最後の魔女33:悪魔の報復
「ご主人様、一体いつまで寝てるつもりにゃ」
聖女であるサーシャと別れてから、死神騒ぎのあったカムルという町まで戻って来ていた。
「それは違う。魔女には睡眠必要ない」
「へ理屈にゃ」
駄猫がにゃーにゃーとうるさい。
戻って来てからあっと言う間に3日が経過したが、何もやる気が起きない。故にベッドの上でゴロゴロしてるだけ。寝てる訳じゃない。失礼しちゃう。
やる気がないのとは関係なく、この町で困ってる人がいないんだもの仕方がない。
私が悪い訳じゃない。あー、サーシャと遊びたいなぁ。
そんな事を思っていると、不意に部屋のドアがノックされた。
「しゅみましぇん!」
当然訪ねてくる人に心当たりはない。
部屋代だって、泊まる時に1ヶ月分払ってるし、まだ半分くらいは残ってたはず。
ボサボサの髪と乱れた衣服を一瞬の内に魔法を使いサッと直し、ドアを開ける。
一応身嗜みには気を付けてるつもり。女の子だし。
いつ何処で運命の人と出逢えるのか分からないのだから。
ドアの前にいたのは、私よりも小さな少女だった。
舌足らずな言動と見た目とが凄く一致している。
「えとぉ、これ買ってくだしゃい!」
少女はバスケットに入れた花束を差し出して来た。
満面の笑みで。
まさかの押し売り?
うーん⋯無下に断るのもなんだか悪い。
というより、その純粋な笑顔を見て断れる人がいるのだろうか⋯。
「1本いくら?」
指で1を示す少女。1銅貨だよね? 1銀貨じゃないよね?
ごめん、私あんまし今お金を持ってないんだよ。
1銅貨と花1本を交換すると、女の子はニッコリと微笑みお辞儀をする。
どうやらあってたみたい。
「あ、お姉ちゃん、これもあげる!」
手紙のようなものを手渡すと、そのまま走り去ってしまった。
何だか最後舌足らずじゃなかったような。わざとだったのかもね。
あれ? さっき買った花が見当たらない。
風で飛んで行った? あれ⋯まあ、いいか。
渡された手紙を確認すると、その手紙にはとんでもない内容が記載してあった。
''明日の正午に同封の地図の場所まで1人で来い。来なければ貴様が護った王都ミュゼルバを滅ぼす。悪魔より''
うぬぬ。これって、どうみても件の悪魔関係だよね?
そもそも悪魔は私が亜空間に閉じ込めたから本人でない事は確かなはず。
なら関係者なんだろうけど、さっきの少女? まさかね。
それに何故この場所が分かったの?
ここは王都ミュゼルバからかなり距離があるのに。
もう一枚の紙が地面に落ちる。
この地図の場所は⋯⋯何処?
端っこの○印は、たぶんここカムルの町。で、×印が目的地かな。
名前は、アスムガルドの古城?
うーん、聞いた事ないなぁ。
はぁ、面倒だなぁ。無視してこのまま引き篭もりたい。
でもせっかく護った王都が潰されたら元も子もない。
私は1体の眷属を召喚する。
腰に刀を2本携え、片目は黒い眼帯で覆い、軽装ながらも手入れの行き届いたシワ一つない袴を見に纏った妙齢の男性が出現した。
跪いてこうべを垂れる。
「シャモン、お願い」
「御意」
眷属は、自分でイメージしたままの姿で誕生する。
シャモンの姿は、まぁ、ちょっとあんな感じの格好に憧れた時期があった時に眷属生成しただけで今考えると少し恥ずかしい。
魔法の使えない凄腕の剣士という設定にしている。
■剣神シャモン
剣技を司るリアの眷属の一人で剣鬼リヴェルの兄にあたる。
強さ的には、たぶんあの時の悪魔にも引けを取らないと思う。
シャモンに命じたのは、指定された場所に潜伏し、情報を探ること。
情報収集ならば、眷属のミーアの方が有能だけど、仮にあの悪魔レベルの奴が出て来た場合、ミーアでは荷が重い。
「明日の正午ならまだ時間ある」
「ご主人様! にゃんでまたベッドにダイブするのにゃ!」
「ん、やること無い」
そのまま目を閉じ、いつの間にやら次の日を迎えていた。
「面倒だけど向かうかぁ」
仮に戦闘になってもいいように入念に準備はしておく。
駄猫には朝方、既に先に向かわせていた。
というのも、シャモンから応援要請が来たのだ。
人手が欲しいと。
まぁ、駄猫の場合は猫の手なんだけど。「面倒」だとか「気が乗らない」とか訳分からないこと言ってたけどチラリと睨むと急にオドオドしだして、そのまま駆けていった。
拒否権なんて元々ないのだから最初から素直になればいいのにね。学習しない猫め。
さて、私も移動するかな。
現地へ向かう? いや、まだ時間はある。
歩いて移動? まさかね。
空を飛んで? それも違う。
事前にシャモンに転送の魔導具を持たせておいたのだ。それを使えば一瞬の内に移動することが出来る。
正午まではまだ時間があるから、まだ現地には行かない。
あんまし早く行き過ぎてもやる事ないし。
宿は引き払い、余剰分は払い戻しして貰う。貧乏人は辛いのだ。手っ取り早くお金を稼ぐ方法でもあればなぁ。
メイン通りの露店を散策する。
使いそうな物を購入し、バッグへと入れる。
ちなみにこのバッグは、マジックバッグと言って、中は異空間と繋がっているので、かなりの量を入れる事が出来る。
また、時間も経過しない為、例えば熱々の料理を入れた場合10日後に取り出したとしても入れた時の熱々の状態なのだ。
そして約束の正午キッカリに地図に示してあった古城へと到着した。
古城と言うか、もはや廃墟だよねこれ。
元々何処かの国所有の有事の際の離れ王城らしいのだけど、放棄されてから100年以上は経ってるくさい。
ん、何で知ってるかって?
勿論それは調べたからに決まってる。
自分で? まさか。情報収集得意な眷属にお願いしただけ。時間がなかったからあまり詳しい事は分からなかったけどね。
「主、現在この古城の中には我々以外は誰もおりません」
「ん、分かった」
約束の時間になったのに現れないとはいい度胸ね。
「駄猫は?」
「にゃも殿ならば裏門にて待機しています」
荒廃しているとはいえ古城を囲うように立派な城壁が聳え立ち、出入りするならば正面と裏門の2箇所しかない事は事前に調査してもらっていた。
故に両方を抑えておけば何かあった時に優位に事を運べる事が出来る。
その時、不意に魔力の奔流を感じた瞬間、前方方向の広間に2人の人影が出現した。
転移かな?
「主、後ろへ」
私を後ろに下げようとするので、それを手で制止する。
「大丈夫」
一人は騎士風の人物。漆黒の鎧兜が怪しげな異彩を醸し出していた。
以前、私が眷属創造しようとした暗黒騎士に似ている。結局、途中で思い留まり挫折したんだけど。
でも、あー見ると中々イケてる気がする。
っと、もう一人は少女⋯あれ、見覚えがある。
あ 、昨日の花売り少女!
やっぱり、奴らの一味だったのか。と言うより、彼女が本命かな?
一瞬そうかもと思ったけど、見た目少女だったから、騙されたなぁ。
「良く来たな魔女」
あれ、舌足らず口調じゃない。あれはやはり演技だったのか。年相応で可愛らしくて良かったのに。
「私に何か用?」
「ああ、そうだ。お前の命を私が貰い受ける!」
え、このまま戦闘に突入? せめてさ、自己紹介とか私の命が狙われる理由とか色々あるよね?
やっぱりまだ少女だからその辺りの常識が分からないだけ?
ならお姉さんとして教えてあげないとね。
「私は、魔女シュタリア。貴女は?」
なんでそんなに意外そうな顔をしているのかは置いておくとして、あの黒騎士はたぶん護衛かな。
気配から察するに相当の手練れのようだけど、何より禍々しいオーラを放っているのはあの少女の方。
悪魔に間違いない。問題はどれくらいの実力を持っているのか。
王都に現れた悪魔シュダルとか言う輩は確か、第13位階だった。
勿論序列だけが力の本質ではないのだけど大凡の目安にはなる。
「我の名はリグ。第9位階悪魔リグじゃ」
え、なにそれ怖い。
第9位階って⋯まさかの一桁台!
そんなのが暴れたら国一つ何処ろか大陸が滅ぶわよ。




