最後の魔女115 暗殺者3
私は絶賛アレス君と街中を逃げ回っていた。
彼は必死になって私の手を引く。何というか誰かに守ってもらうこと自体が初めてだったから右往左往私はされるがままの状態になっていた。
追っ手を巻き、今は廃屋の一室へと逃げ込み一息付く。
「もういいよ。このままじゃアレス君まで狙われちゃうよ」
「⋯別に構わない。自分で選択した結果だ。お前が気にすることじゃない」
そう言い、私の頭をワシャワシャと撫でる。
「前々から疑問に感じていたんだ。もしかしたら罪を犯していない人がターゲットになってるんじゃないか。組合にとって都合の悪い人物を消してるだけじゃないのかってな。僕は違和感を覚えつつもこの手を血に染めていた。そろそろこの仕事も辞めようと思ってたしな。丁度いい」
ちなみに私が死神の夜のターゲットになったのは、やっぱり昨夜の彼等のターゲットを助けてしまったかららしい。組合にとって任務遂行の妨げとなる要因は狩らなければならないというのがアレス君が説明を受けた内容だった。
任務を言い渡された時はいつものようにただ頷くだけだったが、自分の本当の気持ちを押し殺して私の前に立ったが、今回に限ってはその手を汚すことが出来なかったらしい。アレス君は拒否した理由は女の子だからと言ってたけど、たぶん実の所は自分の良心が許せなかったんだと思う。殺し屋という家業はよく分からないけど、アレス君みたいな優しい人は向いてないと思うな。
「お前、家族とかいないのか? この街には一人で来たのか?」
「お前じゃないよ。リアって呼んで」
余所余所しい言い方は好きじゃないな。
「⋯リアは一人なのか?」
アレス君は何故だか若干頬を染めている。そんなに名前は言い難いのだろうか?
「いないよ。私はこの世界を一人で旅をしているの。家族もいないよ」
「そうか、同じだな。僕も家族はいない」
アレス君は大人びてはいるけど、何歳くらいなのかな。見た目だと15.6歳くらいかな。だとすれば私の容姿と同じくらいだと思う。背は向こうのほうが高いけど。こうして並んでいると兄妹に見えなくもないかもしれない。
「リア。いつまでも逃げていられる訳じゃない。こんなことに巻き込んでしまって悪いけど、すぐにこの街から出るんだ」
「うん、それがいいね。アレス君はどうするの?」
「僕は⋯⋯けじめをつけてくる」
けじめって何だろう。聞いてみたけど結局教えてくれなかった。
アレス君から街の出口までの最短ルートを教えてもらい、そのまま別れることとなった。
去り際に「元気でな。ありがとう」って言われちゃったけど、何だかこのままお別れになるのも嫌だな。それに何故だか嫌な予感する。魔女の勘ってやつ?
「どうするにゃ」
「このまま隠れてアレス君を追って。今度は匂いで追えるでしょ?」
「あまり人族と関わるのは良くないと思うにゃ」
「いいから!」
にゃもさんが駆け出したのを見届ける。
さて、私も動こうかな。
いくら私がか弱く見えてもやっぱり守られるって言うのは性分に合わないからね。
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「なに、死神の夜を抜けたいだと?」
「はい。今回の件で迷惑をお掛けしましたし、何より思うところがありますので」
「ターゲットと逃亡し、戻って来たかと思えば⋯。考え直せ。今回の一件だってお前ならば謝れば許して貰える。何せお前の戦力は組合にとって貴重だからな」
「貴方には感謝しています。孤児だった僕を引き取って育ててくれた貴方には恩がある。だが、僕自身がもう違和感を持ってしまったんだ。こんな状態のままこの仕事を続けられません」
死神の夜副団長のガーベルは深い溜息を吐き、アレスを睨み付けた。
「分かっているのか。組合を抜ける時は殉職する時以外ありえないのだと。無理に抜けるということは、我々同業者に命を狙われるのだぞ」
真っ直ぐな澄んだ瞳で応える。
「それでも、僕は自分に正直に生きたい」
「お前をそんな風に変えてしまったのは、あの少女の影響か」
「違う! リ⋯彼女は関係ない!」
ガーベルは目で合図すると、部屋の中にいた二人の斥候が消えるように部屋を去る。
「ガーベル! アイツに手を出したら僕が許さない」
「お前も知ってるだろう。一度ターゲットになった要人は団長が撤回しない限りは追われ続ける。お前もいい加減目を覚ませ!」
出て行った斥候を追うべく部屋を後にしようとしたアレスに同じ暗殺者である二人がアレスを取り押さえる。
しかし、その手を振り払い、一瞬で移動したかと思えばガーベルの喉元へと短剣を向けていた。




