春の日の出来事
暖かい春の日の出来事です。
どこからか言い争う声が聞こえる。耳を傾けると女と男が言い争いをしているようだ。
なにもこんな昼間から喧嘩をしなくてもいいのに……… と考えた。
「……… なにか言ったらどうなんですか! さっきから黙っているばかりじゃわからないじゃないですか!!」
女の声は殺気だっている。その声はだんだんと大きくなっている。
「言い訳するぐらいしたらどうなんですか! 自分は悪くないって顔をして!!」
男の声は聞こえてこない。一方的に女が怒鳴っているようだ。
「お、俺が話す前にお前が怒鳴るから話せないんじゃないか! 言い訳しろって言っても説明する暇さえ作らないのはお前のほうじゃないか!」
ついに男が怒鳴り返した。一瞬間があいた。女がびっくりしたのだろうか?
しかし………
「なによ!! 言い訳する気なの! 私になにか言える立場だと思っているの!!」
女の声は1トーン上がっているように思える。血圧が上がらなければいいけど。
「なんだど! 俺がいったい何をしたって言うんだ! 俺はな………」
男の声も女の声に覆いかぶさるように大きくなっている。しかし女もすかさず
「俺、俺って! いったいなによ! 毎日毎日飲んだくれて、遊びまわっているだけじゃないの! この……… 甲斐性なし!!!!」
「なんだと! 遊びまわっているのはお前のほうじゃないか! 俺が何も知らないとでも思っているのか!!」
「遊びまわっているですって!! あなたの稼ぎがないから、しかたなく働いて稼いでいるのは私なのよ!」
「しかたなく……… だと!! どの面を下げて言っているんだ! 真昼間から男と腕を組んでニコニコ笑いながら歩くのが仕事かよ!!」
男の言葉に女が一瞬ひるんだような気がしたが、すぐに反撃にでた。
「あなたのほうが先に浮気をしたんじゃないの! しかも6人も子供を作ってさ! 私が何も気が付かなかったとでも思っていたの!」
「なんだと! じゃあ言うけどな、そこで寝ている子供! 俺の子供じゃないだろう! 俺からは絶対に生まれない毛並みをしているじゃないか! お前だってほかの男からいいようにあしらわれて、俺の所へのこのこと戻ってきたんじゃ…」
男がそこまで言った時、女が男の頬を殴っていた。
「何をするんだ!!」
そのあとはお互い殴る蹴るの取っ組み合いの喧嘩になり、なにを言っているのかわからなくなってしまった。
しばらく2匹は庭先で喧嘩をしていた。
暖かい春の日差しが差し込む縁側に一人のおじいさんが座って、そんなネコの喧嘩を見ながらブツブツ言っている。
そこへおばあさんがお茶を持ってきた。
「なにをブツブツ言っているのですか?」
おじいさんはゆっくりと声のしたほうを見た。そこには懐かしいおばあさんの笑顔があった。
おばあさんはゆっくりとおじいさんの横へお茶を置いた。
「いやぁ、ネコが喧嘩をしているから、もし人間だったらこんな風じゃないかと思って人間の言葉を合わせてみたんだよ」
おじいさんはゆっくりと庭へ視線を戻した。そこにはもうネコはいなかった。
「私がきたら、2匹とも行ってしまいましたよ」
「そうか……… まるで夫婦喧嘩のようだったよ………」
「そうですか、夫婦喧嘩ならよくしましたから、簡単でしたでしょう」
「………」
おじいさんは何も答えずにお茶をすすっていた。
「ハンコをくださいな、行きにだしてしまおうと思って………」
おばあさんはカバンの中から1枚の紙をおじいさんの前にだした。おじいさんはそれをチラッと見ただけで、なにも行動をおこさない。
「………」
おばあさんは仕方なく、その紙をそのままおじいさんの横に置いたまま立ち上がった。それからゆっくりと玄関のほうへ向いて歩き出した。
おばあさんが玄関の框へ腰をかけ自分の靴を履いていると、後ろで何か音がした。
おばあさんはゆっくりと音のしたほうを見た。そこにはおじいさんがたっている。その手にはさっきおばあさんが渡した紙があった。
「ああ、ハンコを押してくださったんですね、あり………」
おばあさんの声はそこで終わった。
縁側には泥と血で服が汚れたおじいさんが一人、お茶を啜っていた。
暖かい春の日の出来事でした。
久しぶりの投稿です。リアが忙しかったもので…
ホラーにするつもりはなかったのですが、結局この結末を選んでしまいました。
次回は恋愛ものを書きたいと思っていますが、私のことですからどうなるかわかりません… ははははははっはは