最後の魔女128 封印
身体が動かない。
何も見えない⋯寒いよ⋯。
記憶が混濁しているのかな⋯。
確か私は⋯⋯そうだ。悪魔王サタンを封印する為に私の生命力全てを媒介として封印魔法を使ったんだ。
じゃ、私は死んじゃったのかな?
まぁでもそれは自分で選んだことだし、私なんかの命であの脅威を封印出来たんだもの。
でも、この違和感は何? そもそも死んだはずの私が何故こうやって自我を持って考えていること自体がおかしい。
もしかして、これが死後の世界ってやつなのかな?
いや、やっぱり違う。何か違う、おかしい。
発動したあの時、あいつは⋯サタンは、何をした?
確か、サタンに向かって放たれた封印光が跳ね返って、それが私に⋯⋯。
そう「くだらん」って言ったんだよ私にあいつは。
じゃ、もしかして封印されたのは私なの?
他でもない私自身の生命力を全て使って私を封印したの?
馬鹿みたい。
これって、一体私はどうなるんだろう。
真っ暗な意識だけの状態で、永遠と生きていくのだろうか。いや、もはやこれは生きてるとは言わないよね。それに、もしかしたら既にもう死んでるのかもしれないし。
あれからどれくらいの時が経ったのか⋯。
死にたくても死ねない。寝たくても眠れない。
意識だけの孤独な一人世界。三日が過ぎたのか、一年が過ぎたのか、もしかしたら十年が過ぎたのかもしれない。
やがて、私自身が何者かも忘れてしまう程に孤独な何もない世界が私を押し潰してしまった。
「⋯綺麗」
不意に第三者の声が聞こえる。
最初は幻聴かもと思った。だって目を開けても何も見えないのだから。
だけど、どうやら幻聴ではなかった。
「どうして最下層にこんなものがあるの? まあいいわ。砕け散りなさい」
途端、ガラスが割れる音が辺りに鳴り響く、と同時に身体に重く重力が掛かり、何かに受け止められる。
「ねえ、貴女生きてるの?」
瞼が凄く重い。
ええと、目を開けるってどすれば開くんだっけ⋯
はぁ⋯はぁ⋯。呼吸を整えて気持ちを落ち着かせる。
微かに光が差し込んでくるのが分かる。
「泣いてるの?」
今まで真っ暗で孤独な世界に一筋の光が差し込んだ瞬間、何故だか涙が止まらなかった。
ゆっくりと目を開く。
「おはよ。ずいぶんとお寝坊さんなんだね」
心配そうに私の顔を覗き込むのは、小さな小さな妖精さんだった。
彼女の名前はヒスイ。
ここ、難攻不落ダンジョンのダンジョンマスターだ。
「ねえ、貴女なんで私のダンジョンにいるの?」
身体に力が入らない。まるで、自分が自分でないみたい⋯。
「わ⋯私は⋯」
駄目だ。上手く声も出せない。
「疲れてるんだね。見ての通り何もないけど、あ、そうだ。ちょっと待ってね」
《ダンジョンマスター権限を行使する》
何もない空間だった箇所に見事なまでのログハウスが出現した。
ダンジョンマスターは保有しているポイントを行使することで、そのポイントに応じた様々なものと交換することが出来る。ヒスイは保有ポイント五千を使い、寝泊り可能なお洒落ログハウスを選択したのだ。
妖精サイズのヒスイはいつの間にか人型サイズになっていた。
リアをお姫様抱っこすると、そのままログハウスの中に入り、優しくベッドに寝かせる。
「また後でね」
ニコリと微笑むと部屋を後にする。
頭がボーッとする。ここが現実なのかまだ夢の中なのかハッキリしない。
整理しよう。
私は⋯私の名前は⋯シュタリア。シュタリア・レッグナート。
うん、名前は大丈夫だね覚えてる。
それで、確か誰かと一緒にダンジョンに挑戦して、それで⋯。何だっけ、思い出せない。ううう、何か、大切なことを忘れてるような気がするんだけど。




