最後の魔女129 目覚めた先に
私とダンジョンマスターをしているヒスイとの出会いからかれこれ数ヶ月が経過していた。
「ねえ、リアちゃん、またお願いしてもいい?」
小さな姿で上目遣い。可愛い仕草で懇願するヒスイ。そんな頭上の壁に映し出された映像には、ダンジョン攻略を果たすべく最下層に迫る一団の姿が映っていた。
時折、ヒスイの手伝いの為、ダンジョン攻略を阻止すべく私は手を貸していた。
ヒスイのダンジョンは、まだ出来てから日が浅く全十二階層しかない。故に度々踏破の危機が訪れる。
ダンジョンにも様々な種類があるが、ヒスイのダンジョンは一度踏破されると消えてしまう類のものだった。つまりは、ダンジョンが消えるとダンジョンと一心同体であるダンジョンマスターも消えてしまう。
私は好意でこのダンジョンに住まわせて貰っているので、これくらいの協力は惜しまない。
「分かった。少しだけ脅かしてくる」
永きに渡る封印生活の影響か、私は自分の感情のコントロールが下手になってしまった気がする。自分で言うのも何だけど、封印前はもっとこう明るい性格だった⋯気がする⋯⋯たぶん。
封印から解放された直後は、記憶の混濁が激しかったけど、今ではある程度の記憶は思い出していた。
だけど、どうしても思い出せないのは私が封印されてしまった経緯と理由。一体誰に封印されたのだろうか。それと、大切な何かを忘れている気がする。
目の前にいるのは、騎士団風の男たち総勢二十名。私は不可視の魔法で目下監視中。ダンジョン踏破を阻止するお手伝いとは言え、人族を殺したくはない。だから、恐怖による撤退を促していた。
眷属召喚
男たちの前に現れたのは、彼らの体長の十倍はありそうな程の体躯の九頭竜。
実は見た目だけに拘ったので戦力的には大したことはない。だけど、今までもこの容姿を見て全員すぐに逃げ出していたので今回も大丈夫なはず。私は隠れて高みの見物と洒落込む。
「おい、出たぞ! あれが噂に聞いていた九頭竜か。やはり、恐ろしい迫力だな」
「全員、このままの陣形を維持しろ」
あれ⋯もしかして、逃げずに戦うつもり?
「先生、お願いします」
私は目の前の男たちにしか気を留めていなかった。そんな私を嘲笑うかのように後方から一人の男がゆっくりと歩み寄る。
脇に二本の業物を携え、着物に草履と言う、明らかに場違いな格好の⋯お爺さんかな。若くはないね。だけど、凄く強そう。
「ふむ。全く覇気が感じられんな。ただの見掛け倒しじゃて」
ボソリと呟いた次の瞬間、お爺さんの姿が消えた。
私にも見えなかったその先で、アドラスの九つの首が全て落とされてしまった。沈黙と共に皆が呆気に取られていたが、竜の首が地面に落ちる音で沈黙が解除された。
「さ、流石ですね剣王ドレイク先生」
何このお爺さん、めちゃくちゃ強いんだけど。
他の眷属で応戦する?
いや、駄目かな。リスクしかな────!
視線と殺気を感じた私はすぐさま転移で最下層、ダンジョンマスターの間へ逃げる。
危なかった⋯⋯不可視で隠れている私を察知するなんて、少し油断しちゃったかな。
「早かったじゃん。ちゃんと追っ払ってって、アンタ大丈夫? 怪我してるけど」
妖精姿のヒスイが慌てて私の元へと駆け寄る。
視線を下に向けると、右肩が切り裂かれ、かなりの量の出血をしていた。
あの一瞬で一太刀を貰っていたのか。痛覚無効を使ってたから気が付かなかったな。少しでも逃げるのが遅かったら危なかった。
ヒスイはダンジョンマスター権限を行使し、傷を癒してくれて元通りになった。
「凄く強い人が来ちゃったみたい。悪いけど、私じゃ手に負えないよ」
今まで、ドラゴンを使って恐怖で追い返したのが、仇となってしまった。より強い強者を呼び寄せてしまったらしい。




