役職羨ましいとか言われるけど、ぶっちゃけ楽じゃないよ。
「魔王様、大切なお話があります」
側近のヴァンパイアが深刻な顔で話かけてきた。
「なんだ、俺はチムチムの酸をどう回避するかで、今は頭がいっぱいだ」
魔王はシャドーボクシングさながらの動きをしながら、チムチムとのイメージトレーニングをしている。
「あ、いや、実は明後日から開催される魔界一武道会の事なんですが……」
魔界一武道会!それは魔界の猛者達が集まり、己の強さを競い魔界一を決める大会の事であるっ!
「あー、明後日か。で何か?」
「優勝者と魔王様が最後に手合わせするプログラムになってますが」
「……」
「ふぁっ!?」
「イヤイヤイヤイヤ! マジで死ぬから! いやマジで!」
一瞬この世の終わりというような顔をした魔王は、ヴァンパイアの肩を掴み、物凄い勢いで揺さぶる。
すでに涙目であった。
「お前あれだぞ、800レベくらいの奴と対峙してみろ。パッシブで発動してる瘴気だけで死ぬぞ? 戦う前から死ぬぞ?」
口に手を当てガタガタと震える魔王。
「ですよね……なので変わりの者を用意しました!」
ヴァンパイアの後ろから現れたそれは、まるで闇。
終わりの無い闇とでも言うのだろうか、しかしその闇には一切の悪意も感情も無いように見える。
「魔王様の転生前のステータスをコピーしているドッペルギャンガー(レベル500)のドギャンです!」
「オレ、マオウサマ、ナレル」
ゆらゆらと揺れる闇の中に渦巻く紅い二つの目が、笑ったかのように細まる。
「まじかー! 助かったー! さすがはヴァンパイア!」
魔王は安堵の溜息をつく。
「マオウサマ、ファン、アクシュシテ」
「止めておけ、魔王様が死んでしまう」
ヴァンパイアはすかさず止める。
「さて! じゃあ後は頼んだ! 俺は少し始まりの草原でレベル上げてくるから」
魔王は転移スクロールを使い、冒険へと旅立った。
魔王の受難はまだまだ続く……。
魔王の現在のレベル→1
HP→13
MP→6
力→5
魔力→10
知力→20
物理防御→2
魔法防御→20