距離を縮めたかと思うと、見えない速度で斬り合っていた。
互いの剣がぶつかり合う甲高い音だけがワンテンポ遅れて鳴り響く。
単純な速度、技術は互いに五分と五分。
このままでは埒があかないと判断した2人は、一度後方に下がる。
「主、リミッター解除の許可を」
一部の眷族には、そのパワーがあまりに強大な為、制限を掛けていた。
シャモンもまた例外ではなくリミッターと言う名の制限を掛けていた。
「ん、許可する」
対する黒騎士は、何やらマスターである悪魔に怪しげな術を施されていた。
《敏捷性増強》《筋力増強》《耐久性増強》《対物理ダメージ半減》《対魔法ダメージ半減》《一定時間ダメージ無効》
すぐに戦闘は再開した。
先程までとはまるで違う速度で斬り合う2人は、周りの全てを置き去りにして只々斬り合っていた。
《蛇行斬》
シャモンの使う技能の一つで、本来直線的な斬撃を蛇のように蛇行して斬撃を飛ばすことが出来る。
ただの斬撃の中に蛇行斬を折混ぜ、相手を翻弄する。
見えない斬撃は相手の剣の軌跡から推測するしかない。
しかし、蛇行斬は軌跡と全く異なる斬線を描く。
超高速の斬撃の合間に放たれる奇行な斬撃に成す術なく黒騎士は攻撃を受ける。
しかし、黒騎士には悪魔から付与された《一定時間ダメージ無効》かあった。
結果、両者ともにノーダメージ。只々体力だけが削られていく。
シャモンは剣神とまで呼ばれた剣士の頂点だったが、魔法の方はからっきしだった。
対する黒騎士も魔法の類は一切使えなかった。
似た者同士と呼べるかもしれない。
「中々やるではないか」
「お主もな」
互いの実力を認め合い賞賛し合う。
武士道とは敵味方など関係ない。相手が優れていれば褒め称える。そんな実力が拮抗している2人を止めたのは、自らの主だった。
「シャモン、下がって」
「黒騎士、下がりなさい」
互いに下がらせ、主である2人が前に出る。
「魔女のくせに優秀な護衛を連れてるじゃない」
「ん、貴女も」
側から見れば、幼女と少女が睨み合っている仲睦まじい光景なのだが、実際は違う。
化け物級の力を有しているこの2人に近付ける者はそうはいないだろう。
両者は一歩何処ろか全くその場から動いていない。だが、勝負はもう始まっていた。
威圧と殺気の応酬。
先程凄まじい勝負をしていた眷族シャモンと黒騎士でさえ、この場の空気に圧倒されていた。
「行くわよ」
リグが右手を天に向ける。
するとどうだろう、つい今まで晴れていた天候に雲が陰ったかと思えば、やがてそれが雷雲へと変わり、雷鳴が轟き、次いで雷号が辺り一帯に降り注いだ。
意図も簡単に天候をも操作する悪魔リグ。
正確無比にコントロールされた雷がリアを襲う。
何万ボルトという雷を人がまともに喰らえば黒焦げは必至。普通ならば、避けるか防ぐかの2択に迫られる中、リアが取った行動は、
《反転結界》
強制的に魔法を術者へ跳ね返す魔法。
流石のリグも、まさか跳ね返えされるとは思っていなかったのか、まともに受けてしまった。
しかし、流石は上級悪魔と言うべきか、彼女の着ていた黒いドレスの節々に焦げができ、破れてしまっている程度で、肉体的ダメージは殆ど見てとれない。
「ちょっと何よそれ! 反射なんて反則よ!」
敵である私相手に涙目になり、抗議してくる悪魔。
私と貴女は敵、何も言われる筋合いはない。
でも、衣服以外は殆ど無傷じゃない?
反則なのは貴女の耐久力よ。
頭に血が上っている今が好機。連続で超重魔法を畳み掛ける。
《重力》
《針千時雨》
動きを封じた上からの無数の針地獄。針には保険として致死性の猛毒が塗られている。魔法の応用、複合魔法で猛毒と一緒に発動させた。
無数の針により土埃が舞い、悪魔の状態が確認出来なかった。
気配を手繰っていると、突如として私の右側からガラスが砕けるような甲高い音が鳴り響く。
それは私が念の為にと展開してした防御障壁が砕ける音だった。
防御障壁は、ある一定のダメージまでを肩代わりしてくれる優れものだ。
でも、見えなかった。何処から攻撃されたの?
今度は左側からガラスが割れる音が聞こえる。
あぁ、2枚目の防御障壁が砕かれてしまった。
あ、あれか。
私の発動させている重力の為か地に伏せた状態でこちらを睨みつけている悪魔。
その腕は、以前教会地下の戦いの時にも見た悪魔の腕。
よく分からないけど私はそう呼ぶ事にした。
で、あの悪魔も同じような腕を体現していた。
どうやらあれで殴られたらしい。目にも留まらぬスピードで。
それにしても、一撃で砕かれたのだとしたらかなりマズい。
つまりはそれだけ威力があるって事。
もし生身で受けたらかなり痛い気がする。
痛いのは嫌。お断り。
!?
3枚目の防御障壁が砕かれた。
でも見えた。攻撃の瞬間、あの巨大な腕が限りなく見えにくくなるよう保護色に変化して攻撃を繰り出してた。
それにしても速い。
だけど、以前の悪魔の腕のように問答無用で魔力を吸ったりはしないみたい。
もしそうであるなら防御障壁は私の魔力で作られているから砕く前に魔力を霧散されてしまうはず。
もしかしたら固体の違いで悪魔の腕の能力も違うのかもしれない。
って、状況分析してたら最後の防御障壁が破られてしまった。
種も分かった事だし、ここから反撃開始。悪魔は重力であの場から動けないみたいだし、一方的にリンチにしてあげる。
と言うわけで、
《酸性雨》
でゆっくりと全身を溶かしつつ、
《爆雷》
で濡れた体に電撃を流して爆発させる。
悪魔自身を起爆剤とし、凄まじい爆発が発生した。
やがて爆発は、あちこちで誘発を繰り返し、古城をも巻き込み崩壊してしまった。
崩壊の崩落に巻き込まれないようにその場を離脱。
古城の裏手を見張っていた駄猫が何やら念話で喋ってたけど、生憎と私は戦闘中だから忙しいから無視。
流石の悪魔と言えど、この惨状ではもはや生きてはいまい。
最後まで悪魔本来の姿ではなく幼女の姿だったのは多少なりとも心に響くけど、あれは私の敵。
敵は排除する。それだけ。




