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異世界ファミレス  作者: 蓮崎文々
5/6

「ピッツァ」

・一話完結の連作方式です

・一応ファンタジーです

・訪れる客と対応するウェイトレスさんが話によって変化します

・バトル等はありません


 以上のことに注意してお楽しみ頂けると幸いです

         1


 スナミの父は事業家であり、彼女は父の手伝いをしていた。

 父はこの【エインクランド】王国において、御世辞にも成功者とはいえない。

 これまで三度ほどの成功を収めており、逆に失敗は二十を超えていた。そして現状、借金の返済に苦慮する日々であった。


 そんな父であったが、起死回生となる新事業に取り組んでいる。


 むろん娘であり、たった一人の家族であるスナミが手伝わないはずがない。ちなみに母はいない。スナミが小さい頃、父に愛想を尽かして出て行ってしまった。



「お願いっ! お父ちゃんの店を助けて、二人とも」



 スナミは友人二名に手を合わせた。

 友人とはいっても二人は年長の二十一歳。スナミは十八歳である。王都城下町の教養学舎で知り合ったのではなく、親同士が友人という縁であった。


 頼まれた二人の名は、ミレイユとアメリーン。


 ミレイユは王都の繁華街にある大衆食堂【猪の牙】亭の一人娘だ。

 アメリーンは【エインクランド】王国の商業ギルドで事務員をしている。


 美人ではないが闊達で生き生きとした魅力を備えている娘がミレイユで、やや大雑把な顔の造形をしているのがアメリーンだ。

 そんな二人に比べると、スナミは大人しそうで、目鼻立ちもどこか人形めいている。

 外見からの印象通りにスナミは自己主張が弱い娘である。


「あらスナミじゃない。どしたの、いきなり」


 ミレイユは【猪の牙】亭の厨房で食器の手入れをしていた。

 暇を持てあましているアメリーンは、話し相手を求めて開業準備中の店にお邪魔していた。

 困り果てた顔で、スナミは頼み込む。


「お父ちゃん、新しい店を始めたんだけど、人手が足りなくなって」


「ああ、そういう話ね。懲りないわねぇ、あのオッサン。アメリーン、アンタどうせ暇なんだから助けてあげたら?」


「そりゃ確かに暇だけど、ただ働きは嫌よ。給金、弾んでよね」


「う、うん。できるだけ払うから」


 歯切れの悪いスナミに、アメリーンは露骨に警戒する。


「ひょっとしてその店って人手だけじゃなくて、経営まで困っているってオチ?」


「あららぁ~~。まぁた事業失敗の危機なの?」


 冴えない表情で頷くスナミ。

 ミレイユは食器を磨く手をとめて、スナミの頭に手を置いた。彼女にとってスナミは妹に近い存在であった。

 やれやれ、という顔になって、アメリーンも椅子から腰を浮かした。


 助っ人内容は、とある飲食店の給仕であった。



         …



 三人はスナミの父が経営し始めたという飲食店へ向かっている。

 王都城下町の繁華街から少し離れた位置に店を構えたという。立地条件としては微妙だ。

 馬車の定期便の間隔が開いているので、三人は徒歩で移動していた。


 和気藹々ではなく、重い沈黙の行群であった。

 元気のないスナミを先頭に進んでいたが、無言に耐え切れずにアメリーンが話し掛けた。


「スナミってお父さんの手伝いばかりしている印象だけど、彼氏とかつくらないの?」


「彼氏? それって恋人って意味?」


 目を丸くするスナミ。

 そんなスナミに、ミレイユが笑顔を向けた。


「家族思いもいいけれど、彼氏ってできたら新鮮で幸せよ。この私が保証するわ」


「ええ!? ミレイユって彼氏できたの? いつの間に?」


 まさかミレイユに恋人ができるとは。

 アメリーンだけではなくスナミも驚きを隠せない。初耳であった。相手は誰なのだろう?

 頬を染めたミレイユは、少し恥ずかしそうに言った。


「――ラックスよ」


 二度驚いた。スナミは先日、ラックスと会った。その時、彼は「ミレイユに嫌がらせを受けた。『異世界ファミレス』に勝手に付いてきて、挙げ句、強引に俺の奢りという事にして散々飲み食いしやがった」と立腹していたのだ。話を聞いたスナミは、彼に同情した。


「ええと……。じゃあ、ラックスさんとはちゃんと仲直りしたのね?」


「え? 仲直りって?」


「だってこの前、ラックスさんと『異世界ファミレス』で――」


「あら知っているのね。ふふふ。アイツったら初デートで私に奢るのに照れちゃって」


「て、照れ!? あれぇ?」


 どういう事なのだろう。ラックス本人からの談とは真逆の話になっている。

 混乱するスナミを置き去りにして、アメリーンが言った。


「男が奢るのは当然として、ラックスじゃ金持っていなさそうね。私は御免だわ」


「それが意外にもアイツ、かなり貯め込んでいるのよ」


「うっそぉ。見栄張って嘘言ったんじゃないのぉ? ミレイユに好かれたいからって」


「違うわ。冒険者ギルドの資産・会計係にシャーリーっているじゃない? ほら、学校で同期だった。そのシャーリーから聞きだしたから間違いない情報よ」


「シャーリー? ああ、あの頭が良くて冒険者ギルドに就職した子ね」


「ちょっと待ってミレイユ。どうやって? 冒険者の資産や積立金とかは部外秘じゃ」


「付き合ってるって言って説得したわ。シャーリーは泣きそうになっていたけど、不思議だったわね。上司を呼びそうになったから胸ぐら掴んで阻止してやったわよ。あの子って友達甲斐ないわよね。で、かなり金額貯まっていたから、ラックスの為を思って長期定額に入って保険も契約しておいてあげたわ。私って良い恋人でしょ? ふふふふっ」


「ええぇ!? 本人に無断で勝手に?」


 無茶苦茶だ。しかもミレイユから罪悪感の類は全く感じられない。


「アンタもシャーリーと似た反応するのねぇ。シャーリーも青ざめて『バレたら犯罪になる』とか寝言いっていたわ。ラックスの為にやってあげたのに。理解不能ね、まったく」


「駄目だよ。ラックスさんが知ったら普通に激怒するって」


 常識的には訴えられるだろう。お人好しのラックスがそこまでするとも思えないが。

 スナミは思い出す。確か学校でのミレイユの成績は下から三番目だった。

 まあ、学業云々以前の問題という気がするが。


「だけどさぁ。いくら貯金があっても、やっぱり冒険者って将来どうなのって感じ?」


「大丈夫よ。アイツは私と結婚したら冒険者を引退して、【猪の牙】亭で修行して、二人で店を継ぐ予定になっているから」


 その言葉でスナミは己の早合点を恥じて、深く反省する。

 ミレイユは自分の都合だけで突っ走っていたのではなく、ちゃんとラックスと将来について話し合っていたのだ。色々と懸念してしまったが、二人は本当に恋人同士だったのだ。


「御免なさい、誤解していたわミレイユ。二人はきちんと話し合っていたのね」


「話し合い? え!? なんで?」


 心底から不思議そうな反応をするミレイユに、スナミは愕然となった。

 まさか話し合っていない!?

 ラックスの意志を確認したのではなく、ミレイユが勝手に決めつけていたようだ。

(可哀相……ラックスさん)

 こんな女に目を付けられてしまって。間違いなく二人は付き合ってなどいないだろう。

 無理矢理に結婚までもっていかれるラックスの哀れな未来を、スナミは幻視した。

 余計な波風を嫌うスナミは、愛想笑いを作ってこう言った。


「おめでとう! お二人の幸せを祈っているねっ」


「勿論じゃない。そうそう。結婚式にはアンタも呼んであげるから、御祝儀を奮発してね」


「あ……ウン、ソウスルネ」


 会話に疲れてきたスナミは、引き攣りそうになる笑みをどうにか維持した。



 ――そうするうちに三人は目的地に到着した。

 案内されたミレイユとアメリーンは、その店の外観に驚きを隠せない。

 スナミにしても予想通りの反応である。

 彼女の父が起死回生だと立ち上げたその店は……


 神殿と城下町の民家を掛け合わせたような、微妙なデザインの丸太小屋風の四角い建物だ。

 店舗を囲う庭が造られており、巨大な看板が立てられている。


 スナミは唖然となっている二人に紹介する。


「ええっとぉ。こ、これがあまり噂になっていない『異世界ファミレス』……



   ―― の 二 号 店 よ」



「「 に、に、二号店んンンン!? 」」



         2


 従業員用の裏口から、スナミは二人を招き入れた。

 無断で真似をしているのではない。『異世界ファミレス』の『エリアマネージャー』と名乗る人から許可を得ているのだ。

 なんでも『フランチャイズ』とかいう異世界の制度で、兄弟店を増やしているらしい。

 興味深く店舗の外装・内装を観察するミレイユが言った。


「これって『異世界ファミレス』とは違って、この世界の建物じゃない?」


「うん。潰れた雑貨屋さんを買い取って改築・改装したんだよ。可能な限り似せているつもり。で、これは本物を一着借りて私が裁縫したの。寸法は二人に合わせてあるわ」


「これじゃ異世界じゃなくてまるっと現世界じゃない」


「一号店とは違ってあくまで異世界風って事で。ほら、とにかく着てみてよ」


 差し出したのは、いまや有名な『ウェイトレス服』である。

 異世界の給仕服をスナミが手作業で複製したのだ。

 おおっ! と歓声をあげたミレイユとアメリーンはさっそく袖を通す。


「ちょっとスナミ! 寸法が合っていないわよ!!」


「ミレイユだけじゃなくて、私も!」


「ええ? 本当に!?」


「胸の布地がかなり余っているし、腰回りはキツ過ぎるわ」


「私もミレイユと同じよ。腹の肉が食い込むじゃない」


「おっかしいなぁ? 二人とも体型変わった? 知っている通りの寸法で調整したんだけど」


 ミレイユは「信じられない」といった表情で首を横に振る。

 アメリーンも「ヤレヤレだわね」と、小馬鹿にした風に肩を竦めた。


「ふぅ。まったくアンタは何年女をやっているのよ」


「生まれた瞬間からだけど……」


「本当に莫迦ねっ。いい!? 女性が寸法を申告する時には、胸は多めで腰回りは少なめ、そして体重も少なくってのが常識でしょうが!」


「それって嘘の寸法じゃない! ってか、どうして私が怒られているの!?」


 スナミは大急ぎで寸法を仕立て直した。

 内心で(この二人に頼んだのは間違いだったかも)と、不安を覚えながら。



         …



 店内に入ると――中は修羅場と化していた。

 閑散としている客入りなのに、全くといっていいほど店が回転していないのが瞭然だ。

 ガラス職人に特注したガラス扉の前で、お客さんが立ち呆けしている。

 アメリーンが呑気な口調で言った。


「あの『オートドア』故障しているの? 動かないわよ」


「い、いいい、いらっしゃいませ~~!!」


 大慌てでスナミは客が待っている『オートドア』まですっ飛んでいく。

 異世界語で『オート』とは自動という意味なのだが、スナミは手動でドアを左右に開けた。

 視線を巡らせると――案の定であった。


 扉の開閉と『ドリングバー』と『氷製造』を担当している魔導師が、今にも卒倒しそうな顔でへばっている。

 伝説の《八英雄》が一人――大魔導師エルフェス・ヴァンベルに憧れ、幼き頃より魔法を学んでいる若手魔導師のアーガスだ。

 若い餓狼といった、戦士さながらの雄々しい風貌の彼は、今は見る影もなく憔悴している。


 スナミは『ドリングバー』の設置場所へと駆け寄った。

『ドリングバー』とはいっても、本家『異世界ファミレス』の物とは異なり、複数の樽が併設されているだけの代物だ。ボタンではなくコックを捻れば抽出される単純な仕組みだ。左端が

『製氷コーナー』と銘打たれており、アーガスが魔法で氷を造っては、お客のグラスに入れていた。

 さらには『アイスキャンディー』も、アーガスが魔法で冷凍させて管理している。


 冷たい飲み物の『アイスコーナー』とは別の、温かい飲み物を扱う『スープ&ホットドリングコーナー』も彼が担当しており、こちらは魔法ではなく、焚き火で温度を調節していた。

 まさにアーガス一人で八面六臂の大車輪だ。


「大丈夫!? アーガスさん」


「へ、平気です。それよりも『オートドア』を……」


 すでに待ち客の入店が終わり無人となっているドアが、アーガスの魔法で開いた。

 魔力と体力を消耗し切っているのか、意識朦朧である。


「アーガスさん、少しは休まないと」


「で、でも。交代要員はいないし……。僕が、僕が、頑張らないと」


 と言いつつ、アーガスはスナミの腕の中で失神した。スナミは彼を抱きかかえる。

 ミレイユはスナミに訊いた。


「交代要員って? ひょっとして、この過労でくたびれた魔導師しかいないの?」


「うん。その……お給金の支払いが滞ったら、アーガスさん以外は逃げてしまって」


「まあ、見るからにキツそうだもんね。ってか、異世界の技術を魔法で真似ているのね」


「ス、スナミさん。僕は貴女の為ならば……、、むにゃむにゃ。ああぁ。両想いだったのですね。僕は幸せッ。ああぁ、スナミさん。むにゃむにゃ……」


「残ってくれたのはアーガスさんだけで。お店とお父ちゃんの為にって。魔導師なのに本当に責任感の強い真面目な人で。でもでも、満足にお給金も払えないのに……」


「色々な意味で悲惨ね、そのアーガスさん。脈は全く無いわね」


「ええ!? 脈拍が無くなっている!?」


「違う違う。そうじゃなくてね。あ。何気に意識があるのか、涙ぐんでいるし……」


 ちょん、ちょん。アメリーンがスナミの肩をつついて質問した。

 彼女が指さしたのは、中年と初老のウェイトレスである。


「ヒラヒラな服装がもの凄く似合っていないし、対応されている客が迷惑そうだけど、あれって、まさかリーバヴェイ家の奥様と大奥様じゃないの?」


「そうよ。若奥様としてハーフエルフのエルフィがリーバヴェイ家に嫁入りしたでしょ」


「知っているわ。貧乏踊り子が超玉の輿よね。ちっ、羨ましい」


「舌打ちしないでよ、舌打ちを」


 ――つい最近の話だ。

 新妻をもらい家督を継いだハミエル卿の嫁であるエルフィは、この【エインクランド】王国において、今や屈指の有名人である。


 ハーフエルフのエルフィは、義母と義祖母の息が掛かっていた使用人、総勢十数名を全て首にして、リーバヴェイ家に一大革命をもたらしていた。

 使用人の間で蔓延っていた派閥・軋轢や横領・不正を根絶やしにしただけではなく、人間社会から迫害されていたハーフエルフ達をリーバヴェイ家の使用人として集結させたのだ。


 リーバヴェイ家の住み込みとして衣食住だけを保証し、給金はゼロに近いという。だがエルフィとリーバヴェイ家に忠義・忠誠を強固に誓い団結しているハーフエルフ三十数名は、今までの使用人の半分以下の経費で、実に四倍以上の働きをしているという。

 おまけに事業拡大に際しての暗躍の噂まである。


「エルフィに『痩せるまで戻ってくるなって屋敷を叩き出された』って二人とも言っていたし、リーバヴェイ家にも面倒を頼まれたから、試しに雇ってみたんだけど……」


 本音をいえば雇いたくなかった。

 いくらなんでも年齢的に無理があり過ぎる。見た目的にも、ちょっとしたホラーに近い。

 しかし、リーバヴェイ家にも多額の借金がある手前、断り切れなかったのだ。


「なんっつーか本人達は楽しそうね。本人達は」


 超肥満体型の奥様と大奥様は大量の汗をまき散らしながら、快心の笑顔で働いている。

 だが客は迷惑そうである。もっと若い子がいいと顔に書いてある。


「ええ。若い頃に戻ったようで充実しているって。けど、お客さんには大不評で」


「そりゃ、見た目からしてアレだしね。汗だくってか、うわ、ビショビショじゃないのよ」


「あの二人、もうリーバヴェイ家に居場所ないし、遊んだり好き勝手もできないし、今が二度目の青春だから戻りたくないって。とても一生懸命だから、その、解雇にもできなくて……」


 実際はエルフィだけではなく、ハミエルや彼の父、祖父から「根をあげたり迷惑ならば、いつでも引き取る」と云われている。しかし二人は「屋敷には帰らない」と頑と譲らない。よほどエルフィが仕切る屋敷は居心地が悪いのだろう。


 店内に流れる音楽に対し、ミレイユが首を傾げてスナミに訊いた。


「ちょっといい? さっきから気になっていたけど、なんなのよこの歌」


「あ。これはね――」


 店の一角にある小舞台で、無名の吟遊詩人が、これまた無名の伴奏家の弦楽器の奏でに合わせて熱唱している。全身をカクカクと動かす珍妙な振り付けと共にだ。



 へいゆうぅ♪ えいゆうッ♪ あ、それ、その大昔っ♪ 悪い魔王が世界を支配し♪ ちぇけら! だけど世界には英雄がいたからさ♪ 八名だぜっヘイヘイ♪ だから八英雄だぜっベイベ♪ そいつらが結集したのはっ、あ、はぁっ♪



「ひょっとして、これって『異世界ファミレス』の……」


「そうよ。なんでも『ラップ』っていう『ビージーエム』を再現してもらっているの」


「こんなんだっけ? まあ、どうでもいいけど」


 とにはかくにも、スナミは基本的な決まりをミレイユとアメリーンに説明して、仕事に入ってもらった。

 スナミは厨房に移る。滞っていた調理を手伝いつつ、ミレイユとアメリーンに出来上がった料理を盆に載せて渡した。

 料亭の娘だけあり、ミレイユの盆捌きは安定している。盆の上の料理とカップは微動だにしない。逆にアメリーンは慣れていないのが瞭然で、少々危なっかしい。


 ミレイユは四席目の届け先にきて、顔をしかめた。


「なによボマイエ。最近あまりウチに来ないと思ったらこんな店に来ていたの?」


 ボマイエとは鍛冶職人で、歳は三十代半ば。師でもある親元から独立しているが、未だ独身であった。ドワーフと見間違うばかりの、毛むくじゃらで厳つい外見の男だ。


「こんな店呼ばわりかよ。ってか、オメエだってウェイトレスしてるじゃねえか」


「スナミに頼まれてね。どうかしら? 似合う? 色っぽい? 惚れちゃ駄目よぉ。ふふふ」


 ミレイユは盆を肩口に掲げるポーズをとり、腰をくねくねと左右に揺らす。

 顔は得意げで自信満々だ。鼻の穴が「むふぅ~~」と広がっている。


「大して似合ってねぇし、少しも色っぽくねぇ。そしてオメエなんかに惚れるかよ、莫迦か。いいからさっさと頼んだ料理を――」


 ぐしゃぁんッ!!


 轟音が鳴り響き、スナミは血相を変えてすっ飛んでいく。


「うわぁぁああああっ!! なにやっているのミレイユ!! お客さんを盆で殴打したら駄目でしょう! お怪我は? 大丈夫ですか? ボマイエさぁ~~ん!」


「いやだってコイツがムカつく事を言ったから……。私は悪くないわよ?」


「そういう問題じゃないでしょ! ここは【猪の牙】亭じゃなくてファミレスよ!」


「いいからいいからスナミちゃん。俺なら平気だ。ミレイユらしいし別に気にしてないよ」


「ちょっと私らしいってどういう意味よ!? 失礼ねっ!」


「殴った張本人が何言っているのよぉ! ってか、形だけでも謝罪してってば」


「イヤよ。私、悪くないもの」


 半泣きになるスナミ。

 頭から料理まみれになり、おまけに頭頂部に大きな瘤ができてるのに、ボマイエが怒っていないのがせめてもの救いとはいえ、色々と無茶苦茶である。


 さらに悲劇は連鎖する。

 聞き覚えのある声が、吟遊詩人の『ビージーエム』用舞台から聞こえてきた。



 わぁ~~たしぃの♪ 愛と恋を♪ うぅ~~けとってぇぇぇえええぇ♪



 記憶が正しければ――『異世界ファミレス』に流れていた『ジェイポップ』とかいう種類の歌で、【アーカーベー四十九】という女性だけで構成されている歌劇団の曲目である。

 仕事場を強奪された吟遊詩人は、困り顔で立ち尽くしていた。

 伴奏家は弦楽器のみで必死に曲調についていっている。


「ど、ど、どうしてアメリーンが歌っているのぉ!? 配達と注文は!?」


「ん? 友達来ていて『歌ってみてって』いわれたから。前からやってみたかったし」


「仕事を放棄しないでってば!!」


「そんな事よりも、どう? 上手い? 【アーカーベー四十九】に似ている?」


「似てないし、音痴だよっ」


 本家【アーカーベー四十九】の歌も下手だと思っているスナミであるが、アメリーンの歌は音痴を通り越して騒音に近かった。聞くに堪えない。

 他の客――とはいっても閑散としているが――が、無関心なのが救いであった。

 アメリーンというか、スナミ達の友達が手拍子しているのが、とても迷惑で営業妨害だ。


 スナミは後悔した。

(藁にも縋る思いだったとはいえ、これなら本物の猫の手の方がマシだったかも……)



         3


 今日は『異世界ファミレス』が召喚されてくる日である。

 だいたい十日に一度の割合だ。


 正式な名称は――ファミリーレストラン《イグニアス》といい、異世界イグニアスから店長であるトーゴの〔魔法〕で店ごと転移してくるのだ。

 ファミレスとはファミリーレストランの略称であり、異世界から出張してくるので、いつしか誰が呼んだか――『異世界ファミレス』が通称となっていた。


 その本家本元の店舗を目の前にして、スナミは深々と嘆息した。

 陰鬱である。許されるのならばこのまま帰りたい。

 積み重なる赤字に――父親はついに寝込んでしまった。だから今日はスナミが来た。


 お客としてではなく、『エリアマネージャ』に教務報告をしに来店したのだ。


 繁盛時間を避けている。

 それでもスナミの二号店とは客入りが雲泥の差なのが、店外の窓からでも分かった。

 スナミは入口前の階段を登り、『オートドア』の前に立つ。

 ぅうぃぃ~~ん。

 二号店とは違って、アーガスの魔法ではなく、異世界の不思議な仕掛けで扉は滑らかに左右に展開した。


「いらっしゃい。待っていたわよ」


 出迎えたウェイトレスは、瞳の大きいやや幼すぎる顔立ちをしている。視力を調整する道具――眼鏡を掛けている。この【フェアリーティア】世界の眼鏡と比較すると、異世界の眼鏡は随分と外観に凝っていた。

 体型は『異世界ファミレス』の面子においては、やや物足りない感じだ。とはいっても決して悪いというわけではない。他のウェイトレスの体型が反則すぎるのだ。


「あ、どうも。今日は私一人です。――ミナミさん」


 神妙な顔でスナミはミナミの後に続いた。

 彼女――ミナミ・コトミヤが『エリアマネージャー』である。

 なんでも監査役も兼ねているそうで、他の店員には内密で活動しているとの事だ。

 秘密はそれだけではない。なんとミナミはトーゴ店長の恋人なのだ。本来、店長と監査役が恋仲になるのは職務上好ましくないが、トーゴからの熱烈な求愛にミナミが折れたそうだ。

 もちろん二人の恋仲も職場には秘密だ。異世界語で『オフィスラヴ』というらしい。


 スナミの父は、このミナミに『フランチャイズ』加盟を勧められたのだ。


 他の客達の目を避けるように、事実避けて、スナミとミナミは隅っこの席に陣取った。

 ミナミは開口一番で訊いてくる。


「……で? 営業成績は?」


「これです」と、スナミは帳簿を差し出した。

 二十枚にも及ぶ報告書の書式は、ミナミに指定された形式に沿っている。

 軽く目を通しただけでミナミは渋面になった。


「うっわ。苦戦しているわねぇ。これじゃ来月には閉店しなきゃってラインね」


「へ、閉店……」


 覚悟していたとはいえ、ミナミの口からその言葉を聞いて、スナミは青ざめる。

 儲けどころか赤字続きなので、ミナミに支払う『ロイヤリティ』とやらも滞納していた。


(今回の『異世界ファミレス・二号店』を失敗したら、もう、お父ちゃんは……)


 スナミは泣きそうになるのを堪えた。

 とにかく『ロイヤリティ』の支払いだけでも再度、延期してもらわなければ――



「おい。――ミナミさん、コソコソと何やってんだ?」



 いつの間にか、ミナミの背後にトーゴ店長がいた。

 ミナミが振り返る前に、トーゴは彼女の頭を鷲掴みにすると、片手で軽々と釣り上げる。

 ジタバタともがくミナミ。


「痛いっ超痛いっ! 首が引っこ抜けるからっ。下ろしてダーリン」


「誰がダーリンだ誰が。アンタ、この子とその父親に何を唆して何を企てたんだ?」


 トーゴの表情を見て、スナミは悟った。

 少なくともミナミとトーゴが恋仲というのは――真っ赤な嘘であると。


「濡れ衣だってば! 私は潔白! 信じてトーゴくん、二人の愛に誓って!!」


「なにが愛だ。アンタほど信用できない女はいない。というか、イインチョウが発見したんだよ。ミナミさんが店の帳簿を二重に用意して、色々と横流ししているってな」


「それはきっと、ほら、リーバヴェイ家が王家とウチの間に入って仲介業やるって、そっちの方で担当しているアリーシアが悪いんじゃないかなって、進言してみたり」


「アリーシアは知らないとよ。他のメンバーも潔白だ。というか不正やるのはミナミさん以外は考えられないってイインチョウが言っていたし、俺も同意見だ」


「ちくしょう。あの読書女めぇ。本だけ読んでりゃいいってのに、余計な世話焼きやがって。あの女って色恋に無関心ぶるくせに、さりげなくトーゴくんに尽くすのよね」


 二人のやり取りに、スナミは遠慮がちに質問した。


「あのぅ……。ひょっとしてミナミさんが『エリアマネージャー』とか監査役とか、全部ウソだったりします?」


 トーゴは心底からすまなさそうな表情で頷く。

 対して、ミナミは悪戯がバレた子供のような顔で、ベロンと舌を出した。


「……ようやく騙されていたのに気がついたぁ?」


 スナミは力なくテーブルに突っ伏した。



         …



「ったく、しょうがないから一応は最後まで面倒みてあげるわよ」


 ふて腐れ気味のミナミは、スナミの前に料理を運んできた。

 どうやらトーゴに相当叱責された様子だ。


「人を騙しておいて、その態度ですか」


「ま、嘘ついていたのは認めるけど、出店に関しては面倒みたでしょうが。失敗したのはそっちの責任。そこを混同されちゃ……私は困らないか。アンタがまた失敗を繰り返すだけだし」


 スナミはぐっと奥歯を噛んだ。

 何も言い返せない。少なくとも現時点ではミナミにも迷惑しか掛けていない。


「でさ。ちょいと立て直しのヒント――助言しようかなと。トーゴくんに言われたしね」


「じゃあ早く教えて下さい。言う通りにすれば成功するんですよね?」


「あのねぇ。絶対に成功する商売、なんてのがあれば誰にも言わずに自分でやるっての。そもそもどういった理由で、アンタは絶対に成功する商売を他人から教えて貰えるって思っているわけ? その時点ですでに詐欺師の格好の餌じゃないの」


「た、確かに……」


「成功するかも、で、失敗した時の責任と負債を背負えるのなら――ってのが人に斡旋してもらえる商売でしょう。ノーリスクで上手い話が転がってくるなんて、何様のつもりさ」


 スナミはしゅんとなった。父が事業で失敗を繰り返すばかりか、何度か詐欺師に騙されてきた理由の一端がみえた気がする。

 ミナミは運んできた二皿の料理――の一皿目を押し出した。


「――さて、前振りは終わりで、違った文化圏に飲食店を出す際の、基本中の基本を教えてあげるわ」


 一皿目はミートパイであった。


 円形に整形したパイ生地の中に、味付けした挽肉を挟み込んである焼き料理だ。

 黄金色に焼けている円盤から芳醇な香りが漂ってくる。

 視線でミナミに促されて、中心から六等分に切り分けられたうちの一切れを食べる。


 ほどよく火が通ったパイのサクサク感と、肉の旨みが口の中に広がる。

 美味しい事は美味しい。

(でも、やっぱり、これって――)


「どう? 美味しい? 遠慮せずに正直にいって」


「あまり美味しいとは思いません。これだったら城下町のパイ屋さんの方がずっと」


「でしょうねぇ」と、ミナミはしたり顔になる。


 彼女は講釈を始めた。

 実は『異世界ファミレス』の料理にも人気不人気があり、このミートパイは不人気メニューなのだ。採算度外視でやっているからメニューに残しているだけで、営利目的ならばとっくにメニューから消えていると。


「意外でした。異世界の料理、全てが美味しくて人気じゃないんですね」


「そりゃそうよ。特にパンとパイはこの世界にも普通にあるから。この世界の人にはやっぱり舌に馴染んでいるのは、郷土のパンとパイっていうのは道理ね。アンケートっていう要望用紙があるじゃない? そこで『もっと美味しいパンやパイが欲しい』って意見が多ければ、こっちのパンとパイを仕入れようかって計画もあるんだけどね」


「そうだったんですか」


「逆に人気なのが『ライス』ね。こっちの世界では『コメ』系の穀物はあまり発展していない。むろん『コメ』とはいっても、こっちの世界にも色々あるし、『ヒンシュカイリョウ』という方法で新し『コメ』の研究も進められているわ」


 単純な美味しさというよりも、競合する同種の穀物が未発達ゆえの優位なのだ。

 人気なのは『ニホンマイ』という区分の、さらには『コシヒカリ』や『アキタコマチ』という銘柄の『コメ』との事だ。


「まあ、デザート系でもアップルパイもやっぱり売り上げは今ひとつ」


「つまり、こっちの世界ならば異世界よりも美味しいパイで勝負しろっていう事ですね!」


「慌てないの。じゃ、次はこっちの『パイ料理』といきましょうか」


 押し出された二皿目は――スナミもメニューを見て知っている焼き料理である。


「これが……パイ? パイ料理なの?」



 その料理の名称は――『ピザ』。正式には『ピッツァ』だ。



 ミートパイと同じく、皿一杯に敷かれている円形の焼き料理である。

 これも中心から六等分に切り分けられている。

 様々な具材とその上から全体を覆っている薄く伸ばされたチーズ。縁だけはこんがりと焼けた生地が盛り上がり、なさがら具材を乗せる皿のようだ。その土台となっている生地は確かにケーキでもパンでもなく――パイにしか見えない。


「ピザ生地とパイ生地は厳密には異なるし、ピザ生地だってピザの種類に合わせて様々なバリエーションがあるわ。けれど乱暴にくくるとパイの一種とみなせるかなと。少なくともパンには見えないでしょう? ピザトーストもメニューにあるけどね。とにかく食べてみて」


 ミートパイの今ひとつだった味からして、スナミは『ピザ』というパイ料理に懐疑的になる。

 決して不味くはないだろう。しかし……美味しいのだろうか?


 スナミはピザを手にとってみる。縁はしっかりしているが、中の生地は柔らかくて、手の平で支えないと、中心部から土台ごと垂れてしまう。

 異世界のチーズは不思議なくらいよく伸びる。

 垂れそうになる中心部から、スナミはピザに齧り付いた。


(美味しい……。そして不思議)


 薄くしっとりとした生地。不思議なパイだが、これがこの料理の味なのだろう。

 トマトを基本としたソースとチーズが、文字通りに口中で溶け合う。

 ベーコンとサラミを主役として、タマネギやトマト、コーンといった様々な野菜が味を奏でる。全てが一体となっている。この世界にはない独特な味だ。


「それは一番人気の『ミックスピザ』ね。具材や生地、ソースによってピザだけで九種類あるけれど、ピッツァの本場はそれこそ凄い種類があるわよ」


「本場? 『ビザ』はこの店がある国の郷土料理じゃないんですか?」


「ええ。このファミレスがある国は《ニホン》といって、ピザではなく『ワショク』っていうのがメインかしらね。その『ワショク』も変化し続けているけどね」


 人気メニューの『カレーライス』も『ニホン式』と本場『インドカリー』では異なるらしい。同じく『ラーメン』も『ニホン式』と本場『チュウゴクラーメン』は違うとの事だ。


 いつの間にか、スナミは六切れ全てを食べて、皿を空にしていた。

 その味に、夢中になっていた。


「『ピザ』もそのうち、この国で模倣する料理人が現れて、この国用にアレンジされて人々に馴染み、この国の料理となっていくでしょうね。『カレー』や『ラーメン』と同じく――」


 ミナミは云う。

 異世界どころか、異なる国においても文化や好みは異なる。

 だから異なる文化圏に飲食店を出す場合は、その郷土の好みを調査・研究して、その土地用に細かいアレンジを加えるのが大切なのだと。


「このファミレスのメニューだって、元の国に比べると微妙にこの土地用に味を変えているわ。メニューにある『ウドン』だって、元の国でも『カントウ』と『カンサイ』じゃ、汁の味が異なっているのよ。……どう? 少しは参考になったかしら?」


 スナミは丁寧に頭を下げた。

 結局――振り返るとミナミには感謝しかない。彼女と知り合えて本当に良かった。


「ありがとうございました。色々と参考、そして勉強になりました」


「じゃあ、会計は銅貨二枚に、レクチャー料が銀貨一枚ね」


「ぇぇええええええッ!? ちょっ、この流れでお金を取るんですか!?」



         …



 ミナミとの『フランチャイズ』契約は、トーゴ店長の計らいでチャラになった。

 とはいっても、借金や赤字が消えたわけではない。

 このまま二号店を続けても負債が膨らむ一方だ。早く新事業を立ち上げる必要がある。

 新しい店の案は閃いた。後は実行するのみである。


(だけど……資金がないわ。立ち上げ資金が)


 帰途をトボトボと歩いていると、正面から見知った顔が歩いてきた。

 この時間帯にこの道を歩くという事は、目的地は『異世界ファミレス』であろう。


 三人の使用人を従えた――エルフィであった。


 今や名門リーバヴェイ家の若奥様である彼女は、昔日の面影は何処にもない。

 芸術品のようなエルフィの美しさを引き立たせている、豪奢かつ無駄な装飾のない上等なドレスを、完璧に着こなしている。


 三人の使用人はいずれもハーフエルフの女性だ。


 エルフ族、ハーフエルフ共に、圧倒的に女性が多いのも事実であるが、「夫ハミエル以外の男性を、妻である自分に近付けるとリーバヴェイ家の格が落ちる」と、エルフィは徹底して男を遠ざけている。男性ハーフエルフも使用人にいるが、彼等はエルフィに近付けない。


 護衛役である女戦士。軽装とはいえ、楯まで背負っている完全武装だ。

 女戦士は、ハーフエルフに対する差別と迫害に抵抗する術として剣をとり戦士になった。しかし戦で流浪しながら安住の地を求めていた。その安住の地を授けてくれたエルフィを「マスター」と定義して、リーバヴェイ家に忠義を誓っていた。


 専属世話係である小さな幼子。

 まだ背丈が足りないので、特注で柄を伸ばした日傘を必死にエルフィの頭上に掲げている。

 娼館の小間使いで、娼婦達の暴力の捌け口にされていた彼女を、エルフィが身受けした。


 最後に、秘書然とした会計士。

 彼女はハーフエルフである事を隠し、人間の会計士として世界中を流転していた。時に歳を取らない不自然さから。時に出自が露呈して追い出され。

 そんな彼女の夢は、リーバヴェイ家を人間とハーフエルフが共存できる小国にする事。

 この会計士とエルフィは主従ではあるが、同盟者に近い関係であった。


「どうしたんですか、スナミさん。お元気ありませんね」


「エルフィこそ、どうしたの? 『異世界ファミレス』に行くの?」


「ええ。親友であるアリーシア姫との商談、そして会食に。実は近づいている結婚式とは別に、アリーシア姫の提案で披露宴を行うという話になりまして。招待状は届いていますか?」


「うん。大丈夫。それから預かっているお二人は元気だから」


「ご迷惑をお掛けしています。代わりといってはなんですが借金の返済はお気になさらずに」


 借金という言葉に、スナミは思い立った。

 どうせ現状では返す術がなく、自己破産して反故にしてしまうのならば、エルフィに打ち明けてみようと――


 ……そしてスナミは、エルフィから新しい融資の話を取り付けた。



         …



 ラックスとスパージの二人は、評判になっている新規店を覗きに来た。

 友人であるスナミが開業した娯楽店であり、順調に業績を伸ばしていると噂になっている。


「ハミエルも来ればよかったのにな。せっかく誘ったのによ」


「アイツ、結婚してから付き合い悪くなったよなぁ。なにかってーと『妻と一緒にいたいから』『妻の為にもっと出世したいから仕事仕事』ってよぉ。知ってるか? ハミエルのヤツ稼ぎを全部、エルフィに渡しているんだとよ。しかも自分から提案したとか」


「ああ。アイツ、小遣い制だって笑っていたぜ。もはや狂っているとしか思えん」


「まあ愛があって夫婦円満で当人が幸せならいいんじゃねえの? 傍目にはハーフエルフに家を乗っ取られている様にしか見えないけどな」


「俺ら冒険者はハーフエルフなんて気にしないけど、やっぱ行き場がないんだろうな。そういった社会も少しは変わればいいけどな。俺らが簡単に口出せる話じゃないが」


「ところでラックス。お前、ミレイユとどうなってんの?」


「知らねぇよ。ってか謎だよ。なんでアイツ、勝手に俺の貯金とか管理してんのか」


「用心しろよ。あの女、何考えているのかサッパリだからな」


「これでも幼馴染みだから、アイツに悪気がないのは理解しているよ。凄えバカだけどな」


 そうこう会話しているうちに、件の店に到着した。

 扉を開けて、中に入る。



「「「 いらっしゃいませぇ、ご主人様!! 」」」



 一斉に出迎えてくれたのは、メイド服を着ているハーフエルフの少女達。

 そして燕尾服を着ているハーエルフの少年達である。

 支配人としてスナミがいた。

 噂通りに、リーバヴェイ家が仲介したというハーフエルフの従業員だらけだ。



 そう。ここはハーフエルフを差別しない者だけが、客として踏み入れられる店なのだ。



「二名のご主人様、ご案内です」

 ラックスとスパージはメイド少女に案内される。


『異世界ファミレス』にあった『ソファー』なる革張りの椅子に座らせられた。

 座った二人に、数名のハーフエルフの少女が相席して、酒を勧めてきた。


「お触りは禁止ですからね。で・も。ボトル入れてくれたら、例外もあるかな~~」


「よし。俺、さっそくボトル入れるわ。一番高いやつだ。今日は俺の奢りだぜ、みんな!」


「気前いいな! スパージ」

「きゃぁぁ~~!! 素敵です、ご主人様っ」



 別の席では、「お嬢様」と持ち上げられている女性客が、伴奏家の演奏と執事少年の手拍子に乗って、酔っ払いながら歌っていた。

 その女性客は――アメリーンだ。


         ◆


 この店が、後の『メイド喫茶』『執事カフェ』『カラオケ』そして『キャバクラ』といった娯楽産業の発祥となり、【エインクランド】王国史の教科書に載る事になるとは、この時、誰も夢にも思わなかったという――

本日はここまで!


・この作品は「魔導世界の不適合者」のスピンオフです。

・純粋に作者の趣味用なので、小説(作品)としての質はご勘弁を。

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