最後の魔女123 正体
アレス君は微笑んだ笑顔のまま表情に反して私に大剣を向ける。
表情と行動とが一致していない何とも奇妙な行動。
「貴方は誰?」
ねえ、知ってるかな。アレス君はそんな表情したことないんだよ。いつもクールで冷静で、お人好しで、微笑んだ表情なんて見たことないよ。
「あはっ、この子の記憶を使って演じていたつもりだったけど、下手だった?」
不快だね。私のアレス君の姿形で、変な喋り方しないでよね。
「ねえ、私の質問に答えてよ」
「うーん、そだね。ならさ、私に勝てたらその質問に答えてあげるよ」
告げた瞬間、相手は一瞬で私との間合いを詰めその大剣を振り下ろす。
重力に逆らったありえない速度だ。
衝撃音と共に大剣が弾かれる。
どんなに早くても私の障壁の前には意味をなさないよ。
アレス君じゃない何かは大剣を無造作に放り投げる。そのままコートの中に忍ばせていた何かを取り出すと私目掛けて投げ放つ。
爆弾かな? でもそんなもの⋯
あれ、何故だか力が入らない。
膝をついて倒れ込む。
「あはっ、魔女には効果的面だったかな」
何これ⋯この球から発せられた煙を吸った瞬間、急に力が入らなくなって⋯。
「何をしたの⋯」
「質問に答えるのは、僕に勝ったらって言ったよね」
そして、何の躊躇いもせず落ちていた大剣を拾うとそのまま振り下ろされた。
身動きの取れない私の身体は真っ二つにされる。
でも残念、それは分身だよ。
《深樹の森》
大地から伸びた根が偽物くんの手足へと絡み付き拘束する。
やられたらやり返すよ。
「その根は絡みとった相手の体力も奪う。キミはもう逃げれないよ」
観念したのか、ジタバタしていた身体の動きを止める。
「ふーん、この子、こんなことも出来るんだねえ」
怪しげな言葉と共に偽物くんの身体が仄かに煌めく。
《アクセラレーション》
絡まっていた根を一瞬にして引きちぎると先程の倍以上のスピードで放たれた拳。眼前に迫る拳を避ける為、そのまま後方へと跳躍する。
危なかった。今の力⋯魔法じゃないよね。
あの根はそこらの鉱物なんかよりも頑丈。そう簡単に切れるモノじゃない。
って、よく見ると焼き切れてるじゃない。
あれは、アレス君の身体を操っているだけのはず。なら、元々アレス君にあんな力があったってことだよね。
「まだまだ勝負はこれからよ、魔女さん」
反則的なスピードに終始翻弄され防戦一方だった。
無数の斬撃の雨を障壁で防ぎながら反撃の機会を窺っていた。身体強化中の私より速いって何なのさ。
って、またその球か!
あれは一種の痺れ薬的なやつかな。厄介なのは障壁の上からでも効果があるってこと。そんな厄介な煙は御免だね。そっくりそのまま送り返してあげるよ。
《竜巻》
巻き起こされた旋風は、すべてを吹き飛ばしやがて旋風は風の刃へと変わる。
繰り出された無数の刃を器用に両短剣で弾き落としていく。
動きの止まった隙を狙う。
《重力》
ふぅ、成功だね。あれだけ素早いと狙うのも大変だけど、動けなくなった標的は格好の的だね。
「降参する?」
「流石にこれは動けないなぁ。しょうがないね」
アレス君がグッタリと倒れ込む。
私はすぐに魔法を解除し、抱き抱える。
まるで魂でも抜けたかのようにアレス君は意識を失っていた。
やはり、憑依されていたのかなぁ。アレス君を抱えたまま、大地へそっと寝かす。
改めて周りを見渡す。
花畑を超えた先に広がるのは旧く朽ちた神殿かな。
天井なんて今にも崩れてきそうな感じ。
その中央から神秘的な感じで後光が差し込んでいた。
私はアレス君に障壁を張り、そちらの方へと向かう。
後光が照らす場所に小さな動くものを感じたのだ。
「私の負けね。私の正体だったかしら?」
目の前で宙に浮いていたのは、小さな人型の妖精さんだった。
「私はこのダンジョンのマスターをしている妖精族のサキュアよ」
ダンジョンマスターとは称号でもあるが、天からダンジョンを生成を許された存在でもある。生まれついてダンジョン生成のスキルを天啓として与えられた者であり、選ばれし存在。
ダンジョンにもレベルと言う概念が存在し、長い年月を掛けてダンジョンのレベルを上げ、より大きく強くしていく責務がある。
「何であんなことしたの?」
アレス君を弄んだこと。私と戦わせたことが許せない。
「うーん、暇潰しかな。この階層まで来れたのはキミたちが初めてだったからさ。あれ、怒ってる?」
言われるまでもない。私は怒っていた。
ただの暇潰しであんなことをさせておいて、許せない。そんな私の怒りを感じたのか妖精さんは急にジタバタと慌てだす。
「ええ、この場所を消し飛ばしてもいいかなくらいには怒ってるよ」
妖精さんは空中で羽ばたきながら、器用に土下座をする。
「あわわ、ごめんなさい! 悪気は無かったのよ! ダンジョンマスターである私はこの階層は命そのものなの。ここを破壊されちゃったら⋯⋯」
妖精さんは涙目で私に懇願する。
一発殴らせて貰おうかと思ったのに、何だか拍子抜けしちゃった。




