閑話 ある冒険者の最後の1日
その日俺達はいつもより早く狩りが終わって拠点にしているブルーランドの街へ帰る途中だった。
「今日は早めに依頼達成したし、帰ったら酒場で一杯やろうぜ。」
俺の誘いに仲間達も乗り気だ。
「いいな、今日は美味い酒がしこたま飲めそうだぜ。はっはっは。」
「おい、見ろよ。あんなとこに変な入り口があるぞ、あんなのこの辺にあったか?」
仲間の一人が怪しい入り口を見つけた。どっかの酒場でダンジョンっていうのはいきなり現れるって聞いたことがあるが、こいつらはどう思ってるんだろうか。
「俺はダンジョンじゃないかと思うんだが、お前らどう思う?」
「そうだな、俺も噂には聞いたことがあるが・・・。今日は運もいいんだし、ちょっとだけ覗いてみるか?なに、やばくなる前に帰りゃいいだけさ。今はまだ昼過ぎだしな。」
仲間の一人がそう言うので俺達は中に入ってみた。そして俺達の目の前に広がったのは草原だった。試しに出てみると外は普通の林、中は草原。全く理解できなかったが、ここは間違いなくダンジョンって事は分かった。
「なんか今まで聞いてたダンジョンとは違うな。草原とはびっくりしたぜ。」
「取り合えず進んでみるか。」
仲間の戦士が先頭に立って進んで行く。出会うのはスライムやゴブリンと言った弱いモンスターばかりだ。
「おい、あっちにもゴブリンがいるぞ、囲め!」
俺達はゴブリンくらいなら数で囲まれない限り負ける事はない。最初こそ警戒しちゃいたが段々と慣れて来た。
「なんだか拍子抜けしちまうな、やっぱ出来たばっかりのダンジョンなんだろうぜ。行ける所まで行って、最初にお宝を手に入れちまおうぜ。」
この時俺は調子に乗っていた。この先に待つ罠に気が付きもせずに。
3時間程が経ち、そろそろ引き返すか仲間と相談している時だった。目の前が開けて木の家が立っているどうやら便所も付いてるみたいだ。だけど怪しい。ダンジョンの中に住んでるやつがまともな奴なのか?
「おい、お前らどうする?」
「そうだな、そろそろ引き返すにも一度休憩してぇな。家があるって事はモンスターが寄って来ないのかもしれねぇ、ここですこし休もうぜ。」
仲間の言葉で休憩する事に決めた俺達は家の側で座り込む。すると一人が唐突に立ちあがる。
「やっべぇ、出そう。ちょっと便所行ってくるわ。」
いつもならその辺ですますのだが目の前には便所があった、俺達はどこか気が緩んでいたのかもしれない。普通なら怪しい便所に警戒もせずに入ってしまった。
しかし、何分経っても戻って来ない。
「おせぇな、よっぽどデカいの出してんのか?」
人の気配がして振り向くとそこにはメイド服を着たやたら綺麗な女が立っていた。
「お初にお目に掛かります。そしてさようならです。」
その女がニコリと笑った瞬間に俺達は意識を失った、いや正確には意識はあるが自由が利かないんだ。その女は俺達に不思議な事を聞く。俺達の強さや目的、意味がわからねぇが圧倒的にやばいってのは分かる。自由を奪われても圧倒的な強者を前に身体が震えていた。
「その程度ですか、ではもう用はありません。トイレへ行きなさい。」
そう言い残して女は消えた。そして足が勝手に便所に向かって行く。俺は行きたくなかったが身体が言う事を利かない。トイレに入った瞬間に光が消えた。
これが俺の最後の日だった。