最後の魔女114 暗殺者2
これから殺し合いをするから互いに名乗れと言われた。
意味が分からない。私は扉代を弁償して貰えたらそれでいいのだけど、相手のアレス君はどうあっても私を殺したいらしい。
「おい、何故名乗らない」
「え、だって知らない人で尚且つ怪しい人に名乗りたくないもん」
アレス君は呆れたように首を横に振った。
「なら別にいい。名も無き罪人よ、その罪を悔い改め死後の世界に旅立つがいい」
神に祈りを捧げるポーズを取るとアレス君はその場から消えた。
それは目にも止まらぬスピードだった。
闇色にギロリと光る短剣を手にして、私の首筋目掛けて斬り付ける。
「何故動かない。僕を試しているのか?」
刃物の先が首筋を少しだけ斬り付け、赤い血が一雫流れ落ちる。
「何故って私殺されるような覚えがないんだもん。怪我してる人を救っただけだし。それにね、アレス君殺気がちっとも篭ってないんだもん。元々寸止めするつもりだったんじゃないのかなって」
アレスは、深くため息を吐くと手に持っていたナイフを懐へとしまう。
「じゃ、私も質問。なんで寸止めしたの?」
「僕はどんな理由があろうと女の子は殺さない。それだけだ」
最初と言ってること変わってるけど⋯。
うん、でも面白い子だね。
どうしようもない殺人者かと思ってたけど、何か理由があるんだろう。
「それに、あの程度お前なら肌に触れてからでも避けたんじゃないのか?」
それは買い被り過ぎだよ。
「さあ、どうかなぁ」
その後、場所を変えてカフェへと足を運ぶ。
別に場所は何処でも良かったんだけどね。喉が渇いたなって言ったら「じゃあ行きつけのカフェに連れてってやる」って言うもんだからさ。これってもしかしてデートだったりするのかななんて変な事を考えていたけど、相手にはそんな感情はこれっぽっちもない訳で。私だけが浮かれちゃって何だか恥ずかしい。
カフェには客は誰一人おらず、アレス君はカウンターの中のマスターと目を合わせるとマスターは一番奥の席へと案内してくれた。
事情を説明すると、何の惜しげもなく扉代だけではなくこの場の代金まで全て支払ってくれた。しかもデザートの特大パフェまでサービスだよ!
「あ、ごめんね、自己紹介がまだだったね。私の名前はシュタリア。宜しくねアレス君」
「色々と言いたいことはあるが⋯名乗っても良かったのか? さっきは拒んでいただろう」
「え、だってもう見ず知らずじゃないしね。一緒にお茶したらもうお友達でしょ?」
「変わった奴だな。俺は知っての通り殺し屋だぞ。怖くないのか」
殺し屋って響きなんだかカッコいいよね。
彼は殺し屋。私は魔女。
罪を犯した貴族や権力を持った者を自らの手で裁いている。
普通ならば公の場で裁かれ判決が下されるのが当たり前なのだけど、それが罷り通るのは一般市民だけだった。貴族などの金持ちや権力を持っていれば都合の悪い証拠なんて幾らでも握り潰してしまい殆どの場合が無罪放免となってしまう。
「だから僕等のような殺し屋に依頼が来るんだ。当然、本当に殺されるだけの事をしでかした人物なのかは事前に調査している。合致した者を手に掛けてる」
アレス君は殺し屋組合 "死神の夜" の構成員の一人だった。組合からの依頼を暗殺者であるアレス君たちが実行する仕組みだ。
つまりは、組合の言いなりだ。
「実際に貴方がターゲットについて調べる訳じゃないのね」
「そりゃそうさ。調査担当は他にいる。僕は手を降すだけさ」
なら、騙されて実は何の罪もない人を殺めている可能性もないことはないんだね。
その時だった。
私の危険察知の警報が鳴り響く。
「この場所なら大丈夫だと思ったんだけどな」
ボソリと呟いたアレス君は、先程とは違い暗殺者のそれへと変わっていた。
「詳しい話は後で話す。僕に付いてきて」
手を引かれ、連れて行かれるがままにカフェの裏口から飛び出し、迷路のような狭い路地を抜けた先には複数の人物が待ち構えていた。
「くそっ⋯」
「お前の考えなどお見通しだ。何年一緒に仕事をしていると思ってるんだ」
ん、同業者なのかな?
でもなんでアレス君が狙われてるのさ。ってその答えは鈍い私でも分かるよ。
「何故裏切る。何故今回のターゲットであるその女を狙わない」
そういう事だよね。狙われていたのは私。
でも、何故?
ううん、そんなことは今はいい。
何故ターゲットである私をアレス君は狙わないのか。
「僕は女の子は狙わない」




