3話 ボットン便所
<本人確認の為、コアに触れて下さい。>
「なんだこれ!?」
俺の異世界での第一声は驚きの叫びだった。なぜなら俺は所謂ボットン便所の中に居たからだ。
<本人確認の為、コアに触れて下さい。>
さっきから同じ声が聞こえる。コアってどれだ?
<コアとはダンジョンコアの略称。便器の事です。>
便器って目の前のコレか、前世の俺なら触りたくないって思ったんだろうけど、今は全然そんなことない。むしろ大事なものっていうのが伝わってくる。取り合えず触ってみた。
<本人確認が終了しました。当ダンジョンへの仮登録が完了しました。>
「この声は誰?そして仮登録ってなに?取り合えず全部分からないから誰かちゃんと説明してくれない?」
全く意味が分からない。分かったのは便器が大事で何かに仮登録された事くらいだ。
<私はチュートリアルのナビゲーターです。仮登録とは当ダンジョンのマスター登録において本人確認の為に魔力のみが登録された状態です。ここまではよろしいでしょうか?>
「なんとなく分かった。説明の続きお願い。」
<マスター登録の為には氏名から始まる本人設定、そして本拠地の設定が必要です。>
<本人設定については氏名、種族、魔法、スキルの入力。パスワードの設定をした上で魔力による本人確認で完了となります。本人設定をされますか?>
「とりあえず、保留で本拠地設定の説明をお願い。」
自分の名前とかスキルとか見方が分からないんだけど、どうやって確認するんだろうか。
<ご自身の能力については、自分の情報を確認したいと意識する事で確認が可能です。本人設定完了後はコアに魔力を流すだけで自動的に更新されます。>
「ありがとう、ちなみに今の声に出してないんだけど。もしかして心読めるの?」
<私はダンジョンと直接繋がっている為に、ダンジョンマスターの思考がある程度認識出来ます。初期はプライバシーに関わる部分だけが秘匿設定されています。こちらは本人設定完了後に随時変更可能となっています。>
なるほど、じゃあいちいち声に出さなくてもある程度大丈夫って事か。凄い高性能だな、ありがたい。早速自分の情報を確認っと。
カイ Lv.1
トイレの妖精
ダンジョンマスター
<スキル>
『吸収』
<魔法>
『トイレ魔法』
-----------------
ダンジョンLv.1
所有DP:1,0000,000
なるほど。転生課で聞いてた通りだな、こんな感じで見れるのか。
<次に本拠地の設定についてです。まずダンジョンの作成をして頂きます。初期設定ではダンジョンコアとコアルームのみです。ダンジョンポイント、以後「DP」と表現しますが、DPを使用してコアルームと入り口を繋げて下さい。入り口とコアルームが繋がった時点でダンジョンとして成立し、マスターの魔力確認をもって本拠地の設定が完了致します。>
<そして重要なお知らせと致しまして、本人設定と本拠地設定が終了後世界へ定着し、一定期間を置いて当ダンジョンは世界に開放されます。その猶予期間は一ヶ月です。この間にダンジョンの強化等を完了して下さい。開放後にダンジョンコアを破壊されると死亡となります。>
<また、今回はチュートリアルの機能の1つとして死亡後に1度だけ復活します。復活後はナビゲーションの消失、及びダンジョンマスターのLvがリセットされます。死亡までに得たDP及び施設は引き継がれ、一ヶ月間の猶予期間の後、再度開放となります。ご注意下さい。>
なるほどね、出来る限りダンジョンを強化しておかないと開放されていきなり死ぬって事も有り得るのか。これは最初から気合入れて考えないとあっという間に死んでしまうぞ。
「この世界の情報が欲しいんだけど、どうにかなる?」
<本人設定と本拠地設定が完了しない限りは出来ません。現在ここは亜空間です。情報を得る手段がありません。>
なかなか難しいな。とりあえず設定終わらないとダメって事なんだな。しょうがない、まずは設定してそれから情報収集しよう。なんとなく理解出来た。頭で理解出来たというよりも魂っていうか本質的な部分でダンジョンマスターとしてダンジョンの事が理解出来てるみたいな感じだ。
<本人設定及び本拠地設定が完了しました。これによりダンジョンが世界へ定着しました。ダンジョンコアの操作が可能となりました。>
設定が完了して。まずはダンジョンコアとダンジョンルームについて調べた。これはすんなり分かった。触れるとその情報が流れ込んで来て、マスタースキルが使用可能になった。
それによるとダンジョンルームはトイレを含めた建物の総称、そしてダンジョンコアがトイレらしい。これはマスターの本質が具現化されるようで、トイレの妖精という種族の本質がトイレとして現れたらしい。
ダンジョンコアであるトイレはダンジョンLvが上がる事で進化するらしい、現代式のトイレまでは長そうだ。そしてダンジョンルームはダンジョンLvが上がると機能が開放されていき、DPでの拡張なんかも出来るようになるらしい。
俺自身の進化についてはLvとトイレの格によって決まるらしい。ダンジョンLvを上げて大きくし、トイレを進化させる事によって俺自身も進化出来るんだとか。
進化先については自分の情報から確認可能だった、種族の欄を確認すると進化先一覧が表示されたのだ。ちなみに全てグレーアウト状態だったが、トイレの精霊とかがあって、一番下がトイレの神様だった。条件は分からないけど絶対普通じゃないと思う。そう本能が告げてる気がする。
ちなみに現時点で解放されているマスタースキルが以下になる。
・ダンジョン情報の確認
・マスター情報の確認
・ダンジョンメンバーの確認
・ダンジョン強化
さらにダンジョン強化に触れると、
・配置設定
・ダンジョンパーツ購入
・モンスター召喚
・人間召喚
・備品購入
と、いう項目が現れた。ダンジョンLvが上がるとこういった項目が増えるらしいので今から楽しみだ。
「この世界の情報を確認する手段は?」
<いくつかあります。まず備品から書物を購入する。そして人間召喚によりこの世界の情報を得る事です。>
書物はまぁ、いい人間召喚ってどういう感じなんだろう。取り合えず一通り触って見たのだが、モンスター召喚と人間召喚については種族名とかしか表示されなくて詳細が分かってない。パーツとかは見れば大体の意味とか内容が理解出来たんだけど、生き物ってどうなるんだろう。
<召喚はマスターの願望に近いものがこの世界から近い順に検索され召喚されます。この際に召喚される生物は基本的に死者・魂のみの存在から作成され、ダンジョン内の魔力によって新しい生物として誕生します。>
<ですのでマスターがこの世界の情報を欲しいという理由で人間を召喚した場合、直近まで生存していたこの世界の情報に詳しい死者が召喚される事になります。>
<そして召喚されたモンスター及び人間はマスターの配下となり、マスターの命に反する行動は出来ません。処分する場合はマスターのスキルでダンジョンから『吸収』して下さい。それによりDPとマスターの経験値へ分配されます。>
なるほどね。とりあえず生きてる人間を連れて来て奴隷みたいにするのじゃないなら精神的にはまだ大丈夫かな。多分本能はすんなり受け入れるんだろうけど、まだ地球人の意識があるから若干抵抗あったんだ。
「じゃあ取り合えず召喚してみるね。あ、これ消費DPが書いてないんだけど、どうすればいいの?」
<DPをいくつ使ってどういう存在を召喚したいか意識して召喚を実行して頂ければ大丈夫です。そのDPで召喚出来る最適な存在が輪廻の輪よりこの世界へ召喚されます。>
「DP10,000を使用し、この世界の情報に詳しいエルフの女の子を召喚っと。」
さっき確認したら備品の食パンが1DPで、書物が100DPだったからこれだけ突っ込めば俺の理想のエルフの女の子が来るだろう!頼むきてくれ!
「ここは?私は確かベッドの上で孫達に囲まれて息を引き取ったはず・・・。」
そこに現れたのは想像するのも難しいような美しい女性だった。美しく輝く銀の髪、白い雪のような肌。自己主張の激しい二つの丘の頂上は綺麗なピンク。そして生まれたままの姿、首から下には一切の毛が生えていない。理想を具現化したような完璧なエルフだった。
「え、なぜ裸?ここはどこだ?って・・・キャ!」
「始めまして、俺はダンジョンマスターのカイ。トイレの妖精で君を召喚した者です。落ち着いてお話をしませんか?」
俺は備品からロングドレスを購入し彼女に渡す。さすがにマスタールームのトイレでは不味いと思ったので設定の時に二十畳程の広間を作っておいた。今はそこに居る。
「私はリリー・バンドル、私は確かに死んだはずだ。先ほど召喚と言ったがもう少し詳しい説明をお願いできますか?」
「分かりました。まずここはジェルシードであなたは死んだ。ここまでは間違いありません。そして俺はジェルシードに新しく出来たダンジョンのマスターです。あなたをダンジョンメンバーとして召喚しました。魂や記憶は生前のままで新しくダンジョンの魔力から構築されているのであなたの一番美しかった姿になっています。俺はこの世界の事が何も分からない、あなたにはまずこの世界の情報を教えて欲しい。」
「なるほど。落ち着いて意識するとダンジョンについて、そしてマスターについては理解出来ました。ですが、私は・・・。」
彼女は自分の中で葛藤しているようだ。やはり人間としての記憶があり、いきなりダンジョンに召喚されて配下になれと言われても難しいのかもしれない。俺が命令して忠実な下僕にしてしまえばそれでいいのかもしれないが、やはりそれは最終手段にしたい。出来るだけ自然な形で彼女と分かり合いたい。
「俺は出来るだけあなたの意思を尊重したい、だけどあなたがどうしても必要だ。どうか俺を助けて欲しい、そしてこれから支え合い、共に生きて欲しい。」
俺は本心で話し、頭を下げた。まだ彼女の返答はない。そのまま彼女の答えを待つ。
「一晩だけ気持ちを整理する時間を下さい。私の知りうる情報はお話しします。ですが配下については即答する事が出来ません。申し訳ありません。」
「分かりました。一晩ゆっくり考えてください。情報についても明日で構いません。」
そして翌朝、彼女は朝食のパンを手にしながらぽつぽつと語りだす。
「私はこの世界で長い時間を生きてきました。冒険者として活躍しS級冒険者まで上り詰めました。そして沢山の事を経験し、結婚し家庭を持って子供も孫もいました。そしてベッドの上で天寿を全うしました。」
「ですが、私には大きな心残りがあります。私の死の直前、ある国の王が私の孫娘を無理やり娶ったのです。孫はまだ幼く力も弱かったのです、そして誰より美しかった。卑劣な王は私の死を待って騙す様にあらゆる手段を持って孫を連れて行きました。私はそれが許せないのです。どうしても復讐したい。」
リリーは一呼吸置いて、搾り出すように話しを続ける。
「私は自分が清廉潔白な人間だとは思っていませんでした、しかし真面目に正しく生きてきたという自負はありました。けれど私の中には醜い感情が眠っていたのです、復讐したい、人間を許さないという殺意が。一晩中考えていました、新しい自分になったのなら過去に囚われず復讐出来るのでは、いや復讐したいといつの間にか考えていました。」
「私はこんな醜い心を持った女です。ですが、それでもこの身をあなたに捧げてでも無念を晴らしたいのです。あなたが良ければ私を配下に加えて下さい。」
「俺はあなたの全てを受け入れます。俺の力になって下さい。」
俺は決して醜いとは思っていない。だって人間だもん、綺麗なだけじゃないよ。俺だって心にいろんなモノを持って生きてる。
「よろしくお願い致します。リリー・バンドルはカイ様へ生涯の忠誠を誓います。」
凛とした表情で右手を胸の真ん中に当てる。その姿はまるで絵画の女神のようでとても美しかった。
<<ダンジョンLvが上がりました。>>
<<新たな機能が解放されました。>>
彼女が配下の宣誓をするとダンジョンのLvが上がった。今回の召喚と契約で条件を満たしたみたいだ。
ダンジョンコアを確認するとダンジョン情報の確認の中にLvアップ条件の一覧が増えていた。全部で100の項目があって、達成度も確認出来るみたいだ。今後はこれを1つの指標にしてダンジョン強化を進めていこう。ちなみにまだボットン便所のままだ、頑張ってLv上げよう。こうして俺はこの世界の情報を得る事が出来た。
※新しい配下
リリー・バンドル Lv.1
ハイエルフ
戦乙女
<スキル>
『超進化』『神剣術』『覇気』『精霊召喚』
<魔法>
『強化魔法』『白魔法』
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『超進化』・・・必要経験値が大幅に減少する。
『神剣術』・・・剣術の最上位スキル。全ての剣技を操る。
『覇気』・・・気の最上位スキル。気を纏い己を強化する。
『精霊召喚』・・・自己の魔力を使い召喚した精霊を使役する。
『強化魔法』・・・肉体・精神等を強化する魔法を使用可能。
『白魔法』・・・回復魔法と一部の攻撃魔法が使用可能。