最後の魔女119 冒険者になる2
おじ様は掌をクイクイと挑発する。
そんな安い挑発に乗るアレス君じゃないよ。
「⋯⋯ちっ、本気で行くぞ」
乗るんかい!
一瞬で相手の背後へと移動すると、そのまま相手の首元へと手刀を繰り出す。
おじ様はまるで背後に目があるかのように全く振り向く素振りをせずにそれを指で受け止める。
「手加減して良いとは言ってないぞ」
まさか受け止められるとは思っていなかったのかアレスは目を見開き、一旦距離を置くと、コートの中に隠し持っていた短剣へと手を伸ばす。
「合格だ」
試験官役は突然合格を宣言した。
「いや、だけど僕はまだ何もしていない」
「実力が見えればそれでいいのさ。誰も俺に勝ったら合格なんて言ってないぞ?」
アレスは短剣から手を離し、リアの方へと向かう。
「気を付けろよ。アイツ只者じゃないぞ」
「うん、そだね。頑張る」
アレス君の動きは速かった。だけど、おじ様はいとも簡単にその動きについて行った。
私は魔女だとバレる訳にはいかないから魔法は使えない。それ以外で実力を見せるには、予め施しておいた身体強化フルブースト状態で戦うだけ。勿論武器の扱いなんて知らないから素手だよ?
「いつでも掛かっておいで、お嬢ちゃん」
渋いおじ様も中々いいけど、生憎と今は間に合ってるからね、本気で行くよ!
魔法以外の戦闘の経験なんてない。だから私は真っ直ぐに。ただ真っ直ぐにその拳を繰り出した。
どの程度のスピードが出ていたのか分からないけど、結果は先程と同じように、おじ様は余裕の表情で私のグーに握った拳を掴んでいた。
威力も増し増しで放ったつもりだったけど、流石は試験官のおじ様。やっぱり、それだけ冒険者になるって大変な事なんだね。私舐めてたよ。
「お嬢ちゃんも合格だ」
おじ様、少し疲れてない?
「すげーな二人とも」
気が付けばいつの間にやらギャラリーが増えていた。
拍手して讃えてくれてるけど私は何もしてないよ?
一発殴ろうとしてまんまと受け止められただけだよ。
「コイツはまた優秀な新人が入ったな。俺たちもうかうかしてられねーぞ」
先輩たちが仲間内で勝手に盛り上がっている。
私は冒険者としては新人なのだから、頭を下げて挨拶しとかないとね。
「おい、今あの子こっちを見たんじゃねえか? お前パーティに誘えよ。あれは絶対人気出るぞ」
「あの子中々ハンサムじゃない。私たちのパーティにどう?」
何故だかどんどんと人が集まってくる。
あまり広くない訓練場なので、すぐにギュウギュウ詰めになっちゃうんじゃないのかな?
「おい! 遊んでる暇があったらとっととダンジョンにでも潜りやがれ!」
「やべ、ギルマス補佐が怒ったぞ」
「また降格させられちまう!」
試験官のおじ様の怒号に皆が雲の子を散らすように去って行く。
それにしても、ギルマス補佐?
ただの試験官役のおじ様じゃなかったの?
後で受付のお姉さんに聞いた話だけど、このおじ様は冒険者でありながらその実力をギルドマスターに認められ、補佐としての業務も担っている凄腕のおじ様だった。通りで強い訳だよ。
「すまなかったな。さっきも言ったが二人共合格だ。受付には話は通してあるからそこで詳しい説明を聞いてくれ」
ペコリと頭を下げてその場を後にした。
その後無事に冒険者になった私たちは、当面の拠点とするべく宿を探すことになった。
冒険者が多い都市と言うのもあり、宿の数もそれなりに多く選ぶのに時間が掛かったけど、決め手はやっぱしこれだよね。
今、私の眼前には美味しそうな料理が所狭しとテーブルに並んでいた。新鮮なお野菜に色鮮やかな飲み物の数々。見てるだけでヨダレが出てきそう。
宿選びの条件としてまず第一にお風呂があるのは当たり前として、やっぱりご飯が美味しい所だよね。
アレス君は「何処でもいい」って言うから私が選んだんだんだけど、私の判断に狂いはなかったね。
ちなみにアレス君とは別の部屋だよ。まぁ、だって年頃の男女が一つ屋根の下なんて間違いが起こったら危ないからね、うん。
「早速明日から潜るか?」
「そだね。どんな感じなのか行ってみたいね」
浅い層ならば特段準備をしなくても大丈夫だよね。
お風呂にもたっぷりと浸かり満足でベッドに入る。
でも寝る訳じゃないよ?
魔法の勉強。二人で冒険なんて初めてだからね。使えそうな魔法を復習しておかなくちゃ。後、周りに他の人がいても使えそうな魔法がないかチェックしておかないとね。




