最後の魔女120 ダンジョン攻略1
ここは迷宮都市ダンジョン八十七階層の何処か。
私は周りをモンスターに囲まれていた。周りには他に誰も見えない。
普通ならば絶体絶命なのだろうけど、私の前では全く関係ないね。
《紅蓮華》
地面に炎に染まった巨大な華が咲き乱れる。その身を動かし、火の粉を撒き散らす。火の粉の飛んだ先からまた火の華が咲き、それが連鎖していく。
私を食べようと息巻いていたモンスター共を一瞬で灰にし、自分の置かれている状況を整理してみる。
普通に低層でアレス君と狩りをしていた。と言っても周りの目があったから、働いていたのは専らアレス君だけだった。
最初の頃は、小さなネズミとかコウモリみたいなモンスターで、それほどの脅威は感じなかった。
それに調子を良くした私たちは、どんどんと下層へ降りて行った。意外にも同業者たちの姿はなく、気が付けば地下二十階層まで降りていた。
そこへ来て初めて冒険者とすれ違う。
動きを見てるとまだ駆け出しさんだろう。おぼつかない連携で何とも初々しい感じ。危なげながらも何とか戦いになってる感じかな。
剣と戦斧と槍を持った前衛と大きな鞄を背負った荷物ちの四人組。暫く眺めていると、こちらに気が付いたのか気恥ずかしそうに、そそくさと退散してしまった。
その後も下層を目指して邁進していく。
道中、安全層と呼ばれるモンスターの沸かない階層に辿り着いた為、昼食を取ることにした。
「私の手作りのサンドイッチだよ。たくさんあるからいっぱい食べてねー」
「何か、独特な刺激臭がしないか⋯」
アレス君はあからさまに顔をしかめている。
「そう? 新鮮だから素材本来の匂いが残ってるのかな?」
私の自信作、スモールボア肉サンドとオーガの目玉焼きサンド。どっちも新鮮取れたて調理仕立てだから絶品だよ。
うんうん、アレス君涙を零しながら食べてる。泣くほど美味しいのかなぁ。
「またたくさん作るね」
「いや! 次からは僕が、いやずっと僕が作るから!」
何故だかアレス君は自分が作ると頑なに譲らなかった。
あっという間に数日が経過し、私たちは地下五七階層へ到達した。
疎らにいた冒険者の数も団体さんと遭遇して以降十階層は誰ともすれ違っていない。
「流石にこの辺りまでくると、一撃じゃ沈んでくれないな。そうなってくると、リアの魔法が頼りだ」
アレス君は暗殺者であり、急所狙いの一撃必殺を得意とする。派手な戦闘は得意ではないし、大型のモンスター相手では手数を増やさないといけない為、どうしても分が悪い。そこで私の出番。
引っ切り無しに沸いて出てくるモンスターを私がコンガリと焼いて行く。
最初の頃に比べて火力を上げないと倒せなくなって来たけど、まだまだ余裕かな。
地下六三階層。
ここは巨大な二本足の牛の化け物ミノタウロスの巣窟だった。
火に対して耐性があるのか火系統の魔法がまるで効いてない。強靭な皮膚をしていて風刃も僅かに傷跡を残す程度だった。
アレス君は武器屋から仕入れた大剣を手にして奮闘している。
二日前に一旦補給に戻った際に仕入れていたんだけど、今までと全く勝手が違う為か当初の頃は剣の重みに振り回されていたが、今では中々様になっている。
新しく両断というスキルを覚えてからは、バッタバッタとモンスターをなぎ倒していた。
しかし、ミノタウロスの強靭な皮膚の前に苦戦していた。
「単純に考えて、火に強いなら水に弱いはず」
辺りに冷気が漂う。周囲温度が数度は下がっただろうか。
「凍てつく氷の波動よ、かの者の動きを封じ捕らえよ」
《氷結世界》
私の詠唱に呼応し、氷の吹雪がミノタウロスへと襲い掛かる。
氷系統の最上位の魔法の一つ。
本気で放つと周りの全てを凍らせてしまうから、魔力は最低限にしている。
それでも蠢くミノタウロスたちはまるでその時を静止したかのように氷漬けになっていた。
「おい、これってもう死んでるのか⋯」
確認すると、ミノタウロスのHPは確かに零になっていた。
「みたいだね」
「お前、そんな簡単に⋯。今まで見た中で一番ヤバくないか?」
改めて自分のしでかした事をマジマジと確認する。
そこそこ広いエリアにミノタウロスの数は八体。
その全てが氷漬けにされ再起不能になっていた。ミノタウロスは上位のモンスターで、確か一体相手に冒険者は複数人で挑むってギルドの先輩たちが話してた気がする。上級ランクパーティの冒険者たちならば、一人一体相手にするらしいけど⋯確かにこれはやり過ぎたね。
「リア、これも禁止な」
「あははっ⋯⋯次からは気を付けます⋯」
私が魔女だとカミングアウトしてから、アレス君は事あるごとに私の正体がバレないように注視してくれている。本当に私には勿体ないくらい良い子。




