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異世界ファミレス  作者: 蓮崎文々
4/6

「お子様ランチ」

・一話完結の連作方式です

・一応ファンタジーです

・訪れる客と対応するウェイトレスさんが話によって変化します

・バトル等はありません


 以上のことに注意してお楽しみ頂けると幸いです

         1


 エルフェス・ヴァンベルは退屈な余生を過ごしていた。


 彼は現役を引退するまで、【フェアリーティア】世界の六大陸を仲間達と渡り歩いていた伝説の冒険者であった。

 数々の冒険譚と栄誉の末――大魔導師の称号を得て、エルフェスは冒険の日々を終えた。


 正確には勇退ではなく、七十歳を超える年齢からきた体調不良を理由に、《八英雄》と称される仲間達からパーティを解消されてしまっての、強制的な引退であった。

 仲間達から決別されて早二年――今ではすっかり体調を回復して健康を取り戻していた。


 しかし現役は取り戻せなかった。


 冒険の成果としての財の蓄えは有り余っている。

 加えて冒険者ギルドからの年金も満額で支給されている。

 金銭的には悠々自適なのだ。


(つまらない。毎日が退屈だのぉ……)


 齢七十を超える老境であるが、その情熱は若き頃から微塵も衰えていない。

 白いが豊かな頭髪に経験と年輪で彩られている荘厳な顔立ち。魔術師であっても、長い旅に耐えきる屈強な体躯。

 実戦経験が浅い騎士や、冒険を知らない魔導師など、エルフェスには赤子同然である。


 しかし周囲は伝説の《八英雄》としてエルフェスを祭り上げる。


 尊敬する。

 立場に押し込める。

 エルフェスはそんな周囲の念が鬱陶しくて仕方がない。

 実用性皆無な高級ローブが重たくて、邪魔に思える。

 自分を置いて行ってしまった仲間達を恨めしく思う日々が、いつの間にか日常になっていた。


「――仲間が欲しいのぅ」


 再び世界を、この広大な【フェアリーティア】世界を駆け巡る新しい仲間が。

 しかし現役を退いている今のエルフェスは、【エインクランド】王国の宮廷魔術師であり、第三王女エリザリールの教育係であった。

 若い頃は伝説になりたいと渇望していたが、伝説となってしまった今では、夢を追っていた駆け出しに戻りたかった。


 身体は老いたかもしれないが、心は少年のままなのだ。

 いや、鍛錬と勉強は今だって欠かしていない。今は昔よりも強く賢い。

 自分の全盛期はこれからとさえ思える。


 冒険を通じて絆を育んだ国王への義理とはいえ、現状を許容したくはなかった――



         …



 裂帛の気合いとへっぴり腰。

 齢十五歳――エルフェスからすると孫か曾孫かという若年の第三王女である。

 高貴なバラのような愛らしい外見の少女の繰り出す剣戟に、屈強な体躯を誇る壮年の戦士は呆気なく弾き飛ばされた。


 レイピアの一閃で、両刃の大剣が派手に宙に舞う。


 少女の細腕からの一振りに、岩のような力こぶが盛り上がる二の腕の剣が抵抗できない。

 むろん実力の結果ではない。


「ま、参りましたぁ」


 悲鳴じみた声をあげて、稽古相手の戦士は尻餅をつく。

 エリザリールは誇らしげに胸を反らした。顔が自信に満ちている。

 見守るエルフェスはそっと嘆息した。


(下手くそめ。もっと上手く演技しないと、姫にバレるぞい)


 あまりにわざとらしい負け方だった。手抜きといっていい。

 単純に片八百長だ。

 少女の割に体力があるエリザリールであるが、第三王女という肩書き故に、誰もが接待的に応じていた。そして温室育ちの純真な姫君は、周囲のおべっかを本気と思っている。


「はははははッ! どうだ、私の剣は更なる進化を遂げた」


 高らかにレイピアを掲げてエリザリールは笑う。

 今までは、彼女を持ち上げるだけ持ち上げても、特に弊害は生じなかった。彼女が本当に剣の達人であったとしても、どの道、第三王女として生きていくのだから。



 ――だが、そんなエリザリールを揺るがせる男が出現した。



 エリザリールは剣を収めると、エルフェスに命じた。

「これならば次は不覚などとらないだろう。爺よ、いざ征くぞっ」


 大魔導師様、エルフェス卿、エルフェス様、エルフェス導師と尊敬を込められ呼ばれている彼を「爺」と呼ぶのは、エリザリールのみである。他の王女たちでさえ「大おじ様」と呼ぶ。

 エルフェスは仕方なしに一礼した。

 親友でもある国王に「なんとかしてくれ」と懇願されているが、どうにもならない。


「では参りましょうか、姫。今日は丁度、出現する日ですので」


 エリザリールの目的地は、異世界から転送してくる、とある飲食店である。

 異世界語で『ファミリーレストラン』なる大衆食堂だ。

 その店が現れる【エインクランド】王国の王都城下町の人々には、こう呼ばれている――



     『異世界ファミレス』――と。



         2


 本日の出現場所は、城下町にある歓楽通りのすぐ脇であった。

 場所が場所だけに大賑わいである。


 頑丈さに重点を置き、灰色の石畳・敷石、岩壁、そしてペンキによって防腐処理が施されている木板張りの重厚な建築物が並ぶ中、『異世界ファミレス』の外観は異彩を放っている。


 形状そのものは、この世界の建物と大差ないが、派手な色彩が目立っている。

 巨大な立て看板も派手で、さらには店舗を囲う庭と低い塀、そして入口前の階段が、まるで冗談のように見える。


 十日に一度ほどの割合で《ニホン》という異世界の国から転送されてくる大型店舗。

 転送の〔魔法〕は、この世界の魔法とは根本的に異なる奇蹟の力らしい。

 大魔導師と畏怖されるエルフェスとて、これ程の大がかりな転移魔法など不可能である。

 ましてや異世界転移など空想すらできない。


 しかし伝説の魔導書――【大賢者の予言】に、神と精霊の奇蹟による真の【魔法】の存在が記されているとの噂は知っていた。だが、その【大賢者の予言】自体が伝説の存在であり実在していないと結論されていた。要はこの【フェアリーティア】世界では空想の産物だと。


(じゃが……、異世界の〔魔法〕が実在するのならば、魔導書【大賢者の予言】だって)


 エルフェスは思う。魔導書【大賢者の予言】が実在しないと結論されているのは、早計であり、間違いなのではないのだろうか。

 いや、万に一つの可能性でも【大賢者の予言】が実在するかもしれないのならば――


 後ろに大勢の護衛を従えている馬上のエリザリールは、隣のエルフェスに言った。


「何度見ても珍奇な店構えだな、爺」


「爺はもう慣れましたがな。まさに異世界といった趣きですから」


「そうだな。私も異世界に理解を示さねばな」


 エリザリールは『駐車場』という看板が立てられている場所に馬を移動させ、杭に繋ぐ。

 エルフェスも愛馬を『駐車場』という厩舎へ入れる。簡素でもいいから屋根くらいは欲しいと思うが、異世界の厩舎なので勝手が違うのだろう。

 他の護衛達は、店の営業の邪魔にならない程度に距離を置いて、待機を命じられた。

 人数が多すぎる上に、混雑している店内に配慮しての事だ。


「ああ。十日ぶりに逢えるのだな……」


 嬉しそうに頬を赤らめるエリザリールに、エルフェスは困った顔になった。

 どうやったら姫君は諦めてくれるのだろうか。



         …



 ぅぃい~~ん。

 毎度お馴染みになっている『オートドア』が、ひとりでに開いて、二人を出迎える。


「いらっしゃいませ」


 案内に寄ってきたウェイトレスは、エルフェスの記憶にない顔である。


 少女は怜悧かつ麗容であるが、どこか中性的というか少年めいた凛々しさを秘めている。

 刃のような切れ長の目に、すっきりとした鼻立ち。唇は涼しげ。

 艶やかな黒髪を、まるで馬の尻尾のように頭の後ろでまとめている。


 その独特な美貌に、エルフェスは年甲斐もなく胸をときめかせてしまった。


「お二人様でしょうか?」


「トーゴ店長を呼んでくれないかしら?」


 エリザリールは声を大にして言った。


「店長ですか。ひょっとしてクレーム――いえ、苦情でしょうか」


「違うわ。この【エインクランド】王国第三王女である私をエスコートするのは、店の責任者であるのは当然であるし、そして私はトーゴ店長に用があるの」


「畏まりました。しかし店長に用とは?」


「決闘よ。彼に再戦を申し込む約束をしているの。そして私が彼に勝利したら――



 ――トーゴ・ドーオウは、このエリザリール・フィア・エインクランドの婿となるのよ」



 その宣言に、ウェイトレスの双眸が細まった。

 エルフェスは最近では半ば習慣となっているため息を漏らす。

 クスリ、と微かにウェイトレスの口の端が釣り上がる。


「それならば……本日はアタシが姫君のお相手を致しましょうか」


「はぁ!? トーゴ店長は?」


「生憎と急用ができて不在でございます。店の撤収時まで彼は戻りません。よって現在の店の責任者は、このアタシとなります」


 ウェイトレスは、見事な体型にあって特に形の良い胸に付いている従業員証を指さした。

『オルタナティヴ』という名前の上に『店長代理』という札も付いていた。


 彼女――オルタナティヴは云った。


「このアタシに勝てたのならば、彼を煮るなり焼くなり結婚するなり、好きにすればいいわ」


「店長代理にそんな権限なんてあるの? それに貴女、彼の何なのよ?」


 エリザリールは色めき立った。

 どうやら相手を店長代理ではなく恋敵――と見定めたようだ。

 ニィ、とオルタナティヴはニヒルな笑みを演出した。


「そうね。彼はアタシでアタシは彼、みたいなモノかしら。だからアタシの言葉は彼の言葉と解釈してくれて問題ないわ」



         …



 無料で決闘サービスには応じられないからまずは食事を――となった。


 エリザリールは「お任せするわ。この私に相応しい料理を」と、メニューを見ずに注文した。

 エルフェスは『ハンバーグランチ』を頼んだ。

 パンではなく『ライス』という穀物と、ソースは『ワフウオロシショーユ』を選択した。


『ドリングバー』も頼んだので、エルフェスはエリザリールが好物としている『カ●ピスソーダ』水をコップに注いで運んだ。自分は『ホットコーヒー』である。


「――お待たせ致しました。ご注文の品です」


 程なくして料理が運ばれてきた。

 運んできたのはオルタナティヴである。

 エルフェスは『ハンバーグランチ』はまだで、先にエリザリールの分だけの模様だ。


 それは……奇妙な盛りつけであった。


 円形の皿一枚に、炒めた『ライス』とウィンナー、そして『ハンバーグ』や『カラアゲ』といった副菜類、その他にも果物や『ポテトサラダ』までがあった。

 更には、仕切り用の溝があり、皿の中心から三角形状に分けられている。

 その各仕切り内に、前途した各品々が盛られているのだ。


 変わっているのは盛りつけのみではない。


 明るい赤茶色に炒められた『ライス』の小山の上に、国旗と思われる玩具の旗が付いていた。


「ほうぅぅ……。これはこれは」


 エリザリールは頬を緩め、満足げに「メニューにはなかったな。これはプリンセス・コースと名付けようか」と、料理を食べ始めた。

 この料亭で出される物だけあり、よほどの美味なのだろう。

 エリザリールはあっという間に食べ終わってしまう。

 エルフェスは奇妙に思った。いくらなんでも少量過ぎる。エリザリールがすぐに完食してしまったのは、その味ゆえだけではない。


「大層美味しかったぞ。まさに姫である私に相応しい大人の味だった」


「ご満足いただけて何よりです」


「値段はいくらでも要求するがいいわ。この特別料理にはそれだけの価値があった」


 オルタナティヴはしれっと言った。


「ああ。これの値段だったらこちらに記載されているわよ」


 小さめの子供用メニューを差し出して、該当ページを開いて見せる。

 その内容に、エリザリールの顔が憤怒で赤くなった。



 ――『お子様ランチ』と、記されていた。



 覗き見たエルフェスは、思わず噴き出しそうになる。これは見事に一本とられた。

 がたぁぁん!

 テーブルをひっくり返す勢いで、エリザリールは立ち上がり、怒鳴った。


「貴様ッ!! 表に出なさい! 決闘を申し込むっ!!」


「やる気になってくれて嬉しいわ」


 対するオルタナティヴは片目を瞑り、涼やかに受けて立った。



         3


 店の裏手で、エリザリールとオルタナティヴは対峙している。

 見物を希望する客も多かったが、それはオルタナティヴによって禁止されていた。


「ふふん。無様に負ける姿を見られたくないとは……情けない女ね」


 エリザリールの台詞に、オルタナティヴは肩を竦めた。

 レイピアを素振りしながら、エリザリールは訊いた。


「武器は使わないの?」


「そうね。武器ならば――これで充分」


 右手を差し向けるオルタナティヴは、人差し指を突きつけて、二度ほど弾く仕草をする。

 エリザリールの顔面が引き攣った。


「指一本とは舐められたものね。しかし教えてあげるわ。私は姫であるけれど、剣の達人でもあるのよ。生涯で負けたのはトーゴ店長のみ。その意味……分かるかしら?」


「分かるから、かかってらっしゃい。決闘は弁論の場じゃないはずよ」


「その言葉っ! 後悔させてあげるっ!!」


 仕掛けたのはエリザリールであった。

 彼女が最も得意としている剣捌きで、一気に勝負を決めにいく――


 ずびん!!


 オルタナティヴが踏み込み、右手を前に出すと、刹那、エリザリールが後方へ倒れた。

 無造作に突き出されていた右手は、拳の形ではなく――人差し指が上を向いている。

 大の字になったまま動けないエリザリール。

 その額は真っ赤になっており、プスプスと煙が上がっている。

 人差し指でおでこを弾かれたのだ。


 見守っていたエルフェスは、オルタナティヴに瞠目した。


(お見事!! なんという強さ! トーゴ殿も強かったが、彼女もまた強いっ!!)


 なにより華がある。

 単純な技量や身体能力ではトーゴが上かもしれないが、見惚れてしまうのは彼女の方だ。

 トーゴといいオルタナティヴといい、《ニホン》という異世界には、どれだけの強者がいるのだろうか。エルフェスが知る最強の戦士たちも、トーゴやオルタナティヴと比較すると子供にも等しいだろう。


 エリザリールは愕然となっていた。


「ど、どうして? トーゴ店長ならばともかく、私が女に負けるなんて。ううん。ひょっとして異世界の人間は女も特別に強いの?」



「――違うわ。貴女が単純に弱く未熟なだけよ」



 オルタナティヴの台詞に、エルフェスは肩の荷が下りた気分になった。

 今まで城の誰もが、いや国の誰もが思っていても言えないでいた真実を、ついに口にする者が現れたのだ。


「私が……弱い。そんなの信じられない」


「姫様としては強いかもしれないわ。あるいは女の子としては強いわ。何故ならば本当の戦士は姫君やか弱き女の子に本気の力は振るわない。その意味……理解できるかしら?」


 手加減されていた――という真実に、エリザリールは嗚咽を漏らし始めた。


「そ、そ、そんなぁぁあぁ。うわぁぁああああああ~~~~~~~~~ん」


 エルフェスは心を痛める。泣きじゃくるエリザリールを正視できない。

 自分に真実を告げるだけの勇気があれば、もっと早くに間違いを気が付かせられたのに。

 結果としてエリザリールをこれ以上ない道化にしてしまった。

 オルタナティヴは冷徹に告げる。


「姫として生きていくのならば、女性として生きていくのならば、その涙は武器になるかもしれないわ。男や大人の同情を誘う手段としてね。けれど男女の区別のない一個人として生きていくのならば――その涙は、悔し泣きでなければ、もしも悲し泣きならば、単なる恥の上塗り以外の意味はもたないわ」


「ぅ、ぅううっ。うえぅっく。ええっぐ。ぅぅ」


 しゃくり上げるエリザリールは歯を食いしばって、嗚咽を堪える。

 両手を当てて顔を覆い、泣き顔を隠す。


「もしも貴女が姫君として生きていくと決めたのならば、次に店を訪れた時には、姫君に相応しい真のフルコースをご馳走しましょう。逆に貴女が剣を選んで一個人としての道を選んだのならば、アタシは貴女に血が滴るとっておきのステーキを奢ってあげるわ」


 そう言い残し、オルタナティヴは店の裏口へと姿を消した。

 その背中に向かって、エルフェスは深々と腰を折った。



         …



 あれから――『異世界ファミレス』での決闘から半年ほどが過ぎていた。


『異世界ファミレス』は現在も盛況と聞いているが、エリザリールとエルフェスは一度も足を運んでいない。


「……上手く脱出できたわね」


 エリザリールは感慨深げに言った。

 場所は、豪奢な王城内ではなく、荒くれ者がひしめき合っている冒険者ギルドである。


 オルタナティヴに指一本で負けた後、エリザリールは鍛えに鍛え抜いた。

 何度も模擬戦で叩き伏せられ、体力造りでは涙と涎だけではなく、血尿も垂れ流した。

 エルフェスからの合格を機会に、二人は作戦を決行した。


 今頃、王城は大騒ぎになっているだろう。


 なにしろ『最低、三年は帰りません。十年以内には戻ります。冒険者として世界を巡ってきます』という書き置きを残して失踪したのだから。


 髪を黒く染め、頭の後ろで馬の尻尾のようにまとめているエリザリールを、【エインクランド】王国第三王女と気が付く者はいない。

 表情も意図して変化させている。切れ長の目つきを意識し、その口元は涼やかに――


 エリザリールの愛剣はかつてのレイピアではない。

 無骨なロングソードである。

 女の細腕では持つことさえ困難なそれを、今の彼女は片手で軽々と扱えた。


「そういえば、爺――じゃなかった、もう爺じゃマズイわよね」


「そうですなぁ。名前をどうしましょうか」


 すっかり失念していた。エルフェスも姿を変えている。こちらは単純な変装だ。頭髪と髭を剃って、両耳たぶに派手な宝石を付けている。誰も彼を『伝説の大魔導師』と気が付かない。

 それが――この上なく自由に感じられ、嬉しい。

 名誉は棄てた。

 築いた財も書き置きで王に任せてある。願わくば――二度と使う事がなければいい。


「爺じゃなくて、一文字つけ足してジジイでいいや」


 エルフェスはずっこけた。

 確かに老齢であるが、ジジイ呼ばわりはあんまりである。

 しかしエリザリールらしくもあり、不愉快ではない。


「ま、ジジイで結構ですが、冒険者ギルドに登録するにはそれでは不都合ゆえ、名は――ジージインスとでもしましょうか。それで愛称ジジイという事で」


「りょ~~かいっ」


 姫君と臣下という関係はこれからは秘密で、冒険者としては対等の仲間になる。


 冒険者ギルドに登録しようと窓口に向かう二人に、声を掛ける冒険者がいた。

 その二名をエルフェスは知っていた。

 若手でも指折りの有望株だ。

《豪腕》の二つ名を誇るラックスと、その相棒ともいえるスパージである。


「なんだなんだ、見ない顔だな。新米かよ」


「若い女剣士に老人の魔導師の組み合わせか。どうよ? この国で冒険するんだったら、手始めとして俺達と組まないか? 色々と便宜を図れるぜ」


 エルフェスはエリザリールを見る。

 彼女は受ける気満々である。エルフェスとて断る理由はない。

 エリザリールは彼等に歩み寄った。


「いいわ。じゃあパーティを組みましょう。クエストに成功したら『異世界ファミレス』で、とっておきのステーキを奢って上げるわ。店側と約束しているのよね」


 その言葉に、ラックスとスパージは大喜びになる。


「本当かよ! やったぁ」


「こりゃ頑張らなきゃな! で、アンタ達の名前は? 俺はスパージ。こいつはラックス」


「連れの魔導師はジジイ。あ、ジジイは愛称で、名前はええと……」


「ジージインスですぞ。まったく忘れっぽいですな」


「うるさいわね。とにかくジジイね。それで私、いや違った、アタシは……



    ――オルタナティアよ」



 呼びにくければ「オルタ」と呼んでと、少女剣士オルタナティアは片目を瞑った。

 その仕草は彼女の憧れに瓜二つである。



 後に最強と呼ばれる少女剣士と、伝説の大魔導師を彷彿とさせる謎の老魔導師。

 これが新たなる伝説の始まりになるとは――当のエルフェスさえ予感できなかった。

本日はここまで!


・この作品は「魔導世界の不適合者」のスピンオフです。

・純粋に作者の趣味用なので、小説(作品)としての質はご勘弁を。

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