最後の魔女125 悪魔王サタン1
鋭利に尖ったその爪を横凪に振るう。
その動きに合わせ地面が切り裂かれ、勢いを増してこちらに向い迫ってくる。
地面からの攻撃に障壁は意味を為さない。
私はアレス君を掴み上げるとそのまま大地を蹴り、宙を舞う。
許せない。アイツ、私じゃなくてアレス君を狙ったんだもん。
「ちょっとやめなさい! どちらにしてもあの子たちを倒してもアンタに報酬を上げることはないのだから!」
動きが止まったかに見えたが、次の瞬間妖精さんの小さな身体が真っ二つに引き裂かれた。
「目的のものが手に入らないのならば貴様に用はない。それと⋯目撃者は消さねばならない」
どうやっても私たちを排除するつもりみたいね。
アレス君はまだ身体が思うように動かないみたいだし私が守らないと。
相手は大地から伸びた鎖によってその身体がグルグル巻きに拘束される。
「残念だけどこの見えてるのは実体じゃないの。ダンジョンマスターである私に手を出したこと後悔させてあげるわ」
「こんなもので我が縛れると思うのか?」
身体を巻いていた鉄製の鎖がまるで腐敗するかの様にボロボロと朽ちていき、やがて跡形もなく消え失せた。
「我が野望を成し遂げるために何十年も策を弄し、今に至ると言うのにな。我が願いを叶えるならば命までは取らんと誓おう」
「笑わせないでよ。脅しが通じる相手だと思って? ダンジョンマスター権限を行使。ダンジョン外へ追放するわ!」
妖精さんが指を指し、ドヤ顔で言い放つも、相手に変化は訪れない。
「何で、何で発動しないのよ!」
ダンジョンマスター権限を行使した際、アイツの目が一瞬だけ光ってた。もしかしたらその時に何かしたのだろうか。
「ダンジョンマスターの権限を行使する。この偽物を消し去れ」
言い返すように今度は妖精さんが光に包まれると、やがて跡形もなく消え去った。
嘘、どう言う原理かは知らないけど、アイツがダンジョンマスター権限を行使したってこと?
だとしたらヤバいよ。相手の土俵でやりあえる訳がない。言葉を発しただけで、消される可能性だってある。
すぐにアレス君を連れて転移を試みるも、やはり発動しない。
全速力で逃げる。もうそれしか手はない。
「リア、僕を置いて行け。このままじゃ二人とも捕まるぞ」
「だめだよ。アレス君を置いて行くなんて出来る訳ないじゃない」
こっちは転移が使えないってのに、なんでアイツは転移して先回り出来るのよ。得体の知れないそいつは、まるで私たちをゴミでも見るように見下ろしている。
「もうこんな場所に用はないのだがな」
なら帰ればいいじゃないよ!
「だが、我でも不可能だったこのダンジョンを踏破した者だ。どんな手を使ったかは知らんが、我が野望の前にいずれ脅威となるやも知れんな」
背丈以上の巨大な鎌を亜空から取り出した。
その瞬間、全身を絶望感が駆け巡る。
な、なによこれ⋯。怖い⋯怖いよ⋯。
もしかして私、震えてるの⋯?
こんな感覚。あの時の無力だった頃以来の感情。アイツが巨大鎌を出した瞬間に威圧か何かを使ったのか⋯。恐怖で身体が動かない。
私はコイツには勝てない。魔女の勘がそう言ってる。それ程までにコイツは強者なんだと身体が警鐘を上げてる。
私があれこれ思想を巡らせていると、私の前にアレス君が立ち塞がる。
何で立てるの⋯この威圧の中で⋯。
「リア。お前は逃げろ。一人だけなら逃げれるだろ。その為の時間は死んでも稼ぐ」
「我の威圧を無効化しているな。まさか称号持ちか」
「称号? 何のことか分からないが、そんなもん気合いで何とでもなるんだよ」
「威勢がいいのは結構だが、ただの人族が悪魔王サタンに勝てると思っているのか」
ははっ、やっぱり化け物か。
ただでさえ強者と呼ばれる悪魔でかつ悪魔の王だって?
ふざけないでよ。何でこんな奴が私の目の前に現れるのよ⋯。
「ありがとうリア。短い間だったけど、お前と旅したこの数日間。とても充実していたよ。暗殺者として生き人形だった僕に新しい道標を示してくれた。感謝してもしきれない。だからさ、最後くらいカッコつけさせてくれないか」
《アクセラレーション)
爆発的な能力向上を得る変わりに己が命を削る諸刃の剣。
「行くぞサタンっ!」
短剣を手にし、サタンに猛追する。
サタンは、右に左にその攻撃を躱し、そのまま二人して奥の方へと消えて行く。
駄目だよアレス君⋯逃げてよ⋯ 殺されちゃう。
私は地面を強く叩きつける。
何で、何で私の足は動かないのよ!
「はあぁぁぁぁぁぁぁ!」
依然として威圧の効果により、思うように身動きが取れない自分の頬を引っ叩く。
自らにダメージを与えることで威圧による行動阻害を解除することに成功した。
「早くアレス君の後を────」
振り向き、遠目に映ったそれに私は言葉を無くした。




