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「レンガ作りの建物の庭に赤松が植えてあるってのもなかなかアレな光景だな」
少し、いやかなり騒ぎながら洋館の前に到着。門は解放されており、インターホンのボタンは石張り通路の先にある玄関の横。そろりと敷地内に入ると水の流れる音が聞こえてきた、松だけではない、日本庭園フルセットである
「なんでイギリスに住んでるのこの人」
「わかんない、うちに来たなら日本暮らしの方がいいと思うんだけど」
「列島の形が好きじゃないって……」
「え、あ、うん、そう」
いまだに引きずられているルカがぽつりと一言、明梨は若干混乱しつつ玄関まで前進、呼び鈴を鳴らす。そのまま十秒ほど待つも扉の向こうから反応はなく、もう一度ボタンを押して、やはり無反応のため玄関から離れた
「アポ無しだしね」
外出しているか、応対できる状態にないらしい。時間を改めて出直そうと考えラファールはスマートフォンで地図アプリを起動、ホテルの位置を探す。徒歩10分と判明したので休憩しに行こうとスマホをしまい
その瞬間、背後で砂利が音を立てた
「!」
ロシア軍に囲まれようとシールズに襲撃されようと崩れる事のなかったルカのクールフェイスが絶望に支配される。その後もザリ、ザリと2度続き、全員がその方向へ振り返った。視界を反転させ、その顔を認識する前にルカは後ろから首を抱き締められ、シグとネアが驚きながら腕を離すと全身をフリーズさせたまま引き上げられた
「アポ無しではあるが来るという情報は捉えていたよ。私が火之内仁美、隊長はどちらかな?」
アジア人の特徴である黒の長髪と黄色い肌、ぱっと見での年齢は30代後半か40代か。医者っぽい白衣を着ているが、ルカの後頭部が埋まっているのは縦縞のセーター。下のジーンズと相まって医者というよりは科学者の雰囲気が強い。その人物はまずラファールとウィルを見、すぐに明梨へと視線を移した。無表情のまま少し黙り、状態そのままでまた口を開く
「明梨嬢も久しぶりだ。来月には収支の中間報告をしに行くつもりでいたが、父上は残念だった」
「は…はい……」
「悲しいだろうが、貴女の家は日本経済に深く食い込んでしまっている、金の流れを止めることはできない。今はどうにかなっているが、本部を失った今の状況が続けば国が破綻する可能性さえある」
「はい……」
とても重要な話のはずなのだが、ぬいぐるみの如く抱き締められるルカがすべてを台無しにしている。ここまでピクリともしなかったものの、仁美が両腕をもぞもぞ動かすと呼応して痙攣し始めた
「さっそくだが本題に入ろう。核兵器のデータが入ったカプセルは恐らく嬢の大動脈付け根に癒着、もしくは埋没している。本来ならば必要な設備のある病院の手術室を使わねばならないのだが、密かにやりたいなら機材を今から揃える必要が……」
「ちょ…ちょっと待って、ちょっと待って!」
明梨は強引に話を止め、仁美の胸元を指差す。ふむんと視線を下に移し、次に右に移し、そこにあったものを確認
「なるほど」
「ふん…?」
一体何の関連性があるのか不明だが、仁美はネアを凝視し出した。周りの全員が疑問符を浮かべるも、少なくとも本人には凝視される理由があったようで、苦笑を浮かべつつもそれ以上の言葉を発さず、少々のにらめっこの後に後方へ下がっていった
「……注文は既に終えている、君達が日本を発った頃から準備を始めているが、最も時間のかかるのは人工心肺装置の5日間だ。あれが無いと何も始まらないからな、すまないが…」
「だからぁっ!!」
ビシリと、もう一度ルカを指差す。それがどうにかならない限り真面目な話など出来ようがない、が、なんのこっちゃわからないとばかりに仁美さんは小首を傾げ
「ただ5年ぶりの身体測定を」
「セクハラしてるようにしか見えない!」
「いやいや、体表面の筋肉なら触るだけで判断できるさ。そこら中ほっつき歩いていただけあって予想以上に発達している、スポーツ界に殴り込みしても問題ないくらいに。いいか明梨嬢、セクハラとはこういうものを言う」
と
仁美の右手が降下を始めた
首の横を通って元々ヘソに近い位置にあったそれがまっすぐ下に移動した場合、行き着く先はひとつだけである。明梨が目を見開き、ラファールがそれプラス口を押さえ、その背後にいたウィルがバッグへ向かう腕を掴んで阻止。他大勢の乾いた笑いを受けながら、右腕は目的地へ到着
どこかで甲高い鐘が鳴った気がした
「ーーーーッ!!」
さすがに痙攣どころでは済まず、声にならない声を上げながらルカは魔手から逃れたがる。しかしさすが医者、最低限のパワーで身体の要点を押さえて動かさない。身体測定であるはずなのに、確認した後もガッチリ掴んでいらっしゃる
「カメラカメラカメラカメラカメラ……」
「やめろ腐女子!!」
こっちもこっちで大惨事であるが
「おや、予想を遥かに上回るな。使ったぶんだけ成長するという話が真実であるなら、この5年間で付き合った人数は……」
「わあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
そして大惨事極まる中、ルカは魔手もクールキャラも投げ飛ばして絶叫した




