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「この通りの先に小さい洋館があるのよ」
「それは世間一般的な小ささか?自宅と比較して小さいって意味か?」
「うちがアホみたいにでかいって事くらい弁えてるわよ!」
イギリス支部から借り受けた車両を路肩に放置し、病院に搬送された正宗を除く全員は歩道へと出る。ライフルを提げた完全装備のままなので車外へ出た瞬間に人ごみがクレーターを形成した
「で、どんな人?」
「正直な話、何考えてるかわかんない人なのよね。パパの旧友で年に1度は必ず会うんだけど、私にだけ敬語使ったりするし」
「そりゃ敬われてねぇ、イジられてんだ」
「そうね!あんたと同じで!」
明梨は通りの先を指差す、赤レンガで作られた館が確かにあった。しかし庭先にはよく手入れされた松の木が植えられており、日本人が住んでますと主張していた。建造物全体は館と呼ぶには確かに小さい、それでも一般住宅よりは遥かに大きいが
「あぁでも業務提携したのは比較的最近で、確か5年前、所属してた財閥が解散したからって…あ……」
5年前に解散した財閥なんてオルネイズ以外に無いことを思い出し、明梨は話すのをやめルカの姿を捜す。後ろ姿はすぐ見つかった、道路脇にある店舗の前、シグと一緒にいる
が
「ちょっと何やってんの!?」
そこはテイクアウト方式のアイスクリーム店で、両者はおそろいのアイスを購入していた、しかも3段。とはいえおそろいはアイスだけで、シグはご満悦な表情、対しルカは目が死んでいる
「この店うまいよって言ったらこうなった」
そういえばここは地元であったか。最後にアイスクリーム屋の主人と握手、明梨を守る輪形陣へ戻る
「僕の家の元構築員?名前は?」
「覚えてねーの?仲間でこのへんに住んでた奴」
「ロンドン在住の人なんて何十人といるよ。それとシグ、もっと離れて」
ひとまず部隊は歩き始める、目的地はすぐそこなので規則性はなく各々がばらばらと
「日本人なんだけどね、変わった苗字で、火之内っていう」
僅か5メートル、部隊の歩は停止した
「……ごめん、なんて?」
「火之内よ、火之内 仁美」
ぴたりと止まってしまったルカに合わせて全員が立ち止まり、うちメルが顔色を伺いにかかる。皆の心配をよそにルカは脂汗を滲ませ始め、バニラミントレモンと連なった3段アイスのうち上2段を墜落させた。バニラはメルが空中口キャッチ、路面にミントがぼとりと落ちる
「ルカくんを動揺させるには傷んだ生牡蠣でも食わせるしかねえと思ってた」
「シャレにならない例えね」
ウィルとラファールが背後で会話、バニラアイスを飲み込みながらメルは手を振り、やがて何か思い出したかの如く手を叩く
「天敵が1人いるって北京で言ってたよね、あれって……」
メルの指摘を手で制止、残ったレモンアイスを口止めに使いルカは進行方向を180度反転させた。ラファールへ手を振りながらG36Cを置くべく車の方へ
「用事を思い出しました」
「いやいやいやいや」
車にすら辿り着けずラファールに肩を掴まれ心底悔しそうな顔。ちょっといなくなるくらいいいじゃないかと言いたげだが、悲しい事に脱走に関しては前科があった
「はい連行ー」
「ああああああ……」
有無を言わさず身柄をシグへと引き渡し、ネアと一緒に片側ずつ腕を拘束、CIAに捕縛されたタリバン兵よろしく引きずられていく。ようやく部隊は移動を再開し、漢字とローマ字で火之内と書かれた表札を目指す
「シグさん、カメラの準備は?」
「万全だ、何枚でもいける」
「やめてください……」




