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最後の魔女  作者: 砂鳥 ケイ
114/145

最後の魔女113 暗殺者1

「にゃもさん起きて!」


 二度の私の呼び掛けに反応を示さなかったので、必殺のまつ毛ツンツンをお見舞いする。これをするとどんなに深く眠り込んでいても気持ち悪くなり起きざるをえないまさに必殺技だった。


 器用に肉球でまぶたを擦り、大きく伸びをするとジト目で私を睨み付けるにゃもさん。


「仕方ないでしょ。危険察知が反応したんだもん。それより、すぐにその場所に向かうよ」


 反応があったのは、ここから少しだけ離れた路地裏だった。まだ夜明け前ということで街灯もないこの辺りは薄暗く路地の中を伺うことは出来ない。


(血の匂いがするにゃ)


 物音を立てないように念話に切り替えていた。


(ここの角を曲がった先だけど、反応があるのは一人だね)


 こっそりと顔だけだして路地裏を覗くと、その先には倒れている人が一人いるだけだった。その周りには夥しい量の出血が見える。

 私は夜目を発動させているから真っ暗でも鮮明に見えている。どうやら犯人と思しき人物は既にこの辺りにはいないようだ。


(にゃもさん、血の匂いを追って)

(任せるにゃ)


 倒れている人の所まで駆け寄り、状態を確認する。意識は失っているけど、まだ息はある。このまま出血し続けると命は無かったかもしれない。でも大丈夫。私が助けてあげるから。


 時間を戻し、傷口を刺される前の状態まで戻す。

 逆再生を見ているかのように流れ出た血が元の場所へと戻って行く。

 治療が終わると、壁にソッと持たれ掛けさせる。


(これでもう大丈夫かな。そっちはどう?)

(駄目にゃ。完全に匂いが途絶えたにゃ。遠ざかっていった速さからも只者ではないにゃ)


 見失っちゃったかぁ。

 ただの通り魔って訳じゃないよね。


 この場所に近付く複数の喋り声が聞こえた為、この場を後にする。通行人が見つけてくれることを願って。


 宿へと戻った私は、冷え切った身体を温め直す為、至高のお風呂へと浸かり、ふやけるまで温まった。


 次の日の朝は生憎の雨模様で、ザーザー降りだった。


「はぁ、これじゃ外に出れないね。折角この街を探検しようと思ったのにね」

「今日は一日部屋で寝て過ごすにゃ」


 ベッドの上でゴロゴロと気持ち良さそうな顔をしてる。

 雨に濡れなくなる魔法はあるけど、流石に周りからもろバレだしねぇ。諦めて今日も一日魔法の勉強に更けるとしようかな。

 そんなことを考えていると部屋をノックする音が聞こえた。

 宿の清掃かな?

 ドアを開けようとした瞬間、僅かに漏れた殺気を感じ、後ろへ跳躍する。

 その瞬間、ドアが蹴破られたのか、ドア板が飛んでくる。


 酷いことするなぁ、これ誰が弁償するのよ。

 にゃもさんは私の前に入り、臨戦態勢に入る。普段は頼りないけどこういう時は眷属らしい働きを見せるのよね。


「アナタは誰?」


 そこに立っていたのは、少年の風貌にも見て取れる男の子だった。

 襟を口元まで覆い、おまけにフードまで被っている。唯一目元だけが見えてる状態だ。


「お前、よくも僕の獲物を生かしたな」


 僕の獲物? 生かした?

 何のことだかサッパリだよ。


「何の話? 記憶にないよ」


(あれじゃないかにゃ。昨夜助けた人のことにゃ)


 昨夜って言ったら何者かに襲われて瀕死の重傷だった人を治したけど⋯じゃあ、獲物って目の前のこの子が犯人ってこと?


「調べはついている。僕の連続達成記録を台無しにしたお前は必ず消してやる」


 ドアを蹴破った音を聞きつけてか、宿泊客が集まってくる。

 気が付けば男はその場所から消えていた。紙を一枚残して⋯


 うーん、中を開けるのが怖いけどこれってあれだよね⋯⋯ほらやっぱし。


 紙に書かれていたのは《お前を殺す。指定された時刻、場所まで来い》と書かれたメモだった。


 わざわざ殺されに行く物好きもいないよね。


「無視でいいにゃ」

「だね。そんなことよりも⋯」


 この後、宿の女将さんに事情を説明するも信じてもらえずに結局ドアの修理代を弁償させられてしまった。


 だって。誰も目撃者がいなかったんだもん⋯


「行くよ、にゃもさん」

「あれ、行くのかにゃ?」

「当たり前じゃん!」


 だって許せないよ。この弁償代絶対に請求してやるんだからね!

 それからこのメモだけど、これ場所しか書いてないよ。時間が書いてないんだよね。いつ行けばいいのか分からない。すぐに来いってこと?


 場所もここからそんなに離れていない。あそこの牧草地の先かな。空き地みたいになってる。見晴らしはいいけど周りに人の気配はなかった。


 招待者を除いては。


「逃げずに来たことは褒めてやるが、もう少し早く来い」


 このメモを貰ってからなんやかんや数時間経過してたけど、もしかしてずっと待ってたのかな⋯。


「だって時間が書いてないんだもん」


 男は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに平静を装う。


「まあいい。それよりもこれから命のやり取りをするのだ。互いに名を知らぬままでは死後の世界に旅立つ際に不便だろう。僕の名はアレス」

「⋯⋯⋯」

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