最後の魔女126 悪魔王サタン2
遠目に確認出来たのは、何かが宙を舞い地面へと鮮血を撒き散らしながら転がる光景だった。
私は言葉を失った。
その何かを確信してしまったから。
悪魔王サタンは膝を付いた放心状態の私の元へと歩み寄る。
「残りはお前だけだ。あいつが剣士ならばお前は聖職者と言った所か」
ドス黒いオーラを放ちながら悪魔王サタンは私を見下ろす。
「確かに人族にしては強者の部類だったが、それでもこのダンジョンを踏破出来る程とは到底思えない。と言うことは、脅威なのは貴様の方なのか?」
コイツが何を話しているのか全然頭に入ってこないや。はぁ⋯私、怒ってるなぁ。さっきまでは恐怖で震えているだけだったのに、今では全く正反対の感情が込み上げてくる。
駄目だよね、気持ちを落ち着かせないと⋯
私が今考えないといけないのは、どうやってコイツを殺してやろうかということ。
アレス君の仇は私が取るから。相手を殺意を込めた目で睨み付ける。
「よくもアレス君を殺したな」
「案ずるな。すぐに貴様もその後を追うことになる」
《身体強化》《魔力強化》《危険察知》《防御膜×10》
魔法の鞄から世界樹の杖を取り出す。私が本気で闘う時だけに用いる杖。魔力変換効率が何も持っていない時の十倍。普通に販売されてる杖の五倍。
なら何故いつも使わないかって?
それは消費魔力量が通常の二倍必要だから。魔力の総量には自信があるけど、何が起こるか分からないし、なるべくならば温存しておきたい。それに魔力が無くなると魔力欠乏症になって魔女の私は動けなくなっちゃう。だから魔力の残量には気を付けないといけない。
少しは冷静になれただろうか。怒りに我を忘れたら本来の動きが発揮出来ないにゃってにゃもさんに言われてたしね。再び相手を睨み付ける。
「なんだ、貴様も悪足掻きして見せるのか」
「お前と話すことは何もない。朽ち果てろ!」
《四方結界》
悪魔王サタンの周り四方から支柱が現れ、透明な壁が構築された。
大型モンスターすら封じ込めてしまう強力な結界。
中に入る者は徐々に生気を吸われ衰弱する効果を持つ。
だが、サタンには通用しなかった。
一瞬にして結界が弾け飛んだ。
《植物の楽園》
荊の蔦が両手足、身体中と巻き付きサタンを拘束していく。
「不快だな」
直後、サタンはその身ごと炎に包まれたかと思えば、強引にその拘束を焼き払った。
小手先の魔法じゃ歯が立たないわね。
あ、あれ⋯サタンの姿が見えない。目の前にあるのは燃えたぎる炎だけ。一体何処に────!
《永断》
脳内に警鐘が鳴り響く。巨大な鎌が振り下ろされ、私の防御膜が割れ、咄嗟に退く。
先程まで私がいた場所には先程の衝撃からか大地に大きな裂け目が出来ていた。
危ない。防御膜がなければ今ので終わっていたかもしれない。
すぐに距離を取り、失った防御膜を何枚か張り直す。
「我の一撃を防ぐか。それに貴様魔女だな。死に絶えたとおもっていたが、よもやまだ生き残りがいようとはな」
「あまり魔女を舐めない方がいいわよ《雷撃針》」
紫電を帯びた針がサタンに降注ぐ。それは甲高いまるで女性の悲鳴にも似た音を立てながら襲い掛かっていた。雷撃針は雷魔法の中でも高位な方だ。これが効かないとなると⋯⋯。
「児戯に等しいな」
サタンは何事もなかったように電撃地獄から抜け出る。
アイツの魔法耐性が高過ぎだよ。ただの魔法じゃ意味がない。
《千戦撃》
ノーモーションから放たれた千にも及ぶ数多の斬撃が正確に私へと襲い掛かる。
それはまさに斬撃の地獄絵図。背にしていた廃神殿がどんどんと細切れになっていく。
私が避けきるまでのほんの一瞬の間に防御膜が全て弾け飛ぶ。
それでも一撃だけ貰ってしまった。
私の右腕が宙を舞い、それが細切れにされていく様を横目で確認する。
すぐに治癒を使い、右手を元に戻す。
戦う前から分かってはいたけど、コイツ規格外すぎるよバケモノだよ。速すぎてその動きは見えないし、斬撃の威力も桁が違う。
もうなり振り構っていられない。反動で動けなくなっちゃうけど後先のことは今は無視。
《限界突破》
私の身体を薄く赤いモヤが包み込む。
《雷撃針》
先程と同じ魔法だけど、威力は数倍だ!
「グッ」
僅かにサタンが怯む。
このチャンスは逃さない。畳み掛けるなら今しかない。
《雷撃王の一撃》
矢を象った巨大な雷が光速で相手を穿つ。
サタンは避ける間も無く直撃し、その勢いのたま遥か彼方へと飛ばされた。
多少は傷でも追ってくれてたら嬉しいんだけど⋯。
はぁ⋯はぁ⋯呼吸を整えないと。次の高位魔法の為に今のうちに魔法の詠唱を────。
「ふむ。見事だ。痛みを感じたのは何百年振りだろうか」
ははっ、あれを喰らって無傷なんてね。雷系統最強の魔法だってのに。
「魔女よ。今度はこちらの番だ。これを防いで見せよ」
悪魔王サタンは、巨大鎌を虚空へと放り込むと。その手を天へと伸ばした。




