最後の魔女131 ヒスイの最期
「ねえ、これがヒスイの欲しかった子なの?」
ダンジョン消失の危機を乗り越えてから数日が経過していた。ダンジョンマスターの間で白い猫がお座りの姿勢で主の命令を待っていた。
「そうよ。見た目はただの仔猫ちゃんだけど、見た目に惑わされちゃだめ。だってすっごく強いって書いてあるんだからっ」
多大なダンジョンポイントを消費して召喚された仔猫の名はケルベロス。あの地獄の番犬ケルベロスと同じ名前。だけど、見た目は仔猫⋯?
全然強そうには見えないのだけど、むしろ愛らしくすらある。
そういえば、私の眷属にも似たような猫がいたような気がする。
「お、早速いい獲物のお出ましだよ」
ダンジョンの中ならばありとあらゆる場所を見渡すことの出来る巨大スクリーンに、今し方ダンジョンに侵入してきた冒険者の五人組が映し出されていた。
「どのくらい強いか早速試してみなくちゃ。ケルベロス、命令よ。あいつらをボコボコにしちゃって」
主の命令を聞いたケルベロスは可愛らしく鳴き声を上げると、その場から消えた。
「え、あれ、どこ行ったの?」
ヒスイ本人も困惑していたけど、あの光は転移だよね。あね仔猫、転移が使えるんだ。
スクリーンに映し出されていた光景に目を奪われた。
一瞬にして冒険者の元へと転移した仔猫は、本来の巨大なケルベロスの姿を露わにし、次々と蹂躙していく。それは一方的なまでの戦力差だった。冒険者は逃げる暇すら与えてもらえず、一人、また一人とその獰猛な牙の餌食となっていった。
ヒスイもまさか殺しちゃうとは思っていなかったのか、あまりの衝撃的な映像に口をパクパクさせて言葉を失っていた。
「私、ボコボコにしろとは言ったけどさ⋯あれは、流石にあんまりだよ⋯」
私に助けを求めるような目を向けるのはやめて欲しい。
「良かったじゃない強い味方が出来て。あの冒険者たち、動きは悪くなかったよ。たぶん、そこそこランクの高い冒険者だよ。それを瞬殺するなんて、あの仔猫、じゃないかワンちゃん、頼りになるね」
ヒスイは少し引いたような目でこちらを凝視する。
「ヒスイ。ダンジョンを攻略されたらヒスイは死んじゃうんだよ。だから、侵入者は全てヒスイを殺しに来てるようなものなんだよ。非情にならないと、あの時みたいに足元掬われるよ?」
そりゃ、私だって無意味に人族を殺したいとは思わない。だけど、自分が死ぬかもしれないのに相手に情けなんてかけてたら周り回って次に死の危機に立たされるのはこっちかもしれない。時と場合は選ばないといけないけど、あの時にこうしておけば良かったなどと後悔はしたくない。
「そうよね、貴女の言う通りだわ」
その後、私のせいで非情になってしまったヒスイは、ダンジョンに入ってくる冒険者たちをケルベロスに入り口待機を命じて、次々に排除していった。私の静止も聞かずにまるで廃人になってしまったかのように。今では私の言葉すら耳に入らず、片っ端から殺戮のかぎりを楽しんでいた。
「ヒスイ⋯。ごめん、ごめんね⋯」
そうして数ヶ月が経過し、いつの間にやら、ヒスイのダンジョンが危険指定Aランク扱いになり、滅多なことでは冒険者の来ない寂れたダンジョンと成り果ててしまった。
ダンジョンポイントは侵入者があって初めて溜まっていく。その侵入者が来ないとポイントが貯まらず、毎日徴収される利息分が払えず、やがて三回のペナルティ後、ヒスイの存在は書き消えてしまった。
次いでダンジョンが消失していく。
ダンジョンマスターとダンジョンは一心同体であり、ダンジョンマスターが死ぬとダンジョンは消滅してしまう。逆もまた然り。
ダンジョンの規模により、毎日僅かばかりのダンジョンポイントが消費されていく。そのポイントが払えないとペナルティを貰い、そんな日が三日連続で続くと、ダンジョンマスターはその存在を消されてしまう。
私は、ダンジョンが消失する前にダンジョン外へと転移で離脱した。




