最後の魔女100 誘拐
次の日の朝一にもう一度だけお風呂タイムを満喫しておく。広いお風呂に私一人。これが最高の贅沢。
一時間程浸かり満足した私は部屋へと戻る。リグはイビキをかきながら気持ちよさそうに寝ている。
あれ、そういえばシルフィの姿が見えない。
「帰ったのかな」
なんて思いもしたけど、礼儀正しいあの子が何も言わずに帰るだろうかと疑問に思い、取り敢えずリグをチョップで叩き起こす。
「あぁ、朝から刺激的ですお姉様ぁ」
どうやらまだ寝ぼけているようなので、もう一度チョップをお見舞いしておく。
「ねぇ、シルフィを見なかった?」
「見てないですよ」
うーん。しょうがない。ここは駄猫の出番だね。
眷属召喚で再び駄猫を呼び寄せる。
事情を説明して、一緒に捜索開始。
「匂いはちゃんと続いてるにゃ。このまま追うにゃ」
中心地と言えどまだ早朝という事もあり、行き交う人はほとんど見られない。
てっきり王城方面に向かうと思っていたのだけど、どんどんと中心街から離れていく。
流石におかしい。駄猫の追跡は信用しているから、やっぱりこれは誘拐なのだろうか。
「急ぐよ」
徒歩から駆け足へと切り替える。
結局、王国から出る羽目になってしまった。
突然入門の為の検問があるので、その列に並ばなければならない。
まだ早朝なので数台の行商の列程度ではあったけど、今の私たちには数分でも時間が惜しい。
結局、姿を隠して検問をスルーする。
「まだ遠いの?」
駆け足から割と速い本走りに切り替えていた。
「駄目にゃ、どんどん差が開いてるにゃ」
てことは馬車か何かを移動手段として用いてるのね。面倒。
「こちらも馬車で追いますか?」
バッカスなら確かに普通の馬よりも何倍も速い。
だけど⋯
「飛んで行くよ」
私は久々に愛用の箒を取り出して跨る。
後ろからリグも跨ろうとするので、跳ね除ける。
「むぅ、酷いですお姉様ぁ」
「リグは飛べるでしょ」
駄猫を掴み上げると私の膝の上へと乗せる。
「さぁ、急ぐよ」
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「ここは⋯」
シルフィが目を覚ますと、そこは寝ていたはずの宿屋ではなく全く見覚えのない天井だった。
「洞穴⋯かなぁ、なんでこんな場所に」
上体を起こし、周りを確認するも怪しい人の姿は見えない。
立ち上がり、歩こうとすると、金属音が擦れる音がし、そのまま何かに引っ張られて倒れてしまった。
右足首に鎖が繋がっていて、鎖の先にある大きな鉄球と繋がっていた。
「静かにしていなさい」
突然声が聞こえて、シルフィはその小さな身体をビクリと震わせる。
さっき確認した際には確かにいなかったその場所に、女性が椅子に座り何かを読みながら飲み物を飲んでいた。明らかにこの場には似つかわしくないその姿にシルフィは首を傾げる。
「アナタは誰ですか、それにここは何処なんですか」
シルフィの問い掛けに女は何も答えなかった。
聞こえなかったのかと思い、もう一度更に大きな声で問い掛ける。
女性は読んでいた本をバタンと閉じ、席から立ち上がる。そのままシルフィの前へと歩み寄る。
「悪いようにしないわ。いい子だから大人しくしていなさい」
耳元でそっと呟かれると、どういった訳かシルフィは急に力が抜けたように起こしていた上体をゴロンと地面へとつけた。
シルフィは何故だか身体に全く力が入らなくなり、声も出せなくなってしまい、いつの間にやら意識を失ってしまった。
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「本当にこんな場所にいるの、猫ちゃん」
ここはバラム王国から近い、ゴツゴツとした岩場が拡がっている荒野地帯。その一角の洞穴の前に立っていた。
「匂いはこの先から続いてるにゃ。あと、妙な匂いも感じるにゃ」
駄猫が言うには、この洞穴の奥から感じ取れる匂いの一つはシルフィのものだが、もう一つそれとは違う匂いがある。
しかし、その匂いが消えたと思ったら急に現れたりを繰り返しているそうだ。匂いの痕跡を完全に消すのは難しい。しかも駄猫の鼻を誤魔化すには完全に遮断する以外に方法はない。
リグが洞穴の中に入ろうと足を進める。
「待って」
この洞穴の入り口に何かの気配を感じたのだ。
足元の石をいくつか拾い上げるとそれを入口に向かって投げる。
まるで見えない電磁シールドが張り巡らされているかのようにバチバチと音を立て、石を弾き飛ばす。
「罠ですね。ま、関係ないですけど」
リグは悪魔の腕で強引に罠を破壊する。
そのまま奥へと進んでいくと、今度は二体の石像が行手を阻んでいた。




