8話 イルナの仕事
私はイルナ。こう見えても大人のサキュバスだ。アルナおねぇちゃんがマスターに進言してくれて、こうやって異世界のダンジョンで新しい身体を貰った。折角ならおねぇちゃんみたいなナイスバディになりたかった、こんな小学生みたいな身体じゃ一部にしか需要がない。
「よし、あいつはトイレ行きだ。」
イルナの新しい仕事はマスターのダミーコアであるトイレに人間をぶち込む事、それと逃げた奴を殺す事だ。殺しはなれてるし、それにまたおねぇちゃんと一緒に生活出来るなんてこれ以上素敵な事は無い。
マスターの配下のみんなも優しいし、スライムアサシンもいい子だ。モンスターと心を交わすのは初めてだったけど、とっても素直でかわいい子だった、今までいっぱいモンスター殺して来たけど中にはあの子みたいな子がいたのかなって思ったらちょっと悲しい。
それにくらべて人間の男は汚らわしい、私をいやらしい目で見てくる、こんな幼女体型のどこがいいんだろうか。あの目が嫌だから本当は後ろから一撃で殺りたいんだけど、ちゃんとトイレに連れて行かないとおねぇちゃんに怒られちゃうんだよね。そんな事を考えながら誘惑してトイレにぶち込んで行く。
「はい、こいつもトイレ行き。いっちょ上がりっと。ふぅ」
さて、今日も一日頑張ってトイレにぶち込もう。
☆
「順調だな~、これなら案外と簡単にいくんじゃないか?」
ここ数日は順調そのものだ、少人数で侵入してくる冒険者をダミーコアのトイレに誘い込み吸収する。人目があったり、人数が多ければそのまま進ませる。イルナは手際が良くて安心して見ていられる。
「旦那様、油断してはなりませぬぞ。いつ何が起きてもいいように心だけは構えておくべきです。」
「そうね、私もそう思うわ。もし急に勇者が現れたり、1,000人単位で攻め込まれたりしたらさすがに危ないでしょう?」
コクトとリリーが注意してくれたが、心配しすぎじゃないだろうか。だけど、二人はそれなりの経験から言ってくれてるんだろうし、あんまり気を抜かないようにしないとね。
今の所2層をクリアした冒険者は居ない。大体が途中で引き返すかDPになっている。先日判定員が来ていたので近いうちにダンジョンランクが発表されると思う。
ヤミ達の情報によるとここにジュエルスライムがいる事は段々と広がっているらしい。その噂を聞いてブルーランドに冒険者が集まりだしたみたいだ。
それにこの世界にダンジョンが出現するのは久しぶりらしく、ある意味騒ぎになっているらしい。どうやら攻略者には富と名誉が手に入るとかでダンジョンの誕生はあっという間に広がったらしい。
「あ、ちょっとダミーコアに行って来る。」
実はちょくちょくダミーコアに遊びに来ている。ある日本能が警告を発したので慌ててダミーコアに向かうと、そこには綺麗な女の人が入っていた。そして俺はばっちり見てしまった。
女の人を吸収するなんて勿体無い、俺は女の人の味方だ。正確には美人の味方と言っても過言ではない。俺はその日神秘を見たんだ。
その日以来、こっそりアラームを付けて美人冒険者が来るのを楽しみに待っている。イルナから殺さないのか聞かれたが、街に戻る冒険者がいないと不自然だから彼女はいいんだと誤魔化した。せめてこれくらいは楽しみがないとやってられないよね。そうやって自分を納得させている。
☆
「ナビ、俺の進化のタイミングは分かる?」
<申し訳御座いません。私には分かりかねます。一般的なモンスターは5・10・30あたりで進化する事が多いようです。ですのでマスターもそう遠くないうちに進化出来るのではないでしょうか。>
俺の今のLvは9だ、次で進化しなかったらLv30になりそうだ。どうしようかな、いっその事フィールドに出て直接経験値を稼ぐか?だけどちょっと怖いしなぁ、もう少しこのまま様子見かなぁ。
「ナビ、経験値をいっぱい稼ぐ方法ある?」
<一番早いのは侵入者を全員ダミーコアで吸収し、そのDPで更にダンジョンを強化する事です。DPの消費でマスターのLvも上がり、ダンジョンを強化する事でダンジョンLvも上昇します。>
「それはなぁ、分かってるんだけど現実的じゃないんだよなぁ。」
実際、侵入者を全員殺してしまったら間違いなく危険認定されて化者クラスの冒険者が攻め込んでくるだろう、そうなれば自分達が危ない。
「そういえば、神様は魔物も増えて困ってるって言ってたけど、そっちはどう対処すればいいか分かる?」
<魔物を迷宮内に召喚し、吸収する事で対処可能です。>
「その方法は?」
<方法の1つとして配下のメンバーを魔物の居る地域へ行かせて、実際にその姿を確認させます。マスターが認識した魔物をこの迷宮へ転送して召喚する事が出来ます。>
なるほど、確かダンジョンLv.10で解放された機能だったかな。あれってそういう使い方するのか。
<更に未解放ですが、ダミーコアを地上に設置しその周辺をダンジョン化する事も可能になります。そうする事によってダンジョンを広げ更なる強化になります。配下のメンバーが外部で魔物を倒してもDPには変換されませんが、ダンジョン化する事で離れた場所でもDP化する事が可能です。>
「それ便利じゃないか、いつ解放か分かる?」
<ダンジョンLv.30のようです。>
「まだまだじゃん!現状じゃ転送召喚しかないじゃん。」
取り合えずヤミの所の誰かをそっちに充ててもらおう。ちょっとDP使うけど、倒せば元は取れるしやっておいたほうがいいんだろうな。
「ヤミ、部下の誰でもいいから外の魔物を調べさせて。新しい召喚方法を試してみたいから。」
「了解しました。すぐに行動を開始させます。」
翌日戻って来たのは黒猫だった、どうやら変身出来る種族みたいだ。
「わたしは猫人のニニャですニャ、マスター外の魔物を調べて来ましたニャ。」
「じゃあ早速やってみるから見た魔物を1匹だけ強く思い浮かべてね。」
ニニャの肩に手を乗せて転送召喚の準備をする。どうやら今回はスライムらしい、転送召喚だと対象のランクの1/10の費用で召喚出来るみたいだ。スライムだとGランクで通常は100だけど、今回は10みたいだね。それと数も自由に選べるみたい。最大100匹まで同時に召喚可能と表示されてる。取り合えず1層にスライムを100匹転送召喚した。
「ありがとう、取り合えず今召喚したスライムの確認をしてから次にしよう。」
1層の様子を見てみると転送召喚した魔物は召喚陣のスライムや冒険者と戦っていた。どうやら召喚陣のモンスターが外の魔物を倒すと経験値とDPが得られ、冒険者が倒すと何も起きないようだ。このダンジョンではモンスターの死体が残るように設定しているが、多分外から転送召喚した魔物は死体が残る決まりなんだと思う。
ちなみに倒したら召喚に掛かったDPの倍が手に入るみたいだ、これは使い方次第ではいいかもしれない。そのまま冒険者に戦わせてもいいしね。ある程度ダンジョンのモンスターも幅があった方がいいだろうし。
「スライムの召喚上手くいってたよ、さて次もやろうか。」
「了解ですニャ、良かったですニャア。」
またニニャの肩に手を置いて転送召喚の準備をすると今度は最初からスライムの項目があった、どうやら一度召喚すれば記録されて次からいつでも召喚出来るみたいだ。次にニニャが思い浮かべたのは兎の魔物だった。どうやら街の近くで調べたみたいだ。取り合えず数匹づつ召喚していく。
「ありがとうニニャ、今度はもっと離れた場所の魔物もお願いね。大変だと思うけど宜しく。」
そう言ってニニャの頭を撫でてやると嬉しそうに喉を鳴らして出て行った。ちょっと勢いが凄かったから無理しなきゃいいんだけど、取り合えず今の魔物達を召喚してDP稼ぎと外の魔物の駆除を進めよう。